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ハミングを口ずさみながら、廊下を歩く。

隣には、さっきたまたま来るタイミングが被った大我がいる。大我も僕の鼻歌に合わせて、声を乗せてくれた。僕らの歌だから完璧だ。

今日は、MVの撮影日だ。スタジオに入るとき、玄関でちょうど大我に会ったので一緒に来た。

大我「ジェシーが歌ったらいいのに。上手いから」

「なんでよ、大我も上手いじゃん」

謙遜しあいに、二人して笑う。

控室に入ると、すでに高地と北斗、樹が来ていた。「おはよう!」

「おお、おはよう」北斗が先に気づき、笑顔を向ける。

高地「おはよう、ジェシー、大我」

樹「おはよ」

「あれ慎太郎は?」俺が尋ねると、北斗が答える。「いやー、まだ来てないね。珍しい」

「ふうん」


数分後、慌てた様子の慎太郎が部屋に駆け込んでくる。「ごめん遅くなった」

「大丈夫だよ」

いつもの優しい声で、高地は迎えた。

「どうした? 何があったの」

それに対し、北斗は心配そうな顔だ。

「いや大したことないんだけどさ、まあ…その…」

語尾を濁らせる慎太郎。

大我「ん?」

慎太郎「……寝坊、した…」

一拍の空白ののち、「へ?」

北斗がとぼけた声を出した。

「ほんとに?」

俺も反応する。

「目覚ましセットするの忘れててさ、朝起きたらいつも起きる時間の20分くらい遅くなってて。マネージャーからも電話入ってて、それでめっちゃ焦って仕事の用意した…。まだメイクとかしてないよね?」

