テラーノベル
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英帝は書斎で書類仕事をしていた
ふと、気配に気づいて顔をあげ、ドアを振り向く
コンコン
使用人「失礼します」
英帝「いいぞ」
入ってきた使用人はなぜか気まずそうな表情を浮かべていた
英帝「何かあったか?」
言いづらそうに使用人は口を開く
使用人「英帝様、植民地様たちを……誰か一国でいいので独立させることはできませんか?」
英帝「は?」
聞き間違いかと、英帝は眉をひそめる
使用人「仏帝様との戦いで財政が厳しいのです。植民地様たちはとてもたくさん食べますし……」
それは紛れもない事実だった
仏帝を倒すためにかかった莫大な費用
普段なら大丈夫だが、今だけは植民地たちの食費や教育費がかなりの負担になっていた
国の代表として未熟な国の化身はよく食べる
国の代表になればちゃんとした自国(領土や経済基盤)があるから最悪食べなくても生きられる
けれど、まだ未熟な化身は存在するために食事でエネルギーを補う必要がある
使用人「英帝様」
沈黙を守る英帝に、使用人は意を決したように、ある一枚の報告書を差し出した
使用人「アメリカ様が一番よく食べます。知識も経験も思考力、すでに独り立ちするために十分なものを持っています。それに、もうそろそろ見た目年齢も十代後半ぐらいの、国の代表としてふさわしい姿になります」
その頃、アメリカは廊下を歩きながら英帝の姿を探していた
また、新しいことを覚えた
それを早く聞いてほしかった
植民地アメリカ(あれ、珍しい。英帝様の書斎が閉まってる……)
いつもなら開いているはずの扉が閉じているのを見て、不思議に思いながら足音を忍ばせて近づく
そのとき、中から聞き慣れた声が漏れ聞こえてきた
英帝「――アメリカを、独立させる」
植民地アメリカ(…え?)
がつんと頭を殴られたような衝撃が走り、その場から一歩も動けなくなった
『独立』
言葉としての意味なら勉強したから知っている
誰の力も借りず、一人で自分の国を運営すること
他の完成された国の化身たちと対等に国際社会でわたりあっていくこと
――つまり、この家から出ていくということ
指先がすうっと冷たくなっていく
心臓の音がうるさいくらいに耳の奥で鳴り響く
アメリカはふらふらとその場を離れた
「英帝に聞いてほしい」と思ったことなど頭の中から綺麗に吹っ飛んでいた
自分がどうなるのか
やはりこの家を出なければいけないのか
自分の国を運営しなければいけないのか
何もわからない
……わかりたく、なかった
植民地アメリカ「…独立…」
自室に戻ったアメリカは、自分がこれからどうなるのかもわからないまま、ぼんやりと荷物をまとめ始めた
なんとなく、もうそれは決定事項のような気がした
きっとこれからはこの家に、子供として未熟な化身として帰ってくることはできないのだろう
国の運営方法なら、とっくに頭に叩き込まれている
それなのに、押し寄せる不安と寂しさが心を埋めつくしていく
植民地アメリカ「…泣いちゃだめだ。泣いたのがバレたら、きっと心配される」
誰に?
――まだ頼りない弟や、妹に
―――いつも気にかけてくれる、イングとスコットに
そして、英帝も……
植民地アメリカ「…………」
いや、英帝はわからない
自分が嫌いだから、独立させたいのかもしれない
普段からあまり喋ってくれないのも、本当は……
植民地アメリカ「…そんなことない」
ぶんぶんと首を振って最悪なひらめきを無理やり打ち消す
英帝は、ただ口下手なだけだ
前に本人だってそう言っていた
イングとスコットも、「あいつはいつまでたっても口下手な奴だ」と呆れたように笑っていた
きっと昔からそうなのだろう
自分を嫌っているわけじゃない
植民地アメリカ「ふう」
ひとつ息をついた
荷造りは大体終わっていた
植民地アメリカ「…カナダ達に」
重い腰を上げ、自室のドアを開ける
みんな今頃は居間に居るはずだ
英帝「…やはりか」
アメリカの部屋の扉を開けた英帝はぽつりと声を漏らした
部屋の真ん中に大体まとめ終わった荷物がそのまま置いてある
話をしていたとき、扉の向こうにアメリカの気配を感じていた
アメリカは聞いていたのだろう
自分が独立させられるという話を
本当なら、悲しくて、寂しくて、不安でたまらないはずだ
なのに、あの子は自分に何も問い詰めず、何も聞かないまま、静かに荷造りをした
英帝「…強い子だな」
呟いたその言葉は、静まり返った部屋に透明なまま消えた
アメリカは居間のドアをそっと開ける
中にいたカナダと、真っ直ぐに、ばっちり目があった
植民地カナダ「あ、兄さん!チェスやろー!」
カナダは駆け寄ってきて、アメリカの手を掴んでグイっと引っ張る
カナダはチェスの相手をしてくれる人を探していたところで、ちょうどそこヘアメリカがやってきたのだ
植民地アメリカ「え、う、うん!」
断れなかった
カナダがあまりにも嬉しそうで、楽しそうで
これから自分がこの家を去るかもしれないということを伝えて悲しませたくないと、その笑顔を壊したくないと思ってしまった
植民地アメリカ「…………」
結局就寝時間になるまで弟たちと遊びまくってしまった
そんなつもりはなかった
独立する前にみんなと少し他愛もない話をするだけのつもりだった
でも気づいたら夢中で遊んでいた
…とても、楽しかった
