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#YJ
みー
1,309
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あの日から
俺は、仁人のことを知らないふりできなくなった。
夏なのに長袖を着ることも
誰かに呼ばれれば笑うことも
楽しそうな輪の中にいるのに、どこか遠くを見ていることも
全部、前からあったはずなのに
気づいてしまった瞬間から、見え方が変わった。
仁人は、ちゃんと笑っていた。
教室でも
廊下でも
誰かと話している時も。
だからこそ、怖かった。
笑えていることと、苦しくないことは違う
そんな当たり前のことに、今さら気づいた。
放課後の教室
みんなが帰ったあと、仁人はひとりで窓際にいた。
夕方の光の中で、机の上に置かれた手
少し下がった袖
それを見た瞬間、息が詰まった。
見てはいけないものを見た気がした。
「仁人」
呼ぶと、いつものように振り返る
いつもの顔
少し笑って
何もなかったみたいに。
でもその笑顔が、前よりずっと苦しく見えた。
仁人は、自分が壊れそうなことすら隠すのが上手かった。
周りが心配しないように
迷惑をかけないように
誰かの前では、ちゃんとした自分でいようとしていた。
でも、ひとりになった瞬間だけ
その全部が抜け落ちるみたいだった。
俺は何度も聞こうとした
大丈夫なのかって
何かあったのかって
俺に言えないのかって
でも、そのたびに仁人は笑った。
「大丈夫」って。
その言葉が嫌いになりそうだった。
大丈夫じゃない人ほど、その言葉を使うから。
仁人は窓の外を見たまま、静かに言った。
「勇斗ってさ」
声が小さかった。
「俺のこと、見すぎ」
冗談みたいな言葉。
でも責めているようには聞こえなかった。
むしろ
やっと気づいてくれたのか、と言っているように聞こえた。
「ごめん」
気づけば、俺が謝っていた。
仁人は少し困ったように笑う。
そして、目を伏せた。
その瞬間
初めて見た
仁人が、笑えなくなる瞬間を。
泣いていることを認めたくないみたいに、必死に顔を隠す。
声を出すわけでもなく
助けを求めるわけでもなく
ただ、そこにいる
ひとりで耐えるみたいに。
胸が苦しくなった。
もっと早く気づけばよかった。
そう思った。
でも、気づいたからって、何をすればいいのか分からなかった。
俺が隣にいることで
本当に仁人は楽になるのか
それすら分からなかった。
しばらくして
仁人はいつもの顔に戻った。
「帰ろ」
いつもの声
いつもの笑い方。
きっと、仁人が隠しているものは、簡単な言葉じゃ届かない場所にある。
コメント
1件
うわあ…読んでて胸がぎゅってなった。仁人の「大丈夫」が、逆に苦しさを伝えてくるのが辛い。笑顔の裏に隠れたものを見てしまった勇斗の焦りも分かる。まだ2話なのに、もうこんなに重くて繊細な空気が描けるの、すごい。ゆさんの言葉選び、丁寧で好きです。続きが気になる…。でも今はこの余韻を噛みしめたい。