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ぽんぽんず
黒崎愛衣
第三門を越えた36名は、黒曜石の広間へと導かれた。
天井は見えない。
空間そのものが脈打つように揺れている。
試験管の声が重く響く。
「第四門ーー魔王の門。冥府の象徴たる魔王の幻影が、お前たちを選別する。」
ざわめき。
「これは戦闘試験ではない。歴史の再現ーー英雄と裏切り者の記録を越えよ。」
空間が歪む。
玉座が現れ、そこに“魔王の幻影”が座す。
圧倒的な魔力。
その背後に、もう一つの影が浮かび上がる。
最前線を駆け、
冥府を去った悪魔。
ーーヴェルサファー。
アモンティウスが息を呑む。
「…あれが…」
ざわつく受験者たち。
「あれが裏切り者か。」
「冥府を捨てた悪魔…」
受験者の間に動揺が走る。
少年の胸元のネックレスが、微かに熱を帯びる。
封印された羽が、内側から震える。
(抑えろ)
深く息を吸う。
魔王の幻影が立ち上がった。
その瞬間、空間が崩れる。
重圧。
十数名が膝をつき、闇に沈む。
アモンティウスも視界が揺らぐ。
「ぐっ…!」
少年は動かない。
剣を下ろし、呼吸を整えている。
「圧に逆らうな。流せ。」
短い助言。
アモンティウスは悔しげに歯を食いしばるが、従う。
その時だった。
魔王の幻影の視線が、
少年で止まる。
空気が、変わる。
「…その気配。」
低い声が広間に響く。
受験者たちがざわめく。
ヴェルサファーの幻影が、一歩前に出る。
剣を構える。
その視線もまた、少年へ。
「…ルシオン…?」
少年の心臓が強く打つ。
ネックレスが熱を増す。
封印が、軋む。
魔王の幻影が続ける。
「裏切りの血…なぜ、ここに立つ。」
アモンティウスが驚愕する。
「おい…何言われてんだよ、お前…」
周囲の受験者も距離を取る。
疑念の目。
だが少年は、目を逸らさない。
「私は逃げない。」
静かな声。
「裏切り者の名を背負っている。だが、同じ道は辿らない。」
ヴェルサファーの幻影が斬りかかる。
速い。
重い。
少年は真正面から受けず、軌道を逸らす。
羽は使わない。
封印を解けば、正体が露見する。
それでも、使わない。
魔王の幻影が巨大な魔力波を放つ。
アモンティウスが飲み込まれかける。
「くっ…!」
その瞬間。
少年が割って入る。
衝撃が腕を走る。
膝が沈みかける。
それでも立つ。
魔王の幻影が、さらに言葉を落とす。
「なぜ守る。」
「…選んだからだ。」
「争いを終わらせるために、冥府の中枢に立つ。」
一瞬。
魔王の幻影の目が、揺らぐ。
まるで“思考”するかのように。
「…終わらせる…だと…」
封印のネックレスが、淡く光る。
魔王の視線がそこへ向く。
「その封印…天界の術式…」
空間が凍りつく。
(気づかれる)
封印が軋む。
羽が、解けそうになる。
だが少年は強く握る。
解かない。
力で突破するのではない。
覚悟で立つ。
アモンティウスが横に立つ。
「一人で背負うな!」
荒い声。
「俺も立ってるだろ!」
その言葉で、少年の視界が澄む。
二人、同時に踏み込む。
ヴェルサファーの幻影の死角へ。
剣が交差する。
魔王の魔力核へと届く。
轟音。
幻影が崩れる。
静寂。
立っている者、10名。
魔王の幻影が、最後に呟く。
「…ルシオンの血…その行く末…見届けよう…」
完全に霧散する。
扉が開く。
冥府内部への回廊。
アモンティウスは息を荒げながら、少年を見る。
疑いではない。
強い眼差し。
「…お前、何者だよ。」
少年は微かに笑う。
「合格者だ。」
アモンティウスは鼻を鳴らす。
「ちっ…次は守られねぇからな。」
「期待してる。」
二人は並び、冥府の奥へ歩き出す。
ーー魔王の幻影は気づきかけた。
ルシオンの名は血筋ではない。
羽も封印され、力を使わず覚悟だけで立つ存在。
裏切り者ヴェルサファーの名を受け継ぎ、行く末を変えようとする意思。
冥府の中枢は、すでに少年を認識した。
物語は、静かに加速する。