「っ……。」
頭を上げろと言っても上げないこいつに、俺───ぺいんとは酷く腹が立った。俺は別に、こいつに頭を下げてまで謝罪をしてほしいと思っていない。ただ、向き合って話し合いたいだけなのだ。
そんな俺の手のひらは、まだヒリヒリと痛む。流石に痛くぶったかもしれない。それでも後悔はしていない。
「頭上げろって!!!」
俺はそう叫びながら、しにがみの胸ぐらを掴む。それでもこいつは一向に俺に顔を見せようとしていなくて、酷く腹が立った。
───それでも、冷静に。感情に任せていいことは何一つないのだから。だから、俺は息を一回吸った。一旦、お互いに落ち着くことが最善策だ。そう考えて深呼吸をする。
「……お前は、俺の顔さえ見れねぇのかよ?」
俺が一言そう言うと、相手は拳を握った。相手も腹が立っているのもわかる。…でも、俺だって腹は立つ。今回、どちらが悪いか悪くないかなんてわからないんだから。
でも、ただ単に────
「───俺は、お前の気持ちも聞きてぇし俺の気持ちも聞いてほしいからこう言ってんだよ!!」
そう叫ぶと、相手は力を抜いてこちらの顔を今にも泣きそうな顔で見た。俺はその瞬間に胸ぐらを掴む手を離してからトラゾー達の方向へと歩き始めた。
「クロノアさん達は、なんか言いたいことある?」
俺が少し優しめに声をかけると、相手は少し唸った。どうしてかはわからないが、ほんの少し悩む顔をして「何もない」と返された。
もちろん、俺はこいつらと長くいるだけあってどこで嘘をついているかは、まぁ……少し、だけわかる。なんていうか、こいつら顔に出さなさすぎてわからないんだよな。
「───無いなら、みんなで車の中で話そうぜ。深夜でこんな叫んでたら…俺捕まっちまうわ。」
そう一言言うと、みんなも賛同して車の中へと入った。暗闇の外とは違って、電気をつければだいぶ明るい。そんな中でも、神妙な空気は流れているが。
「……しにがみは、俺が羨ましいの?」
誰も話さないだろうなとわかって、一言発すると、相手は静かに頷いた。
「…な、なんていうか…色んなものに恵まれてるぺいんとさんを見て、羨ましいと感じちゃったし、僕とは違って…。」
ゆっくりと、単語を一つずつしにがみは並べていく。そんな俺は頷くことはしなかった。ただ聞いた。
───だって、俺はそうじゃないって思ってるから。
「……ぺいんとさんは、すごいなって───」
ゴツンッ!!!
しにがみが話を終える前に、俺はこいつの頭に1発決めてやった。そのおかげか、クロノアさんとトラゾーはびっくりしたような顔をしながらも笑いそうで、しにがみは殴られた頭を痛そうに抑えていた。
でも、俺は別に何とも思っちゃいなかった。
「何が”ぺいんとさんはすごいな”だよ!?」
俺が大声を上げると、周りは一気に静かになる。
「お前だってデータパックつくって、コマンド設定して、自作ゲーム作って、たくさんボケて、みんなのこと考えて……」
淡々と述べる俺に、しにがみは魅入るような感じで俺を見ていた。
「そんなにお前がダメだったか?!それとも見捨てられたかったか?!みんなからバカにされたかったのか?!」
「ち、ちがいま───・・・」
「違うなら何だよ?!」
否定するしにがみに、俺は核心をつくようなことばっかりを言葉にした。
「ぼ、僕は………」
しにがみはそのせいか涙目で、下を俯いていた。2人で話している空間が欲しいんだという俺の気持ちをトラゾーは感じとったのか、クロノアさんを外に連れ出していた。
…こう、なんていうか……口にしなくてもわかってくれる人が1人でもいればだいぶ心が軽い。
そうして、車の中は2人だけの空間になった。
コメント
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最高すぎます……天才すぎます!!この作品大好きです!! 続きが楽しみです!!!!!✨✨