【BioTOPE 第8話】
【能力者名】妖怪沢どろり【能力名】メルト
《タイプ:擬態型》
【能力】手の平で触れた相手をどろどろに
溶かす能力
【以下、細菌達の記録】
早朝、その日どろりはいつものように
同じボランティア部に所属する海街深蔵と
学校へ向かっていた。
突然、どろりは背後からすさまじい殺気を
感じた。どろりはあわてて身を屈めた。
【拳が勢いよく空を切る音】
どうやら、何者かに殴りかかられたようだ。
(…..暴力はよくない、かなしいことだ。)
そう思いながらどろりは自分に殴りかかった男を睨んだ。
「ほぉ、やはりお前そうとう戦い慣れてるな? 俺は口裏痛見(くちうらいたみ)。
俺とタイマンでバトルしてくれや。」
どろりと深蔵は当然逃げようとした。
こんな頭のおかしい奴に付き合ってられないからだ。
しかし、逃げられなかった。
どろりは痛見に背を向けて逃げることが
何故か出来なかったのだ。
(こいつ、何かの能力者か!?クソッ何の能力だ!?)
「俺の能力はァッ!!!!!!!!
《とてもいたいいたがりたい》!!!!!!!!
能力は能力者と目と目が合った時ッ!!タイマンを強制する能力!!
目と目が合ったらバトル!!!
とにかく勝負勝負勝負ダァッ!!!」
わざわざご丁寧に説明してくれた。
(こいつ…..《友好型》だな、しかもウルトラ
バカの ……。)
どろりは心の中で悪態をついた。
そして、周囲を見渡した。
(一応、仲間が隠れてるとかはなさそうだ。
そしてここは通学路、近隣住民の迷惑になるのはよくない、わずらわしいことだ。)
そこでどろりは彼の財布から左端の折れた
旧1000札を取り出し海街深蔵に渡した。
どろりと海街はある契約をかわしていた。
それは 『能力一回使用ごとに1000円あげる』 という雇用契約だった。
つまり、海街に1000円を差し出すのは
能力を発動せよという合図であった。
「《深海シティアンダーグラウンド》。」
左端の折れた1000円を受け取りながら海街が どうでもよさそうに能力を使用した。
どろり、海街、痛見の三人は
海街の能力で異空間に呑み込まれた。
《海街の異空間、ボクシングのリングのような 場所。》
「……!!?!!?なんだぁ!!?隣の奴の能力かァ!!!?」
痛見は驚いたかのように辺りを素早く見渡した。
「ああ、ここでならお望みどうりタイマンが
できるだろ?ルールはどうする?」
どろりはそういって柔道のような構えを取った。
近年、この世界では能力者達による
暴行事件が増加している。
そのためどろりは いつ能力者達に襲われてもいいように それなりの準備はしていたのだ。
「!!?おまえ…..!!!もしかしていいやつかァ!!?
ルールはシンプル!!どちらかが『まいった』と いうか死ぬまで殺し合う!!!これでどうだ。」
そういって、痛見はボクシングのようなステップをして拳を構えた。
「…..学校に遅刻するのはよくない。早めに
おわらせるッ……….!!!!!!」
先に動いたのはどろりだった。
彼は制服の胸ポケットのボールペンで
勢いよく痛見の右目を刺しにいった。
その動きには一切の躊躇がなかった。
どろりの狙いは二つ、一つは単純な目潰し。
もう一つは激痛による戦意喪失だ。
《能力者の力は精神力に依存する。》
これはこの世界の住民なら誰もが知ってる
常識であった。そのためどろりが相手の心を折るためにボールペンで相手の右目をぶっ貫いても不思議ではない。
最悪、どろりは彼の能力《メルト》で痛見を溶かして消してこの世から抹消する算段だった。
不思議なのは痛見がこれをまるで避けなかった ことだ。人間には反射神経というものがある。
眼球をボールペンで刺されそうになれば、
当然避けるか防ぐかするはずだ。しかし痛見はまるで避ける素振りを見せなかった。
【眼球にボールペンが突き刺さる音】
異空間内にいやな音が響く。どろりは
すぐに彼の左手で痛見の身体に触れようとした。
【みぞおちを膝で思い切り蹴られる音】
どろりは痛見に鳩尾を蹴られ吹き飛ばされた。
どろりはあまりの痛みにうずくまり胃酸を
吐いた。
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痛見が足でどろりの顔を踏み潰そう
とする。どろりは強い精神力で痛みを堪えながらこれを躱した。
両者再び睨み合う。
痛見は右目に突き刺さったボールペンを
