テラーノベル
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金属がぶつかり合う音が、朝から絶え間なく響いていた。労役第七工廠。
高い天井の下、数百人の労役囚が黙々と作業を続けている。
監視ドローンが頭上を巡回し、生体情報と作業速度を監視する。
誰も無駄口を叩かない。
誰も顔を上げない。
ただ与えられた仕事をこなす。
それが労役だった。
ベルトコンベアの上を流れていく真鍮色の薬莢。
機械が火薬を詰める。
弾頭が圧着される。
完成した弾丸が木箱へ積み上げられていく。
その光景を見つめながら、一人の男が立ち尽くしていた。
柴崎蓮司。
四十二歳。
窃盗、傷害、恐喝。
累積刑二十五年。
服役十七年目。
労役囚番号A-7314。
誰が見ても犯罪者だった。
本人も否定しない。
だが、その日だけは違った。
柴崎は足元に転がっていた鉄パイプを拾う。
警告音。
監視ドローンの赤いランプ。
周囲の囚人たちが振り返る。
しかし遅かった。
鉄パイプが振り下ろされる。
火花が散る。
破砕音が響く。
生産ラインの中核設備が歪む。
もう一撃。
さらにもう一撃。
警報が施設中へ鳴り響いた。
それでも柴崎は止まらなかった。
十七年間飲み込み続けてきた何かを叩き壊すように。
やがて警備員たちに取り押さえられる。
床へ押さえつけられながらも、柴崎は抵抗しなかった。
ただ壊れた設備を見ていた。
どこか安堵したような目で。
数日後。
中央司法庁。
AI司法システム《テミス》による再審査が開始される。
執行官は資料を見ながら眉をひそめた。
「理解できないな」
向かいの席に座る男へ視線を向ける。
黒いスーツ。
少し乱れた髪。
書類を読み込むその姿には緊張感がない。
司法庁所属弁護人。
執行官とは正反対の存在だった。
「設備破壊」
執行官は資料を机へ置く。
「現行犯」
「本人も認めている」
「追加刑十年相当」
そして吐き捨てるように言った。
「何を弁護する気だ」
弁護人は顔も上げない。
資料を閉じる。
「別に」
「彼は有罪でしょう」
執行官が固まった。
「……は?」
弁護人は平然としている。
「私の仕事は無罪を作ることではありません」
「裁判が正しく行われたか確認することです」
執行官は言葉を失った。
変な男だ。
それが第一印象だった。
法廷。
被告席に柴崎が座る。
AIテミスの青白い光が中央へ浮かび上がる。
被告人。
生産設備破壊の事実を認めますか。
「認める」
即答だった。
ざわめきが起こる。
動機を説明してください。
柴崎は鼻で笑った。
「気に入らなかった」
失笑が漏れる。
あまりにも幼稚な答え。
だが柴崎は続けた。
「毎日聞かされるんだよ」
大型モニターが起動する。
労役施設で流される国家理念映像。
『我が国は戦争を永久放棄する』
『武力による侵略を認めない』
『平和を維持する国家である』
柴崎はモニターを指差した。
「じゃあ聞くが」
法廷が静まり返る。
「俺たちが作ってたのは何だ?」
映像が切り替わる。
薬莢。
火薬。
弾頭。
完成した弾薬。
「拳銃弾」
「小銃弾」
「機関銃弾」
「何億発もな」
誰も答えない。
国家代理人が立ち上がる。
「輸出です」
簡潔な答えだった。
「我が国は戦争を行いません」
「しかし武器輸出は禁止されていません」
大型モニターに資料が映る。
国家予算。
社会保障。
更生制度。
労役施設維持費。
教育支援。
医療支援。
「輸出利益は国家財政を支えています」
「被告人自身の生活もその利益で維持されています」
理屈としては正しい。
誰も反論できない。
法廷の空気が国家側へ傾く。
だが。
そこで弁護人が立ち上がった。
「質問があります」
静かな声だった。
「労役契約書を提出してください」
書類が映し出される。
生産内容
工業部品製造
それだけだった。
弁護人は国家代理人を見る。
「弾薬とは書かれていませんね」
沈黙。
「被告人たちは、自分たちが何を製造しているか説明を受けていない」
国家代理人は答える。
「国家機密です」
「必要な措置でした」
「労役囚に知る権利はありません」
その瞬間。
柴崎が笑った。
乾いた笑いだった。
「そうだろうな」
そして顔を上げる。
「俺は犯罪者だ」
法廷が静まる。
「若い頃はどうしようもなかった」
「人を殴った」
「金も盗んだ」
「だから十七年もここにいる」
誰も否定しない。
事実だからだ。
柴崎は拳を握る。
「その罰は受ける」
「二十五年でも三十年でも受ける」
少しだけ声が震えた。
「でもな」
全員が耳を傾ける。
「罪を償うことと」
「人を殺す弾を作ることは違うだろ」
法廷が沈黙に包まれた。
AIテミスの演算が始まる。
労役法。
契約内容。
国家輸出法。
監査記録。
判例。
無数のデータが処理されていく。
数分後。
青い光が収束した。
判決を通知します。
誰もが息を呑む。
被告人
柴崎蓮司
静寂。
設備破壊罪
有罪
柴崎は静かに目を閉じた。
当然の結果だった。
だがテミスは続ける。
現行労役刑
残期間 八年
法廷の空気が張り詰める。
設備破壊による追加刑
労役十年
ざわめきが広がった。
合計十八年。
六十歳を超えてなお労役が続く計算だった。
柴崎は表情を変えない。
覚悟していたのだろう。
しかし次の瞬間。
テミスの声が再び響いた。
国家労役庁
説明義務違反
国家代理人の顔色が変わる。
用途隠蔽
認定
法廷が静まり返る。
被告人の動機形成において
国家側の重大な手続違反を確認
沈黙。
そして最終判定。
追加刑十年
破棄
誰かが息を呑んだ。
被告人 柴崎蓮司
労役刑残期間 八年
継続執行
無罪ではない。
釈放でもない。
だが国家もまた裁かれた。
裁判後。
夕暮れの廊下。
執行官は弁護人を呼び止めた。
「お前は犯罪者の肩を持った」
弁護人は立ち止まる。
少しだけ考えた。
「違います」
執行官が眉をひそめる。
窓の外には港が見えた。
無数のコンテナ。
その中には今日も大量の弾薬が積み込まれている。
平和国家を支える弾薬。
誰かを殺すための弾薬。
その矛盾を抱えたまま。
弁護人は静かに言った。
「私は国家の肩も持っていません」
そして執行官を見た。
「法の肩を持っただけです」
そう言い残し、歩き去る。
執行官はその背中を見つめていた。
初めて理解する。
この男は犯罪者を救うためにいるのではない。
国家を断罪するためにいるのでもない。
法が歪まないよう、その場に立ち続ける人間なのだと。
港の向こうで貨物船が汽笛を鳴らした。
平和の名の下に。
無数の弾丸を積みながら。
コメント
1件
おおおお…これは熱い…!!😭💥 「罪を償うことと、人を♡♡♡弾を作ることは違う」って言葉、めっちゃ胸に刺さった…。 柴崎がただの犯罪者じゃなくて、17年飲み込み続けた想いを叩きつけたシーン、震えたよ…! そして弁護人の「法の肩を持っただけ」ってセリフ、カッコよすぎじゃない?? 国家VS個人、正義VS現実…この複雑さがたまらん…続きめっちゃ気になる!!!