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兵庫県知事選挙の本番を10か月後に控え、浩二の選挙活動は日に日に熱が入っていった、浩二の選挙事務所マネージャーの「吉田良平」は彼の高校の同級生で、唯一鈴子と浩二の仲を知っている人物だった
良平はとてもやり手で今度こそ浩二に勝たせるために、日々戦略を練る浩二の陣営の司令官だった、良平は浩二に、いつ、なにを、何処でどう言うべきかと細かい指示を与え、浩二が重要な鍵を握る市・町・村の全てに顔を出せるよう計画を組んだ、そのおかげで浩二は行く先々で、人々が聞きたがっていることを話した
伊丹の町工場の職人が集まる集会所で浩二は熱弁をふるった
「製造業はわが国を生かしている血液です、我々のこの町はふたたび閉鎖している工場を開設し、兵庫をもの作り日本一の町にする軌道に乗せましょう!」
集会所は拍手喝さいだった、
また、宝塚では歌劇場を代々昔から支援する富豪の集まりに顔を出して浩二は熱弁した
「この我が町でもっとも優雅で華麗で戦中から続いている宝塚歌劇は日本の財産です、私が兵庫県知事当選した暁には、この由緒ある美しい町の文化を継承し―」
また会場は拍手喝さいだった
良平のおかげで浩二の選挙キャンペーンはますますピッチを上げた、良平がすべての歯車を始動させたために、最近の浩二はYouTube、ポットキャスト、地上波テレビ、ニュースサイトや新聞など、いたる所にその顔が出る様になった
浩二自身も何をやるにもいつも楽しんでやっていた、会議やスピーチ、報道陣とのインタビューを卒なくこなし、それらがいっこうに苦にならない様子で、地元の祭りにまでハッピを着てだんじりに参加し、ますます彼は生き生きしているのが、端目にも伝わってきていた
格報道陣も浩二に関していつも熱のこもった報道をした、彼には実行力のある有能な知事候補という評判がついてまわるようになった、浩二は急速に兵庫県を支えるトップクラスの富豪達と付き合うようにもなっていった
鈴子はYouTubeでハッピを着て餅つきを楽しそうにやっている浩二の動画を見ていた、彼の周りには同じくハッピを着たミニスカートの選挙キャンペンガールがキャピキャピしていた
・:.。.・:.。.
「今日の講演会はどうだった?」
『そうだね、講演中に逃げ出す支持者はいなかったよ』
鈴子は笑った
「よかったわね、そうそうこっちはちょっと面白い話があるの、今夜は何時に帰ってこれる?」
『いや・・・今夜はかなり遅くなりそうなんだ、ここから直接明石に行かないと行けなくて、講演会の婦人部の有権者が自宅で晩餐会を開いてくれるんだそうだ、それで・・・』
『へえ?そうなの?その婦人部の所にはどんな若い娘がいるの?』
鈴子は変なことを言ってしまったと、すぐ後悔した
『えっ?今なんて言った?』
「いいえ、なんでもないの、気にしないで、じゃ、また何時に帰れそうか分かったら連絡ちょうだい」
鈴子は通話が切ると、会議中の男達の元に戻った、しかしその後は心が乱れてとても会議にならなかった、講演会の後、彼はいつも色んな人に囲まれて雑談をする、その光景が目に浮かぶ・・・浩二に近づいて、ホテルのキーを渡そうとする美女は一人や二人ではないだろう、鈴子は嫉妬で、もう頭がくたくただった、そして、そんな自分が嫌でたまらなかった
もし彼が県知事に当選したら・・・二人はもっと会う時間が減るわ・・・
そう考えるだけで鈴子はゾッとした