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帰り道、るかはあくびをした。隠すわけでもなく、自然に。
「寝れそう?」
俺がなんとなく訊いたら、るかは首を横に振った。
「目だけ冴えてる」
「体は眠いけど、なんかこう、思考だけ浮いてる感じ」
「あるある」
「あるよね」
そう言って、またあくび。
家に着いて、玄関を開けると、
薄暗いリビングの空気がやけに落ち着いて見えた。
「……リビングで少しだらだらしてていい?」
「どうぞ」
るかはソファに腰を下ろして、また脚を抱えるようにして座る。
俺はその対角のラグの上に座って、
缶の残りを飲みながら、テレビのリモコンを手に取った。
無音のまま、深夜番組の再放送が映る。
しばらくして、るかがぽつんと呟いた。
「……前、ひとりで暮らしてたときは」
「こういう夜が、一番きつかった」
俺は振り返らずに聞いた。
「へえ」
「……別に今が特別いいわけでもないけど」
「でも、ちょっとはマシかも」
それは、るかにしてはたぶん、
最大級の“本音”だった。
俺は何も返さず、ただ缶の底を見つめていた。
「……だから」
るかが言葉を続けようとして、
でもやめて、ソファに寝転がった。
そのまま背中を向けて、
「やっぱ、なんでもない」
とだけ言った。
⸻
その夜、俺たちはソファと床で、眠れないまま朝を待った。
明かりは消さず、テレビの音も消さず、
まるで“夜”が終わるのを見張るみたいに。