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れもんてぃ🍋
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無限城編という、物語上では最も過酷な戦いの収録を終えたばかりの四人。スタジオの重苦しい空気とは対照的に、控え室から出てきた彼らの雰囲気は驚くほど穏やかだ。「しのぶちゃん、本当にお疲れ様! 今日はもう、美味しいものたくさん食べようね!」
蜜璃が、まだ隊服姿のままではあるが、満面の笑みでしのぶの腕を掴んだ。隣には、六つの瞳を閉じて静かに精神を統一している黒死牟が、彼女の羽織の端をそっと握っている。
「そうですね、甘露寺さん。ようやく肩の荷が下りました。……で、そこの氷の男、いつまで私の隣をキープしているんですか?」
しのぶが冷ややかな視線を送った先には、上機嫌でニコニコしている童磨がいる。
「冷たいなあ、しのぶちゃん! 撮影中はあんなに激しくぶつかり合った仲じゃないか。今日はダブルデートなんだから、もっと仲良くしようよ。ね、黒死牟殿もそう思うだろう?」
黒死牟はゆっくりと目を開け、童磨を一度だけ一瞥した。
「……騒がしい。だが、蜜璃が望むのであれば、私は異存ない」
こうして、作中では考えられない組み合わせの四人が、都内の静かな高級レストランへと向かった。
席に着くと、童磨はさっそく「しのぶちゃんは何がいい? やっぱり体にいいものかな?」とメニューを広げて甲斐甲斐しく世話を焼き始める。しのぶは「毒の調合の参考になりそうなもの以外、興味ありません」と毒づきながらも、彼が取り分けたサラダを黙って口に運んだ。
一方で、隣のテーブルでは異様な光景が広がっていた。蜜璃が山のように注文したパンケーキやパスタを、黒死牟が驚異的な箸(フォーク)さばきで、彼女の皿へと次々にサーブしているのだ。
「蜜璃……次はこれが焼き上がった。冷めぬうちに食すがよい」
「わあ、ありがとう黒死牟殿! 凄いわ、切り方が完璧すぎて断面が宝石みたい!」
「……全集中の呼吸、常中……これしきの裁断、造作もない」
至極真面目な顔でパンケーキを等間隔に切り分ける黒死牟の姿に、しのぶはこっそり溜息をついた。
「……あちらの二人は、意外と上手くいっているようで何よりです」
「俺たちだって負けてないよ?」
童磨がしのぶの肩に手を置こうとした瞬間、しのぶの箸が童磨の手の甲を正確に突いた。
「痛いなあ! 今の、絶対急所を突いたよね?」
「あら、手が滑りました。撮影の癖が抜けていないみたいで」
ニコニコと笑い合う(一方は顔が引き攣っているが)童磨としのぶ。そして、黙々と、しかし幸せそうに食事を進める黒死牟と蜜璃。
「ねえ、明日からはもう、あんなに悲しい戦いをしなくていいのよね?」
ふと蜜璃が、口元にクリームをつけたまま寂しげに呟いた。すると黒死牟が、懐から取り出した真っ白なハンカチで、彼女の頬を優しく拭った。
「……物語は終わった。これからは、ただの男と女として、時を刻めばよい」
その言葉に、童磨も珍しく真面目な顔で頷く。
「そうだね。これからは血も流れないし、誰も消えない。俺がしのぶちゃんに追いかけ回されるのは、デートの時だけで十分だよ」
「……一生追いかけ回して、地の果てまで追い詰めてあげますから、覚悟してくださいね」
しのぶの言葉は相変わらず辛辣だったが、その瞳には演じ終えた安堵の光が宿っていた。
夜の帳が下りる頃、四人はそれぞれの帰路につく。
最強の敵同士だった男たちは、愛する女性の歩幅に合わせてゆっくりと歩き、静かな夜に溶けていった。