スコット「ほら、もう寝るよ〜」
スコットがみんなを廊下に連れ出す
みんなぞろぞろと居間から出始める
植民地カナダ「ねぇ、兄さん」
植民地アメリカ「ん?何…」
ぎゅっ
不意に温かい衝撃が走った
カナダがアメリカの体に真っ直ぐ抱き着いてきたのだ
植民地アメリカ「へ!?」
突然のことに、アメリカは驚いて固まった
アメリカの声に振り返ったインドも声をあげる
植民地インド「あれ、兄ちゃんたち何してんの?俺もぎゅってする!」
どんっ、とインドも勢いよく抱き着いてきた
植民地アメリカ「ぐふっ…!ちょ、何するんだよ…」
インドもすでに身長がそこそこある
アメリカが兄弟の中で一番大きいとはいえさすがにキツイ
植民地インド「なんとなく!」
植民地カナダ「なんとなく〜」
二人とも理由なんてなさそうににこにこ笑っている
イング「こら、そんなとこで立ち止まるな。行くぞ」
後ろからやってきたイングが背中を押す
植民地インド「いえーい!」
インドがアメリカの手をぐいぐい引っ張って走り出す
植民地カナダ「あはは」
カナダもぎゅっとアメリカの手を繋いで廊下を少し走る
引っ張られるままに足を動かしながら、アメリカもつられて笑った
アメリカの部屋は子供たちの部屋で一番居間に近い
だからいつも一番先に「あしたまでまたね」を言う
アメリカが部屋に入り、静かに扉が閉まる
残された廊下を歩きながらインドは小声で隣のカナダに問いかけた
植民地インド「カナダ、なんでアメ兄に抱き着いたんだ?」
植民地カナダ「なんとなくだよ」
植民地インド「嘘だよな。なんとなくで何かするのは俺の専売特許だ」
カナダは少しだけ視線を落としてぽつりと言った
植民地カナダ「…明日か明後日ぐらいにわかるかも」
植民地インド「ふーーん………?」
はぐらかしたカナダをインドはジトっとした目で見つめる
だが、どれだけ見つめても、今日のカナダはこれ以上白状しなさそうなことくらい分かっていた
植民地インド「ま、いいけどさ。俺も抱き着いたの、役に立った?」
植民地カナダ「立ったよ。きっと」
次の日、早朝
植民地アメリカ「暗いなぁ…」
まだ地平線の下に沈んでいる太陽の光がぼんやりと辺りを薄暗く照らしている
夏とはいえ早朝の空気は肌寒いくらいに涼しい
白く立ちこめる朝もやが庭全体を幻想的な風景に変えていた
ふと、ある植物が目についた
植民地アメリカ「アザミ…。ニュージーランドが好きだったな」
使用人やニュージーランドが毎日熱心に世話をして、アザミは美しく咲き誇っている
植民地アメリカ「ニュージーランドは青いアザミが一番好きだったっけ」
ニュージーランドがあまりにも青いアザミを愛好しているせいで、この広い庭だけでなく屋敷の中にまで青いアザミがたくさん飾られている
しゃがみ込んで花を見つめた拍子に、肩掛けカバンがずり落ちそうになった
植民地アメリカ「おっと…、よいしょ」
カバンを肩にかけ直し、立ち上がる
植民地アメリカ「またな、カナダ」
アメリカは、静まり返った屋敷の方に向かって――違う、近くにある植木の隅に向かって言葉を投げかけた
植民地カナダ「…なんで気づいちゃうかな」
植え込みの陰から苦笑したカナダが姿を現した
植民地アメリカ「カナダ、知ってたのか?」
植民地カナダ「様子が変だったから、見張ってただけだよ」
その顔にはうっすら隈が出来ている
植民地アメリカ「だからって寝不足なのは良くないだろ」
アメリカは呆れたように言うが、カナダはきっぱりと答えた
植民地カナダ「兄さんを見送れないくらいならいいんだよ」
『――気を付けて』
二国の声が重なっていた
一つは目の前のカナダから
そしてもう一つは――自分の真後ろから
植民地アメリカ「ーーっ!!」
植民地カナダ「あ…英帝様……」
アメリカはどうしても振り返ることができなかった
今振り返ったら、絶対に泣いてしまう気がしたから
最後くらいは泣かないで、堂々とこの家を出て行きたかった
植民地アメリカ「…なんで来たんですか、英帝様」
後ろに向かって、震えそうな声を必死に抑えて問いかける
英帝「見送り」
植民地アメリカ「…………」
それ以上もう喋れなかった
アメリカは地を蹴って勢いよく駆け出した
走って、走って、庭園を走り抜けて、敷地の外に飛び出た
植民地カナダ「…英帝様。兄さん、顔拭いながら走ってますね」
英帝「ああ。そうだね」
英帝も優しく笑っていた
遠ざかっていく背中を照らすように、いつの間にか朝日が昇り始めていた
砢
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コメント
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へったくそで大変申し訳ございません
うわあ…読み終わったあと、しばらく動けなかった😭💦 英帝の「アメリカを独立させる」って言葉の前に、まだ子供でいたい気持ちと、もう独り立ちしなきゃって覚悟がせめぎ合うアメリカの心情が、文章の一つひとつからひしひし伝わってきて胸がぎゅーってなったよ…! カナダの「見送れないくらいならいいんだよ」とか、英帝が後ろから見送ってくれた「気を付けて」の言葉、最後に昇る朝日が優しすぎて涙腺崩壊した😢✨ 砢さんの描くキャラたちの距離感と、言葉にできない想いの描き方が本当にエモい…!続きが気になりすぎるよ🌸💕