テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第十七章 閉ざされた扉の前で
闇の舞台が閉じた瞬間、
扉の外に残された仲間たちの世界は、まるで色を奪われたように沈黙した。
重く、動かない。
扉には駿の術式が張り付き、音すら通さない。
その場には――瀕死のサギだけが残されていた。
サギは血の海に沈みながらも、
仲間たちの気配を確かに捉えて、指を震わせた。
「……聞いて……くれ……」
弱い。
だが、その声には、何かしらの決意が宿っている。
エリスが膝をつき、赤い光の瞳で彼を見下ろした。
赤瞳の黒は荒く息を吐き、今にも扉を叩き壊しそうな勢いで怒りを燃やしている。
リオの背の六本のアームが、不規則に震えていた。
サギは、彼ら一人ひとりの顔を見回す。
「……あいつは……朗を、連れていった……」
黒が叫ぶ。
「当たり前だろ!! あの闇の男は何者なんだよ!! 朗をどうする気だ!!」
サギは目を細め、震える喉を押し開いた。
「……駿は……桜姫の弟……。けれど……それだけじゃない……
朗と同じ……“選ばれた者”だ……」
エリスの瞳が揺れた。
「選ばれた……?」
サギはゆっくりと、扉に指を向けた。
「……朗は……俺の、息子だ……」
その瞬間、空気が止まる。
黒の目が大きく見開かれ、声を失う。
リオのアームが、一斉に動きを止めた。
エリスの青い宝石の瞳が、静かに光をゆらめかせた。
「……あいつには、伝えて……いなかった……
言えば……舞台の中心に立ってしまう……
俺は……それだけは……避けたかった……」
呼吸が乱れ、肩が大きく波打つ。
「だが……駿は違う……
あいつは……朗を“完成させよう”としている……
舞台を動かす子供……物語を呼ぶ存在……
朗を……“役者の座”に戻そうとしている……」
黒が拳を握りしめた。
「なんでだよ……なんでそんな必要があるんだ……!」
サギは首を振る。
「駿の舞は……もう“幸福”を呼ばない……
あれは……世界を空に戻す舞だ……
舞台そのものを……白紙に戻すつもりだ……
朗の力があれば……それを完成させられる……」
エリスは静かに言った。
「だから、駿は朗を閉ざされた舞台へ誘った……」
「……ああ……」
サギは弱く頷き、血を吐いた。
「……俺は……朗を、“観客”に……とどめたかった……
舞台に立たなければ……彼は……ただの子供でいられた……
けれど……駿は……それを許さない……」
黒が叫ぶ。
「だったら止めるしかねえだろ!!
扉の向こうで何してんだよ駿は!!」
サギの瞳が、わずかに開く。
その奥には、父親としての痛みと誇りが宿っていた。
「……駿は……朗の“原点”を開いた……
過去を……見せている……
そして……朗に……選ばせるつもりだ……
“舞台に立つか”……“立たないか”……」
息が途切れ、身体が痙攣する。
エリスが手を伸ばし、サギの背を支えた。
サギは最後の力で、扉を指差した。
「……聞いてくれ……
もし……朗が……“舞台に立つ”と選んだら……
駿は……舞を始める……
世界は……闇に呑まれる……
だが……朗が……“物語を動かす者”の道を選んだら……
駿を止められるのは……あいつだけだ……」
声が途切れ、瞼が落ち始める。
「……朗を……頼む……
俺の……息子を……」
サギの手が、静かに床へ落ちた。
黒が顔をそむけ、拳を震わせる。
エリスは瞳を閉じ、胸に沈黙を刻む。
リオはアームをわずかに震わせ、何かを呟きながらサギを見下ろした。
扉の向こうでは――
朗が、自分の“原点”を知り、
駿の手を取るかどうか、たった一つの選択と向き合っていた。
闇は音もなく、次の舞台の開幕を待っている。
・つづく