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俺には気になっている人がいる。その人は、男だ。そう、俺は俗に言う同性愛者なのである。女の人に告白されたことは何度かあったものの、1度も俺に響くことは無かった。ただ、あの人にだけはどうも心臓がうるさい。名前は、犬飼狛(いぬかいこま)。俺は犬飼さんと呼んでいる。犬飼さんとは中学の時に初めて会った。横顔がとても綺麗で、身長が高い。特に顔がいい。まさに女子の格好の的。犬飼さんの周りにはいつも女の人がいて、男子からも人気だ。俺も友達はいるにはいるけど、あいつらはみんな彼女がいて日々が充実しているようだ。俺も、犬飼さんと付き合えたらどんなに幸せなんだろう。なんて、夢のまた夢だけど。俺は犬飼さんと喋ったことが全然ない。中学が同じで、高校も同じで、なんなら今現在1年4組クラスまでもが同じなのに。理由は至って単純、さっきも言った通り周りの人が鉄壁すぎて話す隙がない。まぁそりゃそうだ、犬飼さんはみんなの人気者。俺なんか眼中に無いんだ。はぁ、なんか萎えてきたな。
「おい、綾〜?聞いてる?綾ってば」
「あ?」
そこで俺は現実に引き戻された。気づけば三限目はとっくに終わっていて休み時間に突入していた。
「綾く〜ん?まぁたそんなぼーっとしちゃって〜。まさか、好きな人のことでも考えてたり〜?」
「っな!そ、そんなわけないだろ!ば、バカかお前っ!」
「いやいや綾くん、あからさま過ぎ。てか、授業聞いてなかったでしょ。分かるよ〜?だってノート見てみなよ。ほとんど文字ミミズじゃん。」
そう言われてノートを見てみると、これはひどい。黒板の前半部分しかかいてない上に、ほとんどの文字がクソ汚い。
「珍しいね〜綾く〜ん?綾くんはもっと真面目だったと思うんだけど?」
「っるせぇ。」
「あらま綾くん、反抗期!?んも〜、小学生の時はもっと可愛かったのに〜。」
このクソウザイやつの名前は松井鈴助(まついりんすけ)。一応家が近くて、こいつとは幼馴染のような関係だ。幼稚園から高校までずっと一緒で、こいつとはよく遊んだりもする。こいつに現在彼女は…いるかなんて知らない。そんなことはどうでもいい。こいつがなんで俺とこんなにつるんでくるのかは未だによく分かっていない。こいつは所謂陽キャだ。陽キャの中でもリーダー格を担っている存在、俺とは正反対だ。俺は、傍から見ればただのメガネガリ勉陰キャ…。自分で言っていて苦しくなってくる。ただ、俺には勉強くらいしか取り柄がない。運動なんて全然だし、顔も良いわけじゃない。俺はそこら辺にいるモブなのだ。そんなモブの俺が犬飼さんに恋してるなんて、正直笑える。はぁ、病むわこんなん。
「…綾の好きな人って誰なの?」
「は?いたとしてお前に話す義理なんてないだろ」
「そっか」
「…?」
なんだか鈴助の様子が少しおかしいように感じた。あいつの好きなやつと俺の好きな人が被っていないか心配だとか?いや、でもあいつは俺が同性が好きってことを知ってるから、そんな心配する必要なんて無いはずだ。あいつはモテるだろうし、なら、なんだ…?
「ねぇ、あなた綾くんでしょ?」
「え、あぁ、はい」
突然女子が話しかけてきた。俺のようなメガネガリ勉陰キャに話しかけてくる女子などほとんどいないので、正直内心ギョッとしている。
「綾くんってさ、今日学級委員の仕事で教室残るよね?」
「そうだね」
「じゃあさ、今日の掃除当番変わってくれない?今日用事があってさ、どうせ教室残るんだし一石二鳥ってやつ?だから、やってくれるよね?」
あぁ、これは所謂押し付け。用事と言っても、これは…犬飼さん関連だな。あらかた、帰りに犬飼さんと帰るつもりなんだろう。クッソ、こんなん断って…!
「いいですよ。俺は学級委員ですし、仕事のついでに掃除くらいできるでしょう。用事なんですよね?頑張ってください。」
「あぁ〜マジありがと〜。学級委員様様だわ〜笑。犬飼く〜ん!私今日暇だから一緒に帰ろ〜 」
「あれ?掃除当番じゃなかったっけ?まぁ、暇ならいいよ一緒に帰ろう」
「やった〜笑」
クッッッッッッッッソ!!!!!!断れなかったッ!女子の圧怖すぎだろ??てかもうあれは隠す気ないじゃん?!感謝なんて微塵もしてませんって顔してるし!あぁ〜もう、学級委員なんてなるんじゃなかった。必然的に犬飼さんと接触できると踏んでいたはずが…!
