テラーノベル
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江ノ島の星は、東京よりも大きく光って見えます。あの頃の記憶は忘れたはずなのに、覚えていて、忘れられません。胸の奥が締まって、空気が薄くなる、あの感覚が蘇ります。翌朝のお姉さんは、目が腫れていて、でも晴れ渡った笑顔でした。
「お前、なんだっていうんだ今更」「あんたもそんな化け物だって」「相手にどういうんだ」「一族の恥だ」「従兄弟がそんなんだからうちこのまで」わーん、と耳鳴りがして。おばあさんの包丁の音が霞みます。しまった、と考える前にはもう、視界はクレオンの黒に染まってしまいました。
僕は名家の子供です。生まれた時に、お父さんとお母さんが結婚相手を決めました。お兄ちゃんも、お父さんも、おじいちゃんも、そうしてきています。
あの空間は、重くへばりつくように感じています。なんでか、その頃の僕はわかりません。今も、よくわかりませんが。もう、どうでもよかったのです。
でも、事件があったのでした。
「貴方、本当にこれでいいの?」
突如、白百合のような声が、天井を見つける僕の目の前に現れました。結婚相手です。「ねえ、本当にいいの?貴方は私のことを愛せるの?」
目の前には、困ったような、嬉しいような表情がありました。僕は、何も言えませんでした。喉の奥に空気がへばりついて、どうしようもないです。
「私だって!わかるんだよ…」
白百合のような声を震わせて、泣き始めます。
声は起こったように、悲しいように聞こえました。
「ごめん…」
僕は、これしか言う術も、方法も、何にもないのでした。
結婚は、破談になりました。僕の親が相手の家に多額のお金を払い、無かったことになりました。何にも、無かったことになりました。家では、僕はいないことになりました。その後、しばらくして、僕は江ノ島へと送られました。
コメント
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第3話、読み終えました。重くて苦しいのに、目が離せなかったです……。「白百合のような声」の彼女の「私だってわかるんだよ」という台詞が、すごく胸に刺さりました。結婚相手にすら本心を引き出させてもらえなかった主人公の無力さと、それでも「ごめん」としか言えなかった距離感が、リアルで切なかったです。江ノ島の星の描写が、最後の一文と重なって、静かに沁みました。
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