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六つ年上の尚人(なおと)兄ちゃんのことが大好きだった。


どこにくっついて行っても、嫌な顔ひとつせずに一緒にいてくれた。

可愛いがってもらい、兄ちゃんの笑った顔ばかりが記憶に残っている。


兄ちゃんに恋人ができたのは、高二のときだった。



──その恋人は、男だった。



「ジェンダー」という言葉も、当時は少しずつ耳にするようになっていたけれど、十一歳だった自分では、男同士が恋人になるなんて想像できなかった……


小学校の高学年になると、友達と遊ぶことも増えて、高校生の兄ちゃんとの時間も少なくなっていた。


……あの頃は、俺だけの兄ちゃんが取られてしまったような気持ちになった。


でも──


俺のそんな寂しい気持ちなんて、ちっぽけに思うくらい、恋人の話をする兄ちゃんは、とても嬉しそうだった。



ある日、兄ちゃんの恋人が家に来た。


「おじゃまします。はじめまして。東 都希(あづま つき)です。よろしくね」



「佐伯 千景(さえき ちかげ)です」



ペコッと俺は頭を下げた。


都希くんの柔らかい笑顔を、

──素直に「可愛い」と思った。


俺に自己紹介をした都希くんの隣で、兄ちゃんもにこにこしている。



──この人が兄ちゃんの好きな人なんだ……


自然と納得した。




それから、都希くんは度々うちに遊びにきてくれて、俺ともゲームでたくさん遊んでくれた。


都希くんは優しくて、キレイで、兄ちゃんと本当に仲が良かった。


兄ちゃんが大好きな都希くんのことを、俺も大好きになった。



──ある時


家に帰ると兄ちゃんと都希くんの靴がすでに玄関にあった。


二人を驚かせてやろうと悪巧みをしながらそろそろと二階へ上がり、兄ちゃんの部屋の前へ行くと声が聞こえる。


耳を澄ました──


何をしているのかは分からなかったけど、一定のリズムで続く音と、ため息のような、不思議な声が同時に聞こえてきた……



「な、おと……」


繰り返し音が続く中、掠れた都希くんの声がふいに聞こえた──


正直何をしているのか理解するのに時間がかかった。


そのあとも、聞いたことのない、都希くんの声だけが何度も聞こえてきて、理解した時には驚き過ぎて叫びそうになってしまった。


男同士でも、やっぱりするんだ……

でも、そんなの知らない!


必死に自分の口を押さえて動揺しながらも、聞いてしまった罪悪感と恥ずかしさで、一階のトイレへそのまま駆け込んだ。


動揺が収まらなかった……



まだ混乱していたけど、何とかリビングへ行き、冷静を装ってゲームをしているところへ兄ちゃんが降りてきた。



「千景、おかえり。帰ってきてたんだな。気づかなかったよ」


「うん!さっき帰ってきた。友達とゲームする約束してたから」


明るいフリをした。


「今、都希もきてるから」


「靴があったから知ってるー」


それだけ会話をすると、兄ちゃんは冷蔵庫から飲み物を取って、また二階へ上がっていった──



きっと兄ちゃんは、笑顔だったと思う……


でも…

あんなに大好きだった兄ちゃんの目が見れなかった──



その夜、あの時の都希くんの声を思い出しては──熱が冷めないまま、夜をすごした。




数日後。


帰宅すると見覚えのある靴がひとつだけあった。


リビングへ行くと、ソファに都希くんが座っていた。


「千景くんおかえり。今、尚人はコンビニ行ってるから。あ、千景くんにもお菓子買ってくるって言ってたよ」


「ただいま!そうなんだ」



あの日以来……都希くんと二人きりになるのは初めてだった。


同じソファに座り、アプリゲームをしている都希くんの横からその画面を覗いた。



「僕、ゲームがすっごく好きなんだよね。夢中になって時間忘れちゃうくらい。千景くんはどんなゲームが好き?」


楽しそうに話す都希くんの方を見ると、思ったより顔が近いことに驚いてしまった。


心臓の音が頭に響くくらいドキドキしている……



「戦うやつとか……」


「そっかー。戦闘ものも面白いよね!」


──俺に笑いかける都希くんは、やっぱり可愛かった。




兄ちゃんが大学二年生のとき、兄ちゃんと都希くんが別れた。


──付き合い始めてから四年。


理由を聞いても、詳しくは教えてもらえなかったけど、


「都希くんが大切だから別れた」

と言っていた。



「俺のせいなんだ……」


そう言って、兄ちゃんは見たことがないくらい泣いた。


都希くんにはもう会えないのか──


正直、都希くんに会えないことが寂しかった。



でも、あんなにいつも笑顔だったのに、見たことが無いくらいに塞ぎ込んで、傷付いてる兄ちゃんを見て、兄ちゃんから笑顔を奪って傷付けた都希くんに苛立った。


それきり……都希くんに会うことはなかった。


少しすると、以前から不仲だったうちの両親も離婚してしまい、兄ちゃんは頑固な父さんに──俺は寂しがり屋な母さんについて行くことになった。


兄ちゃんとはたまに会う程度になってしまったけど、やっぱり俺は優しい兄ちゃんが大好きで、兄ちゃんには幸せになって欲しいと思っていた。




──あれから12年。


兄ちゃんは結婚して、最近子どもが産まれた。


昔のあの頃のように、俺の大好きな兄ちゃんは幸せに笑っている。


──だけどまさか……


それからすぐに都希くんと再会するなんて……この時の俺は、想像すらしていなかった。

ただ、抱きしめて。

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