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ジリジリと照りつける夏の日差し。
麦わら帽子に風鈴の音、氷の溶ける音……町はすっかり夏の空気に包まれていた。
そんなある日、町内放送のスピーカーから元気な声が響いた。
「来週末は、恒例の“ぷち町なつまつり”!浴衣での来場大歓迎です♪」
その一言に、ぷちひなフレンズの間でも一気に話題が広がる。
「なつまつりか〜!行きたい!絶対いきたーい!」
いむくんが目をキラキラさせて叫ぶと、
「うん、おれ屋台の唐揚げ食べたい……いや、焼きそばもいいな……」
ぽんたくんは想像だけでお腹を鳴らしていた。
「今年は、夜に花火も上がるって聞いたぞ」
とゴッキーくんが涼しい顔で言えば、
「……浴衣……着ていこうかな」
ひなこちゃんがぽつりとつぶやく。
その横で、ぷちぷちくんは黙っていた。でも心の奥は、そわそわしていた。
──ひなこちゃんの浴衣姿、見てみたいな。
そして同時に、こう思っていた。
──今年の夏祭りは、きっと忘れられない日にしたい。
祭り当日。
夕暮れ時、町の広場には提灯がずらりと並び、太鼓の音がリズムよく鳴り響いていた。
いつもと違う雰囲気に、子どもも大人もみんながワクワクした表情をしている。
人混みの中で、先に集まっていたのはいむくん・ぽんたくん・ゴッキーくん。
「お、浴衣じゃん、いいね〜!いむくんそれ似合ってるよ」
「えへへ〜、わかる?母ちゃんに選んでもらった〜!」
「……にしても、ぷちぷちとひなこちゃん、まだ来ないな」
ゴッキーくんが言ったその時──
「──ごめん、待った?」
振り返ると、そこには淡い水色の浴衣を着たひなこちゃんが立っていた。
髪は上げられ、金魚の髪飾りがゆれている。
「わぁ……!」
いむくんが目を丸くし、ぽんたくんは「これは天使」とつぶやく。
「……すごく、似合ってる」
とゴッキーくんがぽつり。
でも、そこに肝心のぷちぷちくんはいなかった。
「え……ぷちぷちくん、まだ来てないの……?」
心の奥が、少しだけ沈む。
それからしばらくして──
ぷちぷちくんは屋台の裏で、スマホを手に慌てていた。
「……ごめん、まさか浴衣の帯、逆に結んでたとは……!」
準備に手間取って、待ち合わせの時間に遅れてしまったのだった。
「……早く行かなきゃ」
ようやく広場にたどり着くと、そこにいたのはひなこちゃん。
少しだけ、寂しそうな顔で空を見上げている。
「ひなこちゃん……!」
「……ぷちぷちくん」
目が合った瞬間、空気がふわりと変わった。
「遅れてごめん……すごく、綺麗だよ。浴衣、似合ってる」
「ありがとう……ぷちぷちくんも、浴衣……かっこいい」
ふたりは自然と並んで歩き出す。
夜の屋台を見て回りながら、金魚すくいに挑戦したり、りんご飴を半分こしたり。
「今日ね、みんなといても、なんかずっとぷちぷちくんのこと探してた」
ひなこちゃんが照れくさそうに言う。
「僕も。君のことしか考えてなかった」
照れ笑いと一緒に、そっと手が触れ合う。
次の瞬間、花火の音が空に響いた──。
夜空に大きく広がる花火の光。
色とりどりの光が、ふたりの表情を優しく照らす。
「……きれいだね」
「うん……でも」
ぷちぷちくんは言う。
「君のほうが、きれいだよ」
「……もう、それ言ったらずるいよ」
ふたりは見つめ合い、そしてゆっくりと手をつなぐ。
その手は、花火の音にも負けないくらい、しっかりとあたたかかった。
「来年の夏祭りも、またいっしょに来ようね」
ひなこちゃんが小さく言った。
「ううん、来年だけじゃない。再来年も、ずっとずっと」
ぷちぷちくんがまっすぐな目で返す。
「……ずっといっしょにいたい」
その言葉に、ひなこちゃんはふるふると頷いた。
花火が終わり、夜風が少しだけ冷たくなる。
いむくん、ぽんたくん、ゴッキーくんも合流して、みんなで歩く帰り道。
「なんだかんだ、今年の夏祭りも最高だったね!」
「来年は屋台出そうかな〜おにぎり専門店!」
「やめとけ、速攻で売り切れて混乱する」
ゴッキーくんが静かにツッコミを入れる。
その中で、ひなこちゃんとぷちぷちくんは静かに手をつないだまま。
指先から伝わるぬくもりは、夏の夜をそっと包み込んでいた。
──たとえ季節が過ぎても、この想いはずっと消えない。
そして夜空には、最後の一発。
金色の大輪が、ふたりの未来を照らすように、静かに咲いた。
🌟**おわり(夏祭り編)**🌟