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さてはこの子たち、美人に弱いタイプだな?


思わずニヤニヤしちゃうと、二匹も私の表情に気がついたみたい。ちょっとバツが悪そうに、だんだん視線をそらしていく。


いやぁ、まぁねぇ。美人の前ではちょっとカッコつけたくなるもんだよねぇ。なんて思いながら、篠上さんから言われたマニュアルを取り出す。


手の平サイズの、小さいノートみたいなものだ。厚さだってあんまりない。

表紙に「手引き書」だなんて書かれてなかったら、きっとメモ帳と勘違いしていたと思う。それくらい、なんてことない本だった。


「本当にこれを読むだけで大丈夫なのかな……」


篠上さんのことは信じてるけど、この本のことはちょっと、疑ってしまう。

だって薄いんだもん。


それでもまぁ、篠上さんが言うことだし? と、試しにパラッとめくってみる。


「え?」


それを見て、驚いた。


白紙だ。なんにも書かれてない。

どのページをめくっても、上から見ても、下から見ても、ひっくり返してみたって全部真っ白だ。


嘘でしょ、なにこれ!?


「ねぇ、篠上さん……!」


助けてって言いかけたとき、マニュアルの白紙に字が浮かんできた。

ぎょっとした私の目の前で、誰かがその場で書いているように、どんどん文章が書き込まれていく。


☆ はじめてのお客さま対応 ☆


ゆかりさん、はじめまして! 死神様運営特別薬剤店、初心者従業員用マニュアルブックです!

気軽に【マヌ】って呼んでくださいね☆


まずははじめてのお客さま、おめでとうございます!

接客って緊張しますよね、ハラハラしますよねー!

どうやってこのお店に来たの? なんで魂だけになっちゃってるの? 知りたいことはいろいろあると思います!

だけど、そんなのどうやって聞いたらいいか分からない……

そんなお悩みも、マヌと一緒にしっかり解決!

困ったときは、私を見ながらお客さまとお話ししてみてください!


「お、おぉう……?」


……なんだかとっても、思ってた感じと違う。


こ、こんな少女マンガ雑誌のふろくみたいなノリで書かれてるもんなのかな!? これ、本当に篠上さんが使ってるヤツで合ってる!?

合ってたら合ってたで、篠上さんのイメージがかなり変わっちゃうんだけど!?


大混乱している私の前に、ネコさんがぴょんと飛び乗った。


「勝手にウロウロしてしまってすみません。拝見したところ、こちらはお薬屋さんなんでしょうか?」

「は、はい。ええと……!」


チラッとマニュアル──マヌさんを見る。


☆ はじめての接客 ☆


このお店に来たお客さまはみんな、なにか事故にあってる魂ばっかりです。

だけどみんな、その自覚がありません。

どうやってお店に来たのか、なぜここにいるのか、記憶が曖昧になっているんですね。

なので、最初にお客さまの話をよく聞くようにしましょう!

サラッと大事なことを言ってることもあるから、ちゃんと注意してお話ししてね!


見直しても、やっぱり少女マンガ雑誌のふろくのノリだ。

ものすごくわかりやすいけど、本当に合ってるのか不安になる。


それでも、きっと篠上さんには頼れない。だったら、マヌさんに賭けよう!


「あの、お客さんはどうやってこのお店に……?」


ドキドキしながら、話しかけてみる。

もしかしたらこういう話しかたはダメなのかもしれないけど、ほかに思いつかなかった。


敬語とか、尊敬語とか、国語でちょっと習ったような気もするけどよく覚えてない。

それなら変な言葉づかいになるより、普通に話したほうがいいと思えた。


ネコさんは私の話しかたなんて気にしなかったみたい。

少し上を向いたまま目を閉じて、それがねぇって耳を動かした。


「気がついたらこのお店の前にいたんです。確か、おうちでひなたぼっこをしていたと思うんですけれど」

「ひなたぼっこですか」


おうちの中で、なにかあったのかな。


「お昼寝はしてました? たとえば、寝ながらものすごく暑かったとか……」


おうちの中でひなたぼっこをしているときの事故っていうと、熱中症くらいしか思いつかない。

だけどネコさんは、ふるふるとふわふわのほっぺを左右に振った。


「いいえ。お昼寝はしましたけど、すごく気持ちがよかったんですよ。──ああ、でも」


なにか、思い出してくれたみたい。

ふてくされるみたいに、ネコさんは大きな目を半目にした。


「あのね、うるさい人が来て目が覚めたんです」

「うるさい人?」

「そう!」


てしっと、ネコさんがレジ台を叩く。


全然力が入ってない、かわいすぎるパンチだ。もうこれだけで、どれだけ箱入り娘としてかわいがられている子なのか、よくわかる。


そんな私の感想なんて気づかず、ネコさんはぶんぶんと大きくお尻尾を揺らした。


「あの人が来ると、おうちの中がうるさくなるから本当にイヤで……頭がクラクラするんです。あぁでも、勘違いなさらないでくださいね。私、私を可愛がってくれる家族のことは好きですし、お客さまをおもてなしするのも大好きなんです。ただ、その人が苦手なだけで」

「なるほどぉ」


ネコさん、愛想を振りまくタイプなんだ。お客さんをメロメロにしちゃうネコさんなんだな。

死神さんの養女です。魔法の薬屋やってます

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