思いっ切り引っこ抜いた。
【ぐじゅりという嫌な音】
【ボールペンが床に落ちる音】
彼がボールペンを引っこ抜くとすぐさま
彼の右目はグジュグジュと回復した。
「言い忘れてたなぁ、俺の能力は
《目と目があった能力者にタイマンを強制する 能力、及び痛みを受ける度に回復する
能力》だ。」
ジャブを三回、右スウィングを一回かましながら痛見が言う。
痛見の能力《とてもいたいいたがりたい》は痛見の《強者と戦い強くなりたい》という強い願いから生まれた能力だった。
ギリギリで躱しながら、どろりは相手の動きを 観察する。どうやら痛見はボクシングに 関しては素人のようであった。
「新鮮な痛みをありがとうッ!!!これで俺はまた 強くなれた!!!!」
そういって痛見は右ストレートをかます。
どろりはそれを避けるためしゃがみながら
足払いをした。
痛見はそれをジャンプで躱しながら
どろりの顔を蹴る。
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どろりは致命傷を負わない ようにあえて腕をかばいながら受け身を
とった。
なぜどろりは腕を庇ったのか?その答えは
どろりの能力にある。
どろりの能力は『手の平で触れた相手をどろどろに溶かす能力』。つまり腕を骨折したら
能力が使えなくなる。この後、放課後<ボランティア部>で能力を使う予定のどろりにとって 腕の骨折だけは避けねばならなかった。
一方、痛見はその戦闘経験からどろりの
手の平を警戒した。
(おそらく触れたら発動するタイプの能力者
だなァ…..。やべー匂いがプンプンするぜ。)
実際、痛見の推測は正しかった。妖怪沢どろりは自らの能力『メルト』を使い、これまでに 45人の人間をこの世から存在ごと抹消していた。
つまりお互いの勝利条件はこうである。
【妖怪沢どろり】相手にタッチする。
【口裏痛見】相手の腕をへし折る。
故に痛見はどろりの腕に掴みがかった。
関節技で相手の関節を外した後足でどろりの腕を粉々に粉砕する予定だった。
この世界にも暴行罪は存在する。
しかし、 痛見の脳内は目の前の強者を屠ることで頭が いっぱいだった。
故に彼は、ずっと空間の端で静観していた
海街への警戒を怠った。
突然、床が動き痛見は足を滑らせた。
体勢を 崩す痛見。
この隙を、妖怪沢どろりが見逃すはずが
なかった。
どろりの手の平が痛見の鳩尾に触れた。
決着である。
妖怪沢どろりは先程、海街に左端の折れた1000円札を渡していた。これは彼らの緊急事態の時の暗号であった。意味は
『助けて、マジで助けて』
である。雇用主であるどろりの助けに
海街は見事に応えた。
海街の能力は
《深海シティアンダーグラウンド》、
『異空間に防音室の空間を生み出す能力』
彼は異空間に防音室を生み出し、それを
自分の身体の一部のように自在に動かせた。
そして海街は能力を利用し、的確なタイミングで異空間を動かしたのだ。
かくして、海街の的確なアシストにより
どろりはいつでも痛見を《メルト》で
抹消することができる状態になった。
「これ以上続けるのはよくない……時間の無駄 だ。」
どろりは冷ややかな目で痛見を睨み付けた。
「……クッ、降参だ。殺せッッ……!!」
目をつぶり、冷や汗をかきながら痛見は
悔しそうに言った。そしてどろりは能力から
解放された。おそらく負けを認めるのが
痛見の能力の解除条件なのだろう。
「………海街、能力を解除しろ。」
どろりの答えに応じて海街は能力を解除した。
彼らは通学路に戻った。
「人に殴りかかるのはよくない、いけないことだ。 ……..能力ありのボクシング部がSNSで 部員探してたから紹介してやる。」
どろりはそういって、海街と学校へと向かった。
情けをかけたのではない。シンプルに遅刻
しそうだったからだ。
口裏痛見は完全敗北した。通学路の道に
横たわり、大粒の涙を流した。
「負けた ……負けた!!!やった!!!やったぞ!!!!
この敗北の痛み!!!!これで俺は
もっと強くなれる!!!新鮮な痛みをありがとう!!!!」
どうやら嬉し涙だったようで痛見は
その後30秒間の間通学路の道に横たわりながら 大声で笑っていた。
(最後まで読んでくださりありがとうございます。)
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