テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
玲那がいなくなって、教室は妙に落ち着いていた。
“支配者”がいなくなった空気は、一時的に静かになる。
でも、その静けさは長くは続かない。
誰かが新しい**“座”**を狙い、
誰かがそれを応援し、
誰かが蹴落とされる。
それが、この教室の仕組み。
⸻
しばらくして、目立ち始めたのは
****三枝 葵(さえぐさ あおい)**** だった。
玲那のグループには属していなかった。
むしろ、“どこともつかない距離感”を保ちながら、
「別に一人でも平気だし」みたいな態度で存在していた女。
中肉中背、派手でも地味でもなく、化粧もほどほど。
でも発言は強くて、笑いの取り方も知ってる。
男子とも軽く会話ができて、女子にも絡める。
そう――
“一人でも平気なふりをした、全方位対応型”。
⸻
昼休み、川上が彼女に声をかけていた。
「葵ちゃんってさ、玲那のときからちょっと別路線だったよね~?」
「あー、うん。群れるの、あんまり得意じゃないから」
葵はさらっと笑った。
「でもさ、最近けっこう話題になってるよ? 葵ちゃんの発言、ちょいちょいバズってるし」
「SNS? 適当に書いてるだけだよ〜。
ああいうの、深く考えたら負けじゃん?」
“強い”ふり。
“悟ってる”ふり。
私はそれを、観察していた。
⸻
本当に“強い”人間は、
強いって言わない。
それを演出する時点で、崩すポイントがあるってことだ。
私はその夜、葵のSNSをじっくり遡った。
──見つけた。
《努力してない人に、努力の痛みは一生分からない。》
《自分を保てないやつが、人間関係を語るなよ》
…文体が強すぎる。
まるで、自分自身に言い聞かせてるみたいに。
⸻
次の日、私は教室でさりげなく言った。
「ねえ、三枝さん。昨日の投稿、見たよ。
なんか、“強い人って弱い時に黙ってる”ってやつ?」
葵は笑った。
「あ〜、あれね。まぁ持論ってだけだけど」
「…それ、誰かに言いたかったんじゃない?」
彼女の笑顔が、0.5秒遅れた。
そしてそのあと、強く笑った。
「まさかー! 私が病んでたら笑うでしょ?」
“冗談でかわす”のは、防衛反応。
そうやって、仮面がほんの少しだけズレた瞬間――
私は、その隙間に指をかけた。
⸻
放課後、図書室で本を眺めていると、
ふと、隣に座る気配があった。
西園寺だった。
彼は言った。
「三枝さんに興味あるの? 彼女、玲那とは全然違うけど」
「そうだね。ああいうタイプのほうが、壊しがいがある」
西園寺は、それに反応を返さず、ただ本を開いた。
数秒後、ぽつりとつぶやいた。
「君、自分が他人を**“壊す対象”**として見てること、
だんだん隠さなくなってきてるよね」
私は何も答えなかった。
その言葉に、ほんの少しだけ、自分の鼓動が早くなった気がした。
⸻
三枝葵。
強がることで、自分を守ってきた女。
でも、あの“仮面”には、既にヒビが入っている。
私の役目は、そのヒビに指を差し込み、
静かに、******「自分で壊させる」******こと。
⸻
“私の感情はもう死んでる。
でも、あなたの感情は生きてるから、壊せる。”