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潤🧫👾
#ファンタジー
343
窓から月明かりが差し込んでくる。
城の奥、誰も来ない古い離れ。
沢山の蔵書が眠っており、本好きの
鈴風は 時々ひとりで来ていた。
小さな灯りの前で、少年は座っている。
傷の手当てをされた腕を
見ながら、ふっと笑う。
「女王サマって、もっと
怖い人かと思ってた」
鈴風はむっとする。
「私は女王じゃなくて王女よ」
「ま、俺より高い身分ってこと
には変わるねーなっ」
「あと、身分で呼ばないで 」
「あー怖い怖い笑」
明るく話す少年とは正反対に、
鈴風は淋しく答えた。
「……身分なんて、」
少年はちらりと鈴風に目を移し、
また自分の前へと戻す。
沈黙が流れ、雨音だけが響く。
鈴風は静かに言う。
「ねぇ」
「あなた、どうして『匿って』なんて言ったの?」
「追われているの?誰かに」
少年の顔が曇る。
灯りの影が揺れる。
「……言ったら」
「匿う気なんて無くなるかもよ」
「俺を放り出すかもしれない」
鈴風は即答する。
「それは聞いてから決める」
少年は目を見開き、そして笑った。
「強いな、あんた」
しばらく黙ったあと、少年は言う。
「俺の家はさ」
「人の名前を奪う家なんだ」
鈴風は眉をひそめる。
「…真名を?」
少年は頷く。
「そう」
「この世に生きるすべての人間は
仮の名と真の名を持っている」
「それは知ってるだろ?」
この世界の常識である。
真名は軽々しく人に
教えてはならない。
例え家族であっても。
「えぇ、もちろんよ」
「真名を奪われた人間は、
意識を操られたり、 命令を
拒めなくなったりする。」
「奪った人間に魂を支配される」
「それを利用しているんだ」
「真名を奪って人を従わせる」
「そうやって権力を保持してきた」
「…藤宮家って聞いたことない?」
鈴風の表情が変わる。
その名は、王城でも禁じられた名前だった。
鈴風の家、九条家は代々国民の
真名を悪から守ってきた。
その悪こそが藤宮家なのだ。
つまり、今 鈴風の前に座るこの男は
鈴風の、九条家の___
敵なのだ。
鈴風の顔が引きつっていく。
「どうかしたか?」
少年が怪訝そうに尋ねる。
「いえ、何でもないわ…」
「ごめんなさい、話遮っちゃって」
「続けて、?」
「あぁ、」
少年は目を伏せる。
「…俺は」
「俺は、嫌だったんだ」
「人を縛ってまで生きるなんて」
「くだらないだろ」
雨の音が響き、
鈴風は小さく問う。
「だから逃げたの?」
少年は頷く。
「まぁな」
「そしたら父親が激怒して」
「追っ手が来たってわけ」
そして鈴風を見る。
「…ほら」
「匿うのやめる?」
鈴風は少し考える。
九条家と敵対関係にある藤宮家。
本来ならばこの少年の首を
差し出さなければならない。
絶好のチャンスにあるのだ。
「やめないわ」
「あなたを匿うことを、やめない」
少年は目を丸くする。
「なんで?」
「あなたは悪い人には見えないの」
「ただ、それだけよ」
少年はしばらく黙り
ふっと笑った。
「変な王女サマ笑」
鈴風はすぐ言い返す。
「だから身分で呼ばないでって
言ってるでしょっ!」
少年は笑う、太陽のように。
鈴風も笑う、花開くように。
雨はいつの間にか止んでいた。