死者を想い続けるのは、つらいでしょうに――。
女神とて、万能ではないがゆえに、彼を哀れむほかに何も出来なかった。
すでに、与えられるだけの力を与えて、送り出したのだから。
女神にとっても死は絶対で、体が滅びてはどうにもならない。
別の入れ物を用意しても、それに耐え得る魂がなくては、入れる事さえ出来ない。
彼の家族の魂は、酷く傷付いてしまって、転生に耐えられるものではなかった。
魂の素質。それから、その者の性根が、なるべく美しくあるもの。
でなければ、たとえ別世界であったとしても、送り出せるものではない。
崩壊を早めてしまうことになってしまうから。
そのせいで、何百年も待たせてしまった。
彼は特別に強く、そして美しい魂を持っていたから。
それに見合う魂でなければ、惹かれ合うはずもない。
それがようやく叶う。
女神でさえただ待つしか出来ず、ただ時が経つのを見るしかなかった。
それが、ついに叶った。
極上の魂を、力作の入れ物に込める。
それは互いに共鳴するように、すんなりと馴染んだ。
あとは、彼のもとに送るだけ。
女神とて声が弾んだ。
するべき説明を忘れるほどに、舞い上がったままに。
彼が万全ではないことを失念したまま。
されどそれは杞憂に終わる。
あとはもう、また時の流れを見守るだけとなった。
女神は胸をなで下ろし、世界を見守り続ける。
**
少年は生き延び、強くなった。
王となり民を統べ、それを護った。
心に穴を空けたまま。
それは続いた。長く続いた。
王として慕われ、その国は笑顔であふれた。
その笑顔に救われ、王は心を失わなかった。
やがて、彼は最も求めたものを拾う。
手に入れたい衝動を抑え、それのための振舞いをした。
もはやそれで良いのだと考えたのだろう。
だが、運命も彼に微笑んでいたらしい。
少しの手助けか、ただの偶然か、流れが変わった。
それが手に入る時というのは、唐突なものだった。
やがて彼は、心の安寧を取り戻していった。
それは惹かれ合う魂の、その効果だった。
失ったはずのもので、少しずつ満たされていった。
失いたくないという痛切。
それに応えようとする伴侶。
魂の片割れ同士のごとく、彼らは添い遂げる事になるだろう。
**
曰く、魔王ルガルアディの切望は満たされる事となった。
本来であれば、満ちる事のなかった想いが。
最愛の妻の、深く広大な愛によって、満たされゆく。
曰く、魔王ルガルアディの心は報われる事となった。
聖(きよ)く強い魂を持ち続けた結果の、報われぬ傷が。
最愛の妻の、全てを受け入れるその情によって、報われゆく。
使命を与えた女神は想う。
ただ苦難の中に投げた後悔を。
|失う痛み《ロストペイン》を刻んだ慚愧(ざんき)を。
それらを、その優しさと愛で包み込む、女神に等しきひとりの人が救った。
魔王だけでなく、女神さえも。
それは、サラという名の、麗しき聖女。
ただひとりのために生まれ、ただひとりを愛す。
だからこそ、全ての傷を癒す。
断たれた望みも、失った痛みも、その愛によって。
聖女サラ――。
ただひとりを癒すために生まれた、新しき愛の女神。