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『第八話 放課後のクレープ』
──翌日の放課後。
千夏は教室の席に座ったまま、窓の外を見ていた。
心臓が少しだけ速い。
いや、かなり速い。
正直に言えば帰りたい。
いつも通り帰って、いつも通り悠真の部屋へ行きたい。
その方がずっと楽だ。
「亜土さん!」
声が飛んできた。
神崎結衣だった。
後ろには見知らぬ女子が二人。
髪を短めに揃えたスポーティな子と、ふわっとした髪型の日焼けした子。
どちらも結衣と同じくらい、おしゃれだ。
「行こ行こ!」
「えっ」
「クレープ!」
──その日の昼休み。
悠真からの「行ってみれば?」の翌日、千夏は勇気を出して結衣に言った。
「きょ、今日なら時間……あるけど」
「ほんと!?オッケー!別クラの友達誘ってくるね!」
「え」
結衣の他にも一緒に行くなんて聞いてない。
千夏は一気に不安になった。
──そして下校後。
気が付けば駅前にいた。
「うわ……」
思わず声が漏れる。
クレープ屋の前には、たくさんの女子高生が並んでいた。
色とりどりのメニュー。
チョコ。
バナナ。
イチゴ。
生クリーム。
どれも美味しそうだ。
「亜土さんは?」
結衣が聞く。
「え?」
「何頼む?」
何を頼む?
考えていなかった。
「あ、えーと……おすすめで……」
「おばあちゃんか!」
結衣が笑う。
隣の女子たちも笑った。
千夏は顔を赤くした。
失敗した。
何か変なことを言ってしまった。
そう思った瞬間。
「じゃあ、初クレープ記念で一番人気いってみよ!」
結衣が勝手に決めた。
「え、初めてなの?」
短い髪の女子が驚く。
千夏は小さく頷いた。
「え、マジ?」
「今まで一回も?」
その反応にますます恥ずかしくなる。
だが不思議と馬鹿にされた感じはしなかった。
むしろ。
「じゃあ今日は記念日じゃん!」
「やば、うちら立会い人?」
皆が笑っている。
それが少し嬉しかった。
やがてクレープが渡される。
「チョコバナナカスタードホイップマシマシお待たせしましたー」
「……大きい」
受け取るとずっしり重い。生クリームが溢れそうだ。
「食べてみて、ほら」
結衣に言われる。
千夏は一瞬どうやって食べるか迷ったが、恐る恐る端の方を一口食べてみた。
──甘い。
思わず目を見開く。
「おいしい……」
その瞬間、皆が笑った。
「よかったー!」
「その顔見たかった!」
「亜土さん、ほっぺクリームついてる!」
千夏もつられて笑った。
気付けば会話に参加していた。
好きな教科。
嫌いな先生。
二学期の文化祭。
クラスの噂。
正直、知らない話ばかりだった。
だけど、いつの間にか自分も話していた。
「でも……現国の戸越先生って授業中、時々白目になりますよね……」
「えっ?亜土さんって、そんなこと考えてたの?」
「いや、その……」
「やば、真面目かと思ってたけど、意外と面白いじゃん」
また笑い声。
千夏も笑う。
楽しい──
こんな放課後は初めてだった。
──帰り道。
夕焼けが街を赤く染めていた。
結衣の友達とは、逆方向なのでクレープ屋の前で別れた。
初めて会ったけど、すごくいい人達だった。
結衣と並んで駅前を歩く。
「実はさ」
結衣が言った。
「私、前から亜土さんのこと気になってたんだ」
千夏が振り向く。
「気になる?」
「うん」
結衣は少し照れ臭そうに笑った。
「可愛いし」
「……」
「成績いいし」
「……」
「でも壁あるじゃん」
千夏の胸が少しだけ痛む。
図星だった。
結衣は続ける。
「なんか、一人で頑張りすぎてる感じしてさ」
夕陽が横顔を照らしていた。
「だから仲良くなりたかったんだ」
その言葉に。
千夏は何も言えなかった。
ただ。
少しだけ目頭が熱くなる。
こんな風に言われたことはなかった。
「……ありがとう」
ようやくそれだけ言えた。
「こちらこそ」
く
結衣は満足そうに笑った。
「ね、お願いしてもいい?」
「なに?」
「千夏って呼んでもいい?私も結衣でいいから」
「う、うん……いいよ」
幸せな時間だった。
ずっと続けばいいと思うくらいに。
千夏は胸の中で悠真に感謝した。
──その時だった。
「あれ?神崎じゃん」
誰かの声が後ろからした。
振り返ると男子生徒が三人。
違う学校の制服を着ている。
結衣が手を振った。
「おー!偶然っ!」
知り合いらしい。
声をかけた男子は結衣と同じ中学出身で、時々遊ぶ仲との事。
千夏も軽く会釈する。
だが、男子たちの中の一人と目が合うと、千夏の顔から血の気が引いた。
向こうも気付いた。
一瞬だけ驚いた顔をして、何かを思い出したような顔になった。
「……亜土?」
千夏の身体が固まる。
夕暮れの風が吹く。
さっきまでの笑い声が、
少し遠く聞こえた。
──続く
鷹槻れん@コノカレコミカライズ

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猫塚ルイ
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宇津Q
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#シークレットベビー
コメント
3件
楽しそうでよかった……と思ったら最後、気になるところで終わりましたね。 え、次回、大丈夫かな。不安になってきました😥続き楽しみにしています。
みぅです🤍🥀 第八話、読み終わりました……。 千夏が初めてクレープを食べて「おいしい」って笑ったところ、すごくじんときました。今まで一人で頑張りすぎてた子が、友達と一緒に笑える放課後を手に入れたんだなって。結衣の「壁あるじゃん」って言葉も、ちゃんと千夏を見てくれてるから言えるんだろうなって思いました。 でも最後のあの展開……「亜土?」って声がかかった瞬間、一気に空気が変わって。千夏の過去を知ってる人なのかな。続きが気になりすぎます。 千夏の小さな幸せ、壊れないでほしいです🌙