「あれ〜?綾、次移動教室だよ?こんなとこで道草食ってると学級委員様が授業に遅れるよ〜?」
「あぁ…そう、だな」
「……。掃除でも押し付けられた?顔に書いてあるけど。」
「なんで分かんだよ…。はぁ、ほんっと、これだから女子は無理なんだよ…」
「…、掃除手伝ってあげるよ。」
「は?」
予想だにしなかった言葉に、思わず俺はびっくりしてしまった。びっくりしてしまった理由と言っても、
「お前、今日女子と帰る約束してなかったっけ?お前結構モテるじゃん。彼女いるかどうかは知らんけど」
「いいよ!最近綾と帰ってなかったし。その女子もそれくらい許してくれるよ」
「そ、そうか。ありがと」
思いがけない掃除係が手に入った。これならさっさと帰って恋愛講座の本が読めるな…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして放課後。無事、例の女子は用事と称し犬飼さんの隣を占拠することに成功していた。そんな中俺は学級の物を運ぶため職員室と教室を行き来している。
「あ〜クソ、重てぇ。クラス全員分のノート、意外と分厚くて重い…。」
俺たちの教室は1階にあり、職員室は別棟の3回に存在する。だからこそ階段がキツイ。でも、もう少しで1回の階段に差しかかる。
「ここさえ超えれば、あとは教室掃除だ。よぉし、気合い入れるぞッ 」
「おーい、綾〜?ちりとりが見つかんないんだけどどこか分かる〜?」
「あ?それは今3組に貸してて…っあ」
それは突然のことだった。何かにつまづいた。これは…階段の滑り止めが剥がれかけているせいだ。そこにつまづいたんだ。世界が逆さまになる。ノートが宙を舞っている。世界がゆっくりに見える…これは、死ぬかも…。
「綾ッ!」
「鈴助っ_!?」
広い廊下に大きな音が炸裂した。ノートはバラバラと落ちて、俺は…あまり痛くない?
「なんで俺…って、鈴助!お前、なんてことしてんだ!」
鈴助は俺を助けようと飛び込んだ結果、俺の下敷きになっていた。
「あぁ…、綾っ、平気?」
「こっちの心配じゃねぇ!お前、何してんだよ!?何助けてんだよ…なんで!!」
鈴助の額からは少し血が滲んでいた。他にも、口元を切ったのか口からは血が出ている。
「綾が無事なら良かったよ…。綾って運動神経ないし…笑」
「っ、冗談言ってる余裕はあるんだな??あぁ、もうっ!」
俺はハンカチで鈴助の額の血を拭ってやる。ノートの端でいろいろなところを切っていたようで、所々に切り傷が見られる。
「綾?」
「んだよ、じっとしてろっ…」
「…心配してくれるんだね」
「はぁ?お前は俺の数少ない友人だ。こんなことになって…何もしない方がヤバいだろ。」
「綾、泣いてる…?俺は見かけほど重症じゃないよ?」
「うるせぇっ…泣いてねぇ…。」
目頭が熱い。鼻も詰まってきた。身体中の体温が上がっているように感じる。あぁ、心配だ。心臓が今までにないほどバクバクしている。心がザワザワする。このまま鈴助が居なくなってしまうんじゃないだろうか?このままじゃ…。思考がまとまらない。呼吸も荒くなってきた。
「綾。大丈夫、俺は平気だから…ね?」
その言葉を聞いた時には俺の体は鈴助に引き寄せられて…。口元に柔らかい感触があった。
「ちゅうっ」
そんなリップ音が廊下に響いた。鈴助は俺の背中をさすりながら、ゆっくりと呼吸をした。これは、人工呼吸というやつだ。こういうのはこんなガッツリ口をつけるもんじゃないんだが…。
「っふ、んぅ、はっぁ」
次第に呼吸は落ち着いて、気づけば俺は、鈴助に頭を撫でられながら抱きついているような形になっていた。
「綾ってさ、頑張りすぎなんだよ。元々心配性なくせして、普段からあんな頑張すぎてたらこういう時にパニックになっちゃうよ。」
「鈴助…は、本当に大丈夫なのか?俺の前から居なくなったりなんてしないよな…?」
「…?そんなことしないよ。今は一旦保健室に行こうか。」
「そうだ…な」