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“次元が……違い過ぎる! もう、立てない……”
最早、立つ事さえ不可能と悟ったユキは、うつ伏せに動けないまま思う。何より身体のみならず、心まで折られた。
「さあユキ。君が心から私へ誓うーー。それだけで、この無意味な闘いも終わるのだよ?」
“やはり、私には無理なのか……”
ノクティスは倒れたユキへ向けて促した。それは永遠の制約をーー共に歩む事を。
「お願いユキ! もう負けを認めて誓って! 私はあなたに何処までもーー何があっても着いていくから!」
“アミ……”
涙ながらにアミは懇願した。自身が悠久に縛られるより、彼がこのまま死ぬのだけは耐えられなかった。
「私達も……」
「うん……」
ミオとユーリもお互い目を見合せて頷く。自分達もそれに追随する事を。
「ユキ……彼女達の想いを無下にしてはいけない。君の崇高な心は何物にも代え難いが、ここは退いて認めなさい。誰も君を責めないから」
アミの想いを察してか、ノクティスも諭す。その口調は彼への尊厳に充ちていた。
「約束するよ。最強の軍団とは言ったが、産まれて来る子達は、最大の尊厳と愛情を以て接していくと。決して無下に扱ったりはしない」
ノクティスはその後の事まで約束した。其処に裏は感じられない。
「どうしても納得出来ないのなら、君が何時か到達した時に、改めて闘ってもいい。だから今は、私の下へ来るんだ」
それは正に最大の敬意を以て、ユキを迎え入れる事を意味していた。
“私にそんな力が本当にあるのなら、何時かではなくーー今欲しい”
ユキは願った。この現状を打破する力を。だがそれは“今”は決して叶わぬ事。
“このまま認め、共に歩んだ方が幸せなのか……”
一瞬、その考えが過った。彼女達と子を成し、何時かノクティスとも“神を超えた者同士”で子を成す。
“だがそれは本当の意味で幸せとも、生きているとも云えない……”
様々な思惑が渦巻く中、ふとユキはかつてノクティスとの会談を思い返すーー
『君は私と同じ、異なる二つの神の力を持つ、後にも先にも例が無い存在なのだよ』
あの時はその本当の意味が理解出来なかったが、ある事に気付く。思い出したのだ。
それは刹那の思考の彼方、かつての記憶をーー
**********
「二つの力を同時に?」
それはかつて四死刀と共に過ごした日々の事。幼きユキはかつてのユキヤとキリトに、それが出来るかを促されていた。
「考えた事もなかったけど、出来るんじゃない?」
幼きユキは精神を集中し、無氷と再生再光。その二つの力を意図的に同時に発動しようと試みる。
「ーーうぐっ!?」
その瞬間、落雷でも落ちたかのような頭痛が走り、抑えられない吐き気と共に膝を付きーー戻した。
「やはり……」
「ええ、これは正に禁忌の力。そしてーー可能性」
それを見てとったユキヤとキリトが、その力の本質を推測する。本来有り得ない二つの特異能を持つ、この幼きユキの本質を。
「よく聞きなさい馬鹿弟子。特異能とは神の力。即ち我々特異点は、神に到達する可能性が有る存在」
かつてのユキヤは、幼きユキへ諭す。その存在ーー本質を。
「だがアナタは、本来有り得ない二つの神の力を同時に持つ存在」
キリトも同じく諭す。本来有り得ないその力を。
「だから絶対に同時に使うな。これは正に禁忌の複合。だが何時か肉体的にも成熟した時、可能性が有るかもしれない。特異点をーー神をも超えた頂へと」
“だが、それまでは絶対に試みないように。命を失う処かーー存在そのものが消失しかねないから”
二人が語ったそれは警告であり、無鉄砲な幼きユキを危惧しての事。そして何時か、自分達にも到達し得ない事に対する期待を込めてーー。
*********
“そうか……最初から答は、私の中に在ったのかーー”
ユキはノクティスの言った事。そしてかつての彼等が言った事の意味が、今漸く理解出来た。
今は絶対に到達出来ない、その意味も。
動けない筈の身体。ユキは何とか起き上がろうとする。
「……これは驚いた。君はもう動けない筈だが。でも無理はしないでくれ。そのまま寝たままでいいから」
戦闘不能にしたと確信していたノクティスも、これには驚愕を隠せない。
そしてーー決して立ち上がれる筈はないユキが、決意を秘めて立ち上がった。
「ユキ! もう立たないでいいからーーお願い!」
アミは懇願する。認めるだけなら立ち上がる必要は無いからーー
“アミ……ありがとう。何時だって貴女は、私の身を一番にーー”
ユキは彼女のその想いに微笑を浮かべる。
「彼女の言う通りだよユキ。無理に立つ必要は無い。答を出してくれたのなら、一言『YES』だけでいい。それですぐにその傷も消してあげるから」
ノクティスも同感だ。立ち上がった処で傷に障る。先ずはユキの答ーー永遠の誓いと、続く傷の手当てを。
「ノクティス……アナタは言いましたね? 私がアナタと同じ、神を超える可能性のある存在だと」
突然何を言い出したのか。ユキのそれは、これより永遠を誓うそれではなく問い掛け。
「ん? ああ、その通りだ。君は何時か必ず到達出来る。だが、その為に必要なのが“時間”だ。だからこそ、今は私と共にーー」
ノクティスは怪訝に思いながらも、ユキの問い掛けに応える。
「そして、今の私にはまだ絶対に到達出来ないーーと」
ユキは改めて確認。その間にも腹部からは、夥しい流血が溢れ落ちていく。
「その通りだ。君のまだ未成熟な身体では……ね。さあ、もういいだろう? これ以上の流血は命に関わる」
先ずは一刻も早い手当てを。命を落としたら、これまでの事が全て無意味となる。だからこそノクティスは早急な誓いを促した。これだけはあくまでも、自分の意思で言わねばならない。
「ユキ! 早く認めて! これ以上はーー」
アミも涙ながらに懇願した。自分は生き続け、彼だけが死ぬーーそれだけは耐えられない。
“アミ……貴女にあるのは、何時でも私を案じる想い。だからこそ私は貴女をーー”
ユキは彼女とのこれまでを振り返る。
“私の生きる意味。希望と光をもたらしてくれた私の……全て。だからこそーー”
自分の全てを引き換えにしても、守りたいーー愛する存在。
「ならばーー“今”到達する」
“自分の命の使い道はーー自分で決める!”