「うん、まだだよ」

慎太郎「はあ~よかった…」

樹「でも珍しいね。普段きっちりしてるのに」

慎太郎「ほんとだよ。MV撮影なんていう大事な日に…。情けねえな」

大我「そんな気にしないでよ。みんな、たまには寝坊することだってあるし」

大我のフォローに、慎太郎の口元も緩む。「ありがと」

こんな風に、楽屋ではみんなで話すのがいつものことだ。

でも、若干いつもより口数の少ない高地のことが、俺は気になっていた。

それでも少し笑っているから、具合が悪いわけではなさそうだ。単に疲れているだけかもしれない。あまり気には留めず、その後の準備を済ませていった。


「ねえ、このストール、いくら何でも長すぎね?」

自身の着用する薄紫色のストールをつまみ、北斗が言う。確かにそれは、ほぼ足元まで届きそうなくらいの長さがある。

樹「こけない? 大丈夫?」

北斗「いや歩くときには踏まないから…大丈夫」

大我「でも、台本によれば、それ俺が後半で着けるやつだよね」

北斗「ああ、そうだね」

大我「身長高い北斗でその長さだったら、俺どうなるの?」

樹「いやきょもも十分高いんだよ」

慎太郎「っていうか、すごいよね。MVの途中でメンバー同士で衣装交換するってさ」

「ね。俺らも初めてだもん」

話には参加しながらも、たびたび俺は視線を高地に注ぐ。スタジオに入ってから、ほとんど口を開いていない。どこか表情も暗くなった気がする。

すると、高地の右手が胸あたりに持っていかれる。押さえているように見えた。でも本人は、見られていることには気づいていない。

北斗「首に巻いとこうかな」

慎太郎「いや首しまっちゃうよ!」

俺はそっと、高地のもとに近づく。「ねえ高地」

「おお、びっくりした、ジェシーか」

一瞬驚いたあと、いつものスマイルに戻る。でも、俺が表情を崩さないのを見て、口をつぐむ。

「…ん? どうした?」

「……どうしたはこっちのセリフだよ。全然喋んないし、顔暗いから、心配して」

「ああ、いや全然大丈夫。緊張してて」

そう言ってはにかむ高地。

けれど、俺のただならぬ雰囲気を察したのか、「ごめん、なんか心配かけちゃった?」

「ちょっといつもと違うから、気になっただけ。…もしかして、体調悪いとかじゃないよね?」

「え? ううん、そんなことない」

「ほんと?」

俺が念を押すと、高地の目つきが少し変わった。「…気にすんなって言ってるだろ」

吐き捨てるように言うと、背を向けて歩き出す。「ちょっと待って」

止めようとしても、高地はすたすたと行ってしまった。

大我「あれ? 高地どこ行った?」

大我が、首を伸ばしてこちらをうかがう。

「ああ…水飲みにでも戻ったんじゃないかな」

樹「え、スタジオは出てないよね?」

「多分」

北斗「なんかあった?」

「え」

北斗のやや鋭い視線が、俺を射抜く。「勝手に出てくなんて、高地らしくない」

正直に言うことに決めた。

「…さっき俺が、高地…口数少ないからちょっと心配して声掛けたんだけど、『気にすんな』って言われて…。行っちゃった。多分、俺が怒らせちゃった…」

慎太郎「大丈夫だよ、高地がジェシーに怒ることなんてない」

大我「そうだよ、優しいから」

「でも…」

樹「ちょっと俺、様子見てくる」

そう言うと、樹は踵を返し、走っていった。俺もあとを追いかける。


樹が荷物を置いた場所にいる高地を見つけ、駆け寄る。

が、途中で足を止めた。俺は少し離れたところで見守る。

高地は、こちらに背を向けるようにしている。しかし、斜めからだと、椅子に手をつきながら胸を押さえているのがわかった。おかしいのは明らかだ。

「高地っ」

はっと顔を上げ、「樹」

胸から手を離し、樹を見る。樹は、高地の目を見据えて言う。

「なあ、隠すなよ。大事な仕事のときこそ無理は禁物だって」

「……ん、何のこと?」

「とぼけんなよ!」

突然の樹の大声に、高地は目を見開く。メンバーや数人のスタッフも振り返った。

「さっきジェシーが言ってた。様子がおかしくて、ちょっと心配で声掛けたけど、逆に怒らせたかもって。もしかしたら俺らには知られたくないことなのかもしれない。それでも、倒れられたら困るんだよ」

高地はうつむく。樹は声を和らげ、「言える範囲でいいから、教えて」

すると、ほかのメンバーも集まってきた。何も言わず、口を開いた高地の声を聞く。

「…最近、なんか胸が痛いことがあるんだよね。心臓なのか肺なのか、それとも胃なのかはわかんない。ちょっと胸が締め付けられるっていうか、苦しい感じがする。何もしてないときになるときもあるけど、緊張したときとか運動したあともちょっとなる。タイミングはバラバラって感じ」

みんなの表情は一様に、驚いたものだった。

「ただ疲れてるだけかなって思ってたんだけど…」

高地は言うが、

北斗「そんな、見過ごしてたらダメだよ」

慎太郎「そうだよ、早めに病院とかで診てもらったほうがいいって」

高地「そうだよね、うんわかってる…」

樹「今日どうする?」

高地「…頑張る」

「ダメだって無理しちゃ」

高地「でもジェシー、もう日にちは変えられない。こればっかりは、また今度にしましょう、なんてできないのわかってるでしょ?」

反論の余地はなかった。言っていることはもっともだ。

高地「大丈夫、今は何ともないから。ほんと」

大我「じゃあこれは約束して。こまめに休憩をとること。ちょっとしんどいなとか思ったら、誰でもいいからすぐに言うこと」

いつにもなく厳しい口調の大我に気おされ、

「う、うん。わかった」

大我はうなずいた。

慎太郎「そういえばきょもも年長組だったなー」

大我「え?」

樹「こう見えて、意外とたまーにしっかりしてる」

大我「たまに?」

「確かに。こーちが弟みたいだった」

大我「褒められてんのか何なのかわかんない」

不服そうに言う大我に、みんなも微笑みが漏れた。

俺はちらりと高地の顔を見、安堵のため息をつく。いつものように、笑っていた。


それからは何事もなく、撮影は終わった。

「大丈夫だった?」

俺が訊くと、

「ああ、うん。心配すんな」

表情こそ頼もしかったが、心の中の不安が完全に消えることはなかった。


続く

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