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ーー瞬間、ユキの身体から光が放出された。それは銀色と金色が二つに別つ光の波動。
「なっーー何を!?」
突然の事に初めてと云っていい、狼狽えるノクティス。
「ア、アナタ自身が言った事でしょうが? 絶対に超える事が出来ない二つの神の力。その過程を経て自分が生まれたとーー」
ユキが苦悶の表情で、かつて神を超えたノクティスの生い立ちを指摘する。
「だ、だから……“意図的”に二つの特異能を同時に全開すればーー」
“神を超えて到達出来る。宇宙の物理法則外へと!”
「ばっーー馬鹿な! 確かにその通りだが、今の君がそんな事をしたらーー」
“オーバークライシスアウトーー彼の存在そのものが!”
「止めるんだユキ!」
その末路を危惧したノクティスが、かつてない焦燥感に駆られながらユキを止める為、初めて玉座から立ち上がり、光速ーー“閃光”を放つ。
「なっ!?」
“光速が無効化された……だと?”
ノクティスは驚愕。宇宙最速を以てしても止められぬそれに。
物理法則をねじ曲げ、ユキは宇宙の摂理を超えようとしていた。
「ぐっ……ぐぅ! 痛ぅ!」
漏れる苦悶の呻き声。今ユキは頭が破裂しそうな感覚と、身体中が千切れそうな痛覚に喘いでいた。それは正に死さえも生温いーー“煉獄”の苦痛。
「今すぐ止めるんだユキぃ!!」
「ユキお願い! もうやめてぇぇぇ!!」
お互いをシンクロさせた、ノクティスとアミの悲痛な絶叫が響き渡る。
そしてーー
“第三マックスオーバーレベル『399.99%』到達だと!? 本当に……超えるつもりなのか彼は!?”
彼等を他所にユキを計測していたハルが、サーモの数値に驚愕。それは最終臨界点前ーー宇宙法則に於ける最到達点を意味していた。
「ユ……キ……」
余りの事態に最早ユーリとミオは、絶句し呆然。
「ぐっーーうぐぅあぁぁぁぁぁ!!」
ユキの絶叫が響き渡ったと同時に、彼からの発光はより一層輝きーー弾けたのだった。
「……ユ、ユキは何処へ?」
狼狽えながらノクティスは探すーー彼の姿を。だが発光後、ユキの姿は何処にも無い。
「そ、そんな……ユキ?」
アミは現実を受け止める事が出来ない。そう、完全にユキはこの場から“居なくなって”いたのだ。
否、居なくなったというのは正しい表現ではない。ただ認めたくないだけだ。ユキの死ーー消失という現実を。
「ノ、ノクティス様……彼の、生体ーーロスト(消失)反応を検知しました……」
ユキの反応をずっと伺っていたハルが、サーモに依る覆せない現実を突き付ける。
「嘘……」
その事実にユーリも唖然と呟くが、サーモの反応に依る確実性は自身もよく知っている。
それはユキの死が確定した瞬間だった。
「な、何という事だ……。これは……私の責任だ。彼の意思を尊重する余り、逆にここまで追い込んでしまった……」
ノクティスは両膝を着き、項垂れながら心情を綴る。無理矢理従わせる事も出来たが、今更ながらにそれをしなかった事に対する後悔に苛まれる。だがいくら後悔しても、それは後の祭り。失ったものは戻らない。
「そんな、ユ……キ、いやあぁぁぁ!!」
ユキの死を受け止めた瞬間、アミの悲痛な慟哭が響き渡る。
「ユキ……姉様……」
ミオにも痛い程に分かった。正にこれは、これ以上無い最悪の顛末だとーー。
ユキのみが居ない、エルドアーク宮殿ーー『王の間』にて、各々の思惑が交錯する中。
「……決めたよ。私の存在意義、これからの目標が」
不意に立ち上がったノクティスが、そう高らかに述べる。
「ユキは確かに存在した。だからこそ数多の平行世界、彼が存在する世界線が必ず在る筈だ」
つまりはユキの存在する世界線。それを探しに巡り行く事が、ノクティスの最重要目的となった。
「もうこの世界に用は無い。必ずーー君を見つけてみせるよ」
そう確固たる決意を以て宣言する。そしてーー
「で、では次なる世界線へと。しかしながらノクティス様、今現在江戸へ侵略中の軍団はーー」
「もう必要無いよ。ユキ以外は全て有象無象。この星と運命を共にさせよう」
ハルの進言をあっさり遮ったノクティス。それは配下ごと纏めてーーそして、この世界の終幕を意味する。
「……承知致しました。ではエルドアーク宮殿を大気圏外へと」
「ああ、頼むよ」
少しばかり思う処はあれど、その指示に従うハル。
ノクティスが黒と言えば黒となる。それが狂座に於ける絶対不変の掟。全ての決定権はノクティスにあるのだ。
「そ、そんな……」
異常な迄のユキへの執着。そしてその底知れぬ思惑ーー価値観に、アミ含む彼女等三人は心底震撼した。
「勿論、君には来て貰うよ? ユキには君が必要だ。まあ私とシンクロさせている以上、共に行く以外の道は無いのだけどね」
絶望に打ちひしがれるアミに、そう強制するノクティス。これより先は、ユキを探し出す為の悠久の旅路。
「でもそれは……」
アミの危惧。それは仮に別の世界線でユキを探し出したとしても、それはユキで在ってユキではない。自分の愛するユキそのものではないーーと。
「おっと、忘れる所だった」
戸惑うアミを他所に、ノクティスが眼を向けた先はーーミオの姿。
「妹の方も連れて行かないとね。ユキへの交渉材料は多い方がいい」
「そ、そんな……嫌っ」
その視線の意味を向けられたミオは、恐怖で後退りする。自分も心臓を抜き取られるーーと。
「ああ、心配いらないよ。姉の方だけは、ユキの為にシンクロせざるを得なかった。君はその命に悠久の刻を与えるだけ。すぐに済むから安心して欲しい」
ミオの思考を読んだノクティスは、そう穏やかに諭す。つまりはアミの様に一心同体にするのではなくユーリと同様、狂座の者と同じ存在にするのだ。違いはあれど、悠久を生きる事に何も変わりはない。
「まっーー待ってくださいノクティス様!」
後退るミオの前へ、ユーリが立ち塞がる。
「どうか、どうか彼女を見逃してくれませんか!?」
そうノクティスへと懇願した。好きな者を自分と同じ、悠久の苦悩を味合わせる訳にはいかないと。
「……おかしな事を言うねユーリ。仮に彼女を見逃したとして、君は彼女をこの星と運命を共にさせる気かい? その方が残酷だろう」
「……あっ!」
ユーリもその意味に漸く気付くーー思い切らされる。
世界は消える。これまでも、そしてこれからも。命乞いに何の意味も持たない事に。