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日本語おかしい
――こえくんは、ずるい。
玄関の鍵を開ける前から、そう思ってしまう自分がいる。
ただ家に帰るだけなのに、胸が少し軽くなる。理由はわかってる。
「おかえりなさい、こったん」
ドアを開けた瞬間、その声。
少し控えめで、でもちゃんと俺を待っていたとわかる声色。
「ただいま」
靴を脱ぎながら見ると、こえくんはソファの前に立っていた。
ラフな部屋着。首元が少し緩くて、目のやり場に困る。
……ほんと、無自覚で人を煽る。
「遅くなってごめん」
「いや。こっちこそ」
そう言って笑うと、こえくんは一瞬だけ目を逸らす。
照れてるの、全部顔に出るんだよな。
袋からプリンを出すと、案の定わかりやすく反応する。
「……それ」
「こえくんの好きなやつ」
「……」
声を詰まらせて、でも嬉しいのを隠しきれてない。
俺はこういうのが見たくて、甘やかしてるんだと思う。
隣に座ると、自然と距離が近くなる。
肩が触れるだけで、こえくんの体が小さく跳ねた。
それだけで、胸の奥がきゅっとする。
守りたいとか、独占したいとか、
そういう感情が全部まとめて押し寄せてくる。
「こえくん」
「……なに」
名前を呼ぶと、必ず返事をしてくれる。
それが当たり前になってる自分が、少し怖い。
顎に指を添えて顔を上げさせると、こえくんは抵抗しない。
ただ目を伏せて、呼吸を浅くする。
……信じてくれてる。
「キス、していい?」
「……聞かないで」
拒否じゃない。
それをちゃんと理解できるくらいには、長く一緒にいる。
唇を重ねる。
最初は軽く、逃げ場を残すみたいに。
深くしないのは、俺の理性だ。
こえくんは初心で、触れられることにまだ慣れてない。
でも、服の裾を掴まれた瞬間、
理性は一気に揺らぐ。
「……こったん」
「大丈夫。ここにいるよ」
俺はこえくんを抱き寄せる。
強くしすぎないように、でも離れないように。
ベッドに入ったあとも、俺は何度も声をかけた。
触れる前、触れたあと、そのたびに。
こえくんの反応は全部初々しくて、正直言うと可愛すぎる。
でも、それ以上に――大切だった。
求めるより先に、守りたいと思ってしまう。
熱が落ち着いたあと、
こえくんは俺の胸に顔を埋めて、動かなくなった。
逃げない。
それだけで、胸がいっぱいになる。
「……こったん」
「ん?」
「……好き、だよ」
小さな声。
でも、はっきりした言葉。
俺はすぐに返せなかった。
軽く言いたくなかったから。
代わりに、背中を撫でる。
頭に口づける。
「俺のほうが、好きだよ」
そう言うと、こえくんはぐっと俺の服を掴んだ。
「……こんなに、優しくされるの、慣れてなくて」
「慣れなくてもいいよ」
本心だった。
「こえくんは、そのままでいい。俺が世話焼くから」
お兄ちゃん気質だって、自覚はある。
でも、こえくんに対してはそれでいいと思ってる。
こえくんはしばらく黙ってから、
ぎこちなく俺の背中に腕を回した。
「……じゃあ」
「うん?」
「こったんも、独りで頑張らないで」
思わず笑った。
「それ、ずるいな」
「……お互い様だよ」
腕の中の体温が、静かに伝わってくる。
欲も、愛情も、全部落ち着いたあとのこの時間が、
一番好きだ。
俺はこえくんを抱いたまま、離さなかった。
この子は俺が愛す。
でも――俺も、ちゃんと愛されてる。
それでいい夜だった。
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