テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「次は、美玲さんがクローゼットから制服を取り出すシーンです。本番行きます!」
監督の声が響く。
私はスタジオ内に作られた「自室」のセットに立っていた。
ここは中学時代、私が唯一
誰の目も気にせずに「次の標的」をどう料理するか計画を練っていた場所。
「……ふぅ」
深呼吸をして、クローゼットの取っ手に手をかける。
台本では、ここからお気に入りの制服を取り出し、鏡の前で微笑むはず。
(大丈夫。ただの演技。私は何も間違ってない。あんな女のことは、もう忘れたはずよ……)
自分に言い聞かせ、勢いよく扉を開けた。
「えっ」
そこにあったのは、用意されていたはずの綺麗な制服ではなかった。
ズタズタに切り裂かれ、泥にまみれた、一着のセーラー服。
胸元には、赤いマジックで大きく『死ね』と書かれ、名札のところには……。
「私の、名前……?」
そこには、私、美玲の当時の名札がピンで留められていた。
でも、この服は見覚えがある。
これは私が中3の夏、あの女をトイレに連れ込んで
ハサミでバラバラにした制服だ。
「……きゃっ!!!」
私は腰を抜かし、床にへたり込んだ。
喉がちぎれるほどの悲鳴が、静かなスタジオに響き渡る。
「ちょっと! 何よこれ! 誰がこんな悪趣味なもの用意したのよ!」
半狂乱で叫ぶ私に、美術スタッフが困惑した顔で駆け寄ってくる。
「え? 美玲さん、何をおっしゃってるんですか。それはあなたが『当時のリアリティを出したいから、自宅から持ってくる』って、マネージャーさんに預けたものですよ?」
「……は? 私が……持ってきた?」
そんなはずがない。
あの制服は、あの後すぐにゴミ捨て場に捨てた。
……いや、待って。本当に捨てたんだっけ?
記憶が、濁った水のように揺れる。
「あ、美玲さん。その制服のポケット、何か入ってますよ」
スタッフの一人が指差した。
震える手でポケットを探ると、中から一丁のハサミが出てきた。
銀色の刃には、どす黒く変色した何かがこびりついている。
「これ……私のハサミ……」
中学の時、裁縫セットから抜き取って、ずっと持ち歩いていたもの。
持ち手のところに、私が自分で貼ったキラキラのデコシールが、剥げかかったまま残っている。
「美玲さん、素晴らしいリアクションです!まるで本物の罪人と再会した時のような顔だ。そのまま、次のカット行きます!」
監督の興奮した声がスピーカーから流れる。
「やめて……もうやめて!!」
私はハサミを放り投げ、セットから飛び出した。
背後で、スタッフたちの「クスクス」という笑い声が聞こえた気がした。
楽屋に逃げ込み、鏡を叩き割るような勢いでドアを閉める。
スマホを取り出し、震える指でSNSを開いた。
フォロワーからの称賛コメントを見れば、現実に戻れると思ったから。
けれど、通知欄を埋め尽くしていたのは、見たこともない言葉の羅列だった。
『ねえ、ハサミ、返してよ』
『ねえ、ハサミ、返してよ』
『ねえ、ハサミ、返してよ』
同じアカウント名、同じアイコン。
アイコンの画像は、顔が真っ黒に塗りつぶされた、あの女の遺影だった。
「……あ、ああ……っ」
スマホが手から滑り落ちる。
外では、次のシーンの準備が進む不気味な足音が、刻一刻と近づいてきていた。
#インフルエンサー