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「……なんかあったら?」
だいきくんがポツリと漏らした一言に、いつきくんがぎょっとした顔をする。
「いつきくん! 言い方! だいきくんの魂、抜けちゃったじゃないっすか」
「あはは、いっちゃん笑いすぎ……」
だいきくんは文字通り、真っ白になって固まっている。
他人のことならこんなに笑えるのに、俺の心の隅っこには、ずっと小さな棘が刺さったままだ。
ゆうたさん、イケメンが飲み会に参加すること、全然連絡してくれなかったな。
さっき話してた時、実は近くにいて、それで伝えたことにしたとか?
いや、でも女の子の時はわざわざ連絡くれたし、「心配しないで、仕事の付き合いだから」とか「二人も呼んだから大丈夫だよ」とか、あんなに細かく説明して俺を安心させてくれたのにな。
……俺も、もしかして結構ヤバいかも。
「……じゃ、俺、帰りますわ」
「えっ?! なんで!? 来たばっかじゃん! 一緒に飲もうよ!」
「んー。いや、やめときます。明日仕事あるし」
「いや、俺らもあるけどね? もしかして、いっちゃん。テンション上がらない?」
いつきくんが、すべてを見透かしたような顔で覗き込んできた。
「……何にっすか?」
「多分、ここにいる三人、みんな同じ気持ちだと思うよ。信じてるけど、心配。でしょ?」
「だから、飲んで忘れるんだよ! いっちゃん、考えても仕方ない! ほら、飲もう! んで、今日はいつきくんち泊まろう!」
だいきくんが復活したと思ったら、さらに無茶な提案をしてくる。
「絶対やだ! 俺、二人の介抱係確定じゃん!」
「いいじゃん! ほんで三人で風呂入ろう!」
「……地獄かよ」
結局、押し切られた。
こういう時は、長いものに巻かれるのが一番精神衛生上よろしい。
ゆうたさんのことは、酒と一緒に飲み込んで忘れればいい。
……あ、でも、途中でやめた映画のラストは、やっぱりちょっと気になるけど。
「いっちゃん起きて! 朝だよ!」
「ほんと、飲みすぎちゃダメってあんなに言ったのに……」
強烈な頭痛とともに意識が浮上する。視界に入った光景に、俺は絶望した。
「……まじか。またやった」
キッチンでは、デニムのエプロン姿のいつきくんがニヤニヤしながら何かを作っている。
だいきくんは朝からソファで優雅に新聞を読んでいる。
なんなんだ、この完成された「実家感」は。
「ソファ、体痛くなかった? ベッドおいでって言ったのに、全然来ないんだもん」
「いや流石に気まずすぎるでしょ。二人は、ベッドで寝たんすか?」
嫌な予感がして尋ねると、だいきくんが新聞を畳んで不敵に笑った。
「そうだよ。いつきくんが『一人だと寂しい』って言って、俺のこと離してくれなかったんだもん」
「おい、マジでやめろ。そんな嘘、りゅうせいに伝わったら俺の人生終わるからな」
いつきくんが包丁を止めて抗議する。
「まあ、俺が言わなけりゃなかったことになるっしょ?」
悪だくみをする子供のような顔で笑う俺に、いつきくんが呆れたようにため息をついた。
「待って、いっちゃん。こいつの言うこと信じちゃダメだよ。だいき、酔っ払って床で寝てたからね。重くて朝まで放置してたし」
「えっ?! だからこんなに体痛いんだぁ!!」
「気づかなかったぁ」じゃねえよ。今、目ェ開けてんだから気づいてんだろ。
上司二人の不毛な争いを眺めながら、俺はとりあえず、冷たい水を一気に煽った。
昨夜の嫉妬もモヤモヤも、このカオスな朝の光景に少しだけ溶けて消えていった気がした。
「そういえばいっちゃん。昨日帰ってきてから、スマホの通知音鳴りっぱなしだったよ? グループLINEは12時過ぎの三人からので止まってたし……ゆうたくんからだったんじゃない?」
いつきくんの言葉に、俺の心臓が嫌な音を立てた。
「……まじか、ヤバい」
俺としたことが。ゆうたさんの連絡を待つために早々に帰宅したはずなのに、なんでわざわざ、この人たちと酔い潰れてんだよ!
慌てて未読通知を開くと、そこには心臓を抉るようなメッセージの羅列があった。
『いつきさん、起きてますか?』
『声聞きたいです。電話しても大丈夫ですか?』
『もう寝ちゃいましたか? 僕、全然寝付けないです』
『りゅうせいくん先に寝ちゃって寂しいです。おやすみなさいって声、聞きたかったです』
『明日早いんで諦めて寝ますね。おやすみなさい』
「さいっあく……! マジでなんなんだよ、俺」
はじめから分かってたじゃん!
かわい子ちゃんがいようとイケメンがいようと、そんなもん何も起こるわけがない。
ゆうたさんは、俺のことしか見てないのに。それなのに俺は、酒に飲まれて何やってんだ。
「やっぱりゆうたくんだった? 昨日の最後の写真、楽しそうだったもんね。感想でも伝えたかったのかな?」
「ダメだよ、だいき。昨日いっちゃんに笑われたからって、そんな仕返ししちゃ」
「……は?」
何言ってんだ、この人たち。昨日の写真? 感想?
嫌な予感がして、急いでグループLINEを遡る。
「……っ、おい!!」
そこには、楽しそうに酒を飲む三人の姿。
だが、写真の端っこ。ギリギリのところで切れているが、ゆうたさんの手の上に、誰かの手が重なっている。
手前がりゅうせい、真ん中がしゅうと、その隣がゆうたさん。
……じゃあ、その隣にいるこの「手」の主は誰だよ!?
俺、ゆうたさんのことを二人で囲んで守れって言ったよな!?!?
「おい、誰だよこいつ。……今からブチ殺しに行ってくる」
「待っていっちゃん! 今日は三人で楽しくテーマパーク行くって言ってたでしょ?」
くそ、大人二人がニヤニヤすんじゃねぇよ!
後で別の写真を隅々まで拡大して、りゅうせいとしゅうとの粗を探して、絶対詰め寄ってやるからな。
「さーて! 俺は天使ちゃんから自撮り付きのおはようメッセージももらったし、いつきくんの美味しい朝ごはんを食べたら、着替えに帰ろうかなぁ」
だいきさんが「あっははぁ~」と、目ん玉をひん剥いたイかれた笑顔で煽ってくる。
マジで、上司じゃなかったら一発食らわせてるところだ。
「いっちゃん、どうする? いっちゃんなら、俺のスーツ着れると思うけど。下着も新しいのあるし、ゆっくり朝食をとって、一緒に会社行く?」
いつきくんの提案に、だいきくんの動きが止まった。
「えっ?! いつきくん、俺にはそんなこと言ってくれなかったじゃん!」
ざまぁみろ。
結局、いつきくんは俺のことが大好きなんだよ。
「そうします。いつきくんは足が長いから、スーツのサイズ、俺にピッタリだと思います。……『恋人のデザインした下着』をつけて、今日も一日、頑張りますかぁ!」
「ぐぬぬ……っ!」
#学園生活パロ