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8万人 VS 1万7000人。
「おいおぃ……ほんとに撃ち殺してええんかぁ?」
「政府がそうせい、と言いよるんじゃから」
「ワシのAIも、少しでも抵抗する奴に容赦するなーって」
「目の前の奴等、見てみぃ?クソ餓鬼やで。」
「単なる、的やないかいーーー」
「ウハハハハハハハッッ」
新宿一帯は、鋼鉄のバリケードで幾重にも封鎖され、有刺鉄線が獣のように絡みついていた。
その外縁には、**機動隊常駐警備車両(PAC-01)が規則的に並び、要所ごとに高圧放水車(ブルーシャーク)**が待機。
狭間を埋めるように、96式装輪装甲車が睨みを利かせている。
封鎖内部には──
陸上自衛隊の10式戦車部隊が静かに咆哮を抑え、地中に潜る爆雷のように息を潜めていた。
そしてその頭上には、自爆型攻撃ドローン群が、無音で編隊を組んでホバリングしている。
彼らは撃たない。命令が下るまで、ただ静かに“睨んで”いる。
“夢を見る者たち”を、
国家は“沈黙させる用意”を整えていた。
新宿を取り囲む8万のラストドリーマー。
ハルとユメ、そしてカダ・ナダ、アコ、タケ、コンもチカラもタネも、クラスの全員が新宿をかこむ。
方々からシュプレヒコールが聞こえて来る。
「We Are the Last Dreamers!!」
「D.N.S.C.法を、撤廃せよ!!」
「夢を返せ!!」
プラカードや、旗を掲げる者も多い。フラッグにはD.N.S.C.法反対デモの発祥地であるドイツで掲げられた象徴的アイコンが描かれている。
ラストドリーマーの旗印に刻まれたラテン語「Somnia Sunt Resistantia」は、2191年、ベルリンの地下で発足した密教的思想運動──通称「L.S.V.(Latinitas Somniorum Veritas)」が初めて用いたとされる。
中心メンバーは旧欧州思想家の末裔や、消えた修道会の血を引く者たちだったという噂も。
このアイコンが世界標準となり、旗、プラカード、バンダナ、壁画、アイコン、ステッカー、タグ、Tシャツ等、多くのアイテムが実在する。
アイコン:「閉じた瞼の中に浮かぶ星」
中央にシンプルな「閉じた目」のシルエット。まつ毛が微かに見える、眠っている瞳の形。その瞼の内側(目の中心)には、5角の小さな星が浮かんでいる。星は曇り空の中の一点の光のように輝く。輝きは派手すぎず、静かな希望を象徴。
目のラインは黒、星は白または金で描かれ、背景色は「群青」。夢と夜と深海を象徴する色。
旗の下に小さ刻まれている、
“Somnia Sunt Resistentia”(夢は抵抗である)の文字。
バリケードは、完全に新宿区を包む形ではなく、大きな道を基準として囲われている。8万の抗議者は分散する形で広がってはいるが1番、人が多いのは新宿駅から国道20号線を西に向かいNTT東日本本社あたりまでの人数が凄まじい。
ハル達は、四ツ谷駅の20号線上に陣取っていた。ここも抗議者が多く、激しいシュプレヒコールが消えない。
当然の事ではあるが、JR、東京メトロを初めとする公共機関も全て運休である。
20号線四ツ谷駅。1人の若者が前に出た。チカラだ。チカラは両手を挙げて前進を続け、高らかに叫ぶ。
「俺達の、夢を返せ!!!」
その瞬間、高圧放水車からチカラに向けて放水された。
ドンッッ!!!!
チカラは吹っ飛んだ!!が、
「吹っ飛び芸は、お手のもの、だ」
チカラは吹っ飛びながら後方を確認、着地点を定めてきれいに受け身を取った。
「チカラ!!大丈夫か!!」
「うむ。しっかし、水圧ってすげぇな当たったとこ、赤くなってら!ハハハハ!!えっ?」
「俺の友達に、何やってんだぁぁぁ!!!!」
チカラと仲の良いナダがキレた。
走ってバリケードに向かっていく!!早い!!
放水!!!
ナダは身を翻してそれを避け、更に前に走る!!
その刹那。
ズズダダダダダダダダダァァァァンンンンンン!!!
…………………………ナダ?
重く乾いた幾つもの音が、ナダの身体に突き刺さった。
ナダは…………動かない。
ユメは、両手を挙げてナダに近づく。
アコも、ユメに続く。
ナダを2人で抱き上げ、後方に下がろうとした……
ズズダダダダダダダダダァァァァンンンンンン!!!
……………………………………………………
ハルは、思う…………今の、何だ…………
ハルは、歩を進めた。
そして、他の生徒も。
ハァハァハァハア!!ハァハァ!!
アァァァァァァァあぁあぁああぁぁ!!!!!
ここに居たか!!!!
後方から汗だくで走って来た男はハル達を止める。
「行くな!!!殺されてぇのかぁぁぁ!!!」
構わず進もうとするハルに拳を入れる。
ゴツッッ!
ハルの首根っこを掴みながら、他の生徒を制止する。
「下がれ!お前ら下がれぇぇ!!下がらんかぁ!!!」
男は、生徒を元の位置まで引き戻す。
上下ジャージの出で立ちで汗だくの、森野。
「もっと早くお前らを見つけたかったが、この群衆だぁ、やっとの事で見つけたと思ったら…………」
「お前ら、大人しく家に帰れ!!」
「俺達は、夢を取り戻しに来ただけです!!」
「アホかぁ!!あんな姿になってまで得るものなんて、
何も無いんじゃ!!死んで夢見るつもりか??
お前らぁぁアホかぁ!!!」
「で、でもあのままじゃ…………」
「ええから、俺が行く。お前ら動くなよ。」
「先生も…………死んでしまうんですか……」
「俺は先生やから。当然の事や。護れんかった生徒を野晒しに出来るはずがない。」
森野は、両手を挙げて3人に近づいていく。
パーーーーーンッ!!
国道が弾を弾く。足元に、威嚇射撃だ。
四ツ谷駅に集まった殆ど群衆は、スマホを向けて目の前で起きた光景をネットに流す。テレビ局も流れ込んで来た。
ライブで流れるこの映像は、世界で配信されている。
国道20号線四ツ谷駅に、再び静寂が流れる。
やがて、辿り着いた森野は、まずアコを抱えて戻る。
次にユメ。最後にナダ。ナダを運びながら、陸上部顧問として日々、練習に取り組んでいたナダの姿が脳裏に浮かぶ。
森野は、思う。俺が今運んでんのは、血塗れの死体じゃない。俺の大事な宝達だ。そんな宝の未来を簡単に奪いやがって……………………
森野は、踵を返す。
両手を挙げず、バリケードに近づく。涙を拭う。
「これがぁぁ、美しい国、日本かよぉぉ!!!!!!」
ズズダダダダダダダダダァァァァンンンンンン!!!
狂った1日の幕は、切って落とされた。