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玲那が、いなくなった。
朝の教室。彼女の席は空のまま。
担任は「しばらく休むそうです」とだけ告げ、
それ以上の説明はなかった。
驚くほど、誰も深く突っ込まなかった。
「そうなんだ」「へぇ」「メンタルかな」
話題は30秒で流れ、教室にはすぐいつもの雑談が戻った。
たったそれだけで、
この教室の“女王”は消えた。
私は何もしていない。
ただ、彼女の感情の“結び目”を、静かにほどいただけ。
⸻
川上が話の中心に立つようになった。
いつの間にか、玲那の取り巻きだった子たちが彼女に群がっている。
私は、川上の服を褒めた。
川上のヘアスタイルを褒めた。
川上の言葉にだけ、少しだけ反応するようにした。
たったそれだけで、
川上が「中心にいる気分」になった。
その気分がある限り、彼女は私を警戒しない。
私が今やっているのは、
“表に出ないまま、空気をコントロールする”という支配。
⸻
それは、思っていた以上に気持ちよかった。
玲那は“見られること”に執着していたけど、
私は“見られずに動かすこと”に快感を覚えた。
支配するって、こんなにも静かで、
こんなにも…満たされることなんだ。
⸻
そんな昼休み。
私はまた図書室にいた。
そしてまた、あの男と出会った。
西園寺 瞬。
彼は開口一番、こう言った。
「君、今日すごく機嫌よさそうだね」
私は笑った。
「機嫌じゃないよ。“状況”が良いだけ」
「玲那が消えて、君が空気を握ってる?」
「違う。“空気”がどう動くかを、決められるようになっただけ」
西園寺は、それを聞いて目を細めた。
「君みたいな人間、たぶん一度は“完全に壊れる”よ」
「それ、脅しかな?」
「いや、忠告。
感情を殺してるフリは上手だけど、
たぶん君、自分の中の“怒り”だけは殺せてない」
⸻
その言葉が、少しだけ胸に引っかかった。
私は怒ってる? 誰に? 何に?
考えたくない感情ほど、
一番奥に沈めて、見えないようにしてきたはずなのに。
⸻
放課後。
玲那のSNSアカウントが、完全に削除されていた。
すべてが、なかったことになっていた。
そしてその夜、ひとつのDMが届いた。
送信元は不明。けれど、文章には見覚えがあった。
《君みたいな人間が一番怖いよ。
人を壊してるときだけ、生きてる目をしてるから。》
返信はしなかった。
でも、スマホを閉じたあと、私はひとつだけ確信した