「ぺいんと!」
車の中から窓を開けて顔を出したのはトラゾーで、乗れと合図をするため俺はそれに頷いてから後部座席に乗ろうと扉を開けた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあっ?!?!」
扉を開けた瞬間、俺は心臓がドンっと跳ね上がり、その場で転けた。転けた後も心臓がバクバクと高鳴り、衝動が抑えられない。
───なぜ俺がここまで驚いたのか。
「クロノアさんいるなら教えてよっ…?!」
それは後部座席に一緒にいるとは思わなかったクロノアさんがいて、ただ単純に俺がビビり倒しただけだ。
そんな俺を見て、2人は大爆笑している。
「いやいや、緊急事態なんだから俺も行くでしょ?(笑)」
「ぺいんとめっちゃビビってたな!(笑)」
2人が笑顔になりながら、俺を笑う。俺はそれに嫌味を覚えるわけもなく…。ただ、久々だった。みんなに笑わられる……いや、言い方が悪いな。───笑ってくれるのは、ほんと数日ぶりで。久々に、日常組らしさを感じた気がした。
「もうっ、恥ずかしいな〜…!早く出発しよ出発!!」
俺がそう言いながら、ドアを閉めてシートベルトをつけると、トラゾーは笑いながらも「おっけー!」とアクセルを踏み出した。
少しのこの笑いが、俺にとっては救いだ。だってもう、俺に緊張感とかねぇから。
───今、絶対に仲直りして日常を取り戻してやるって心がぐつぐつと煮えてる。
多分この心は誰にも止めらんねぇ。…いや、多分それは違う。止めらんねぇのもそりゃあるけど…日常組は止めようとしねぇ。
日常組は誰にも止まらせない勢いで行くし、仲間の心を止めようとも思いもしない。多分一緒に止まらず進むと思う。
(ただの元リーダーの憶測だけどな。 )
…………………………
夜中は酷く寒い。日向はどこにも存在しなく、真っ暗な空間で1人身をくるめるだけ。それでも少し休めるのは嬉しかったなんて、思っちゃいけないな。
───ひどく静かで、物足りない。
「……あー。」
ふと、自分が考えていたことに少し何とも言えない気持ちになる。
休みたいと望んだのは自分のくせ、あの人たちの声が聞きたいだとか望んで。こうなった要因は自分のせいなのに、逃げまくってて。豪華な願いだとわかっているのに、その豪華な願いをやめられない自分が嫌で……。
「ふふっ、何したいんだよ僕は……。」
消え入りそうな声でそう呟いた僕は、頭を抱えた。
「しにがみっ!!!」
ふと聞こえた、聞き覚えのある声。それは今最も聞きたい声であり、最も聞きたくない声でもあった。
そんな声を発したのは彼───ぺいんとさんであり、彼は走りながらこちらへ向かってきていた。その後ろからは、トラゾーさんとクロノアさんも。
「ぺ、ぺいんとさ───」
パチンっ!!!!
ふと夜の中に響いた音。それはよく耳に残るような音で、まるで破裂音かのような大きな音だった。そんな音がしたと同時に、僕の頬は辛いものでも食べた舌ようにヒリヒリと痛んでいた。
───ぶたれたのだ。ぶったのはもちろんぺいんとさんで、ぺいんとさんはひどく怒った顔をしていた。
(……そりゃ、そうだよな。)
当然の結果だ、とそのビンタを僕は受け入れた。
「───・・・ごめんなさい。」
僕はその場で深々と一礼をした。そんな僕を見て流石に焦ったのか、少し遠くで見てくれているクロノアさんやトラゾーさんからは少し話し声が聞こえた。…でも、僕にとってはこれが当然の償い。それかそれ以上でもいいはずなのだ。これくらい、軽い方なのだから…。
「……頭、上げろ。」
命令口調でそう言ったのはぺいんとさんで、酷く怖い声音をしていた。それでも僕は、頭を上げなかった。
───これは、僕のするべき行為なのだから。
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