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武官文官は、目を丸くする。
見たこともない美女達が、練り歩いていると──。
「ええ、奥にこもっておりましても、居城の様子はわかりません。いざ、御用向きで部屋から出ても、迷子になってしまっては、皆の笑い者になってしまいます」
「それに、そろそろ、姫様にも、こちらの暮らしに慣れてもらわねば」
「あれ、庭の設えの素晴らしいことよ」
「皆様と、茶を嗜むのにもってこいではありませぬか?」
口々に、歯の浮くような言葉を並べ、呉の姫君──、孫朗の侍女達は、あちこちへ顔を出し、華やぎを添えていた。
「おや、おや、まあまあ、そう出てきましたか」
色めく男達に、呆れる者が一人いる。
「黄夫人、仕方ないでしょう。男とは、そうゆうものです。美しいモノを見て、心動かぬようになったら、終わりです」
と、諭すように語りかける男に、
「あら、まっ!劉備様って意外と詩人だこと!」
警護の為にいる趙雲が、思わず、ひっ、と、息を飲むほど、黄夫人は、明け透けな口調で、この蜀《くに》の顔である劉備へ、言っていた。
孔明の策で、黄夫人が寄越された、と、劉備には言っていたが、実のところは、子犬顔になってしまった事がみっともないと、孔明が、出仕を拒んでいるだけとは、夫人と趙雲が知るのみ。
確かに、劉備含め蜀の者達なら、どうにか笑いを堪えて受け入れてくれるだろうが、孫夫人、つまり、かの姫君は、必ず、図に乗るだろうと、論を黄夫人と趙雲に突き付けた孔明は、屋敷にこもったのだ。
「まあ、確かに、奥向きのことは、孔明よりも、黄夫人の方が頼りになるだろう。他の側室では、どうしても、気後れしてしまう」
「ですね。私なら、どうとでも言って、あとは、劉備様へおまかせすれば良いだけですから」
おいおい、黄夫人!と、劉備は、慌てる。
まだ、数回しか話していない、それも、部屋へ足を運ぶのは、初めてだと、そして、ちらほらと耳にする、武装した侍女達の事を劉備は心配していた。
「かなりの、やり手だそうではないか、もしもの時は、趙雲よ、頼むぞ!」
「あらあら、詩人は、どこへ行かれたのでしょう」
「黄夫人、いや、それは、それ、これは、これだよ!孔明すら、やり込められているらしではないか!」
「そうなんですよ!劉備様。昨日、槍で、ザックリと」
黄夫人の言葉に、劉備の顔つきが、変わった。笑みは消え失せ、踵を返す素振りを見せる。
「あれ、なんですか!一国一城の主が、情けない顔をして!女の槍くらい、趙雲様が受けますわよ!」
「えっ?!」
「趙雲様、えっ?!じゃないでしょ!あなた、警護の為にいるのでしょ?!」
「あ、そうですが、しかし、相手は、女人。何の罪も無し、斬りつける訳にも……」
趙雲は、口ごもる。
「あー、つまり、相手は、呉、と、言いたい訳ですね。例え、侍女であろうと、下手に動けないと。そんなもの、劉備様に斬りつけてきたとか、え?それも、問題になりますの?ならば、趙雲様が、盾になって、その槍を受ければ良いだけでは?それならば、問題ないでしょう?」
「しかし、黄夫人、大切な武将を失うことにならないか?」
「なったら、なったとき、そうなれば、劉備様、いえ、私だって、ザックリやられますわよ。と、なるかどうかを、確かめに行っているのでは?」
全く、男って、これだから。最後の最後で、弱腰になって、と、黄夫人は前へ歩み出る。
「さあ、お二人とも、ついていらっしゃい!」
はい、と、劉備と趙雲は、返事して、黄夫人の後に大人しく続いた。