「なんで古佐くんって一人称『僕』なの?」
高校一年生になったばっかりの僕に、
隣の席の子がそう聞いてきた。
「え?」
と僕が声を漏らせば
「だーかーらー!!」
「なんで一人称『僕』なの?」
と繰り返し聞いてくる。
「『俺』って何だか言いにくいし…」
僕が呟くようにそう言うと
「ふーん…」
「まぁ古佐くんはそっちの方がいいと思うよ」
と言った。
まだ会ったばかりで、
互いに何も知らないはずなのに。
さも知っているかのように。
そう言った。
「桜ってなんか虚しいよね」
授業中の僕にそう言ってきた。
もちろん畑葉さんも授業中仲間なんだけれども。
「今授業中…」
僕は小声で教えるようにそう言う。
「知ってるよ」
そう言いながら畑葉さんは、
にししっと歯を見せながら笑った。
「そういえば中学生の友達に呼ばれてたあだ名ってある?」
授業中だって言ってるのに更に話してくる。
僕は呆れながらも
「特に」
と短く答える。
「私はね〜『タンバリン』って呼ばれてたんだ!」
そう言いながらも悲しい雰囲気が僕にまで漂ってきた。
「タンバリン?」
「そ、畑葉凛だからタンバリン」
「似てるでしょ?」
なんかこういう自虐ネタ嫌だなぁ…
どう反応すればいいか分からないし。
そう思いながら何も言わないでいると
「何か言ってよ!!」
と怒られる。
それよりなんで畑葉さんは僕なんかに話しかけてくれるんだろう。
この学校にはイケメンだっていっぱいいるし、
平凡な僕なんかちっとも面白くないと思うのになぁ。
あの後、『一緒に帰れる?』なんて聞かれて『いいよ』なんて言ったはいいんだけれど。
家、近いのかな。
そんなことを思いながら隣にいる畑葉さんに歩幅を合わせる。
「古佐くんってさ、嘘ついたことある?」
急に立ち止まって、
真剣な目をしながらそんなことを聞いてくる。
「嘘?ついたことないけど」
そう僕が言うと
「やっぱり」
と呟き声が聞こえた。
やっぱりってなんだろう。
でも何となく気付かないふりをしていた方がいいのかも。
そんなことを考えてるうちに、
気付けば僕は自分の家の前にいた。
しかも畑葉さんはいない。
どこで別れたのかも分からないまま今日は終わりを告げた。
「あ、おはよ」
いつも通り学校に行くと、
何気ない挨拶を僕にかける畑葉さんがいた。
まぁ、当たり前なのだが。
「おはよ」
今日は特に話さないまま、
学校生活は昼時間となった。
「畑葉さん、お昼は?」
お母さんが作ってくれたお弁当箱の蓋を開け、
ふと隣を見る。
と、畑葉さんはスマホをいじっているばかり。
「ん?今日はお腹空いてないからいいかなーって」
そういう割には微かにお腹の空いている音が先程から聞こえている気が…
まぁいっか。
「ふーん…」
そう興味無さげな返事をしながら卵焼きを口に運ぶ。
あ、甘い。
普段はしょっぱい系なのに。
また甘い系始まったのかな。
もう1つ。
そう思って箸で2つ目の卵焼きを摘む。
そのとき横から腕を引っ張られ、
箸の先の卵焼きは畑葉さんの口の中へ。
「へ?」
僕がそんな情けない声を出している最中、
「ん~!!美味しい!」
と足をジタバタさせながら満面の笑みを浮かべている畑葉さん。
というか関節キスなんだけど。
「あ、もしかして関節キス気にしてる?」
今度は意地悪そうな笑みを浮かべながら聞いてくる。
「そんなことない」
とぶっきらぼうに答えると
「えー?絶対嘘だ〜!!」
と指を差しながら反論してきた。
それより残りのお弁当どうしよう。
この箸で食べるのは気が引けるし…
でも拭いて食べるっていうのもあれだしなぁ…
隣の目線を気にしつつ、
僕は意を決して次の食材を口に放り込む。
出来るだけ箸を口に付けないようにして。
それと、バレないように。
そんな作戦をとっていたのにも関わらず
「やっぱり気にしてるじゃん!!」
「明らかに箸、口に付けないようにしてるし!!」
と言ってきた。
洞察力がすごいんだか僕のことを見すぎなんだか…
そんなことは思えど、
後者の方の確信が高まりつつあるのがなんとも気に食わない。
というか口の端に卵焼きの欠片がついている。
どんな食べ方をしたらつくのだろうか。
僕はポケットティッシュを取り出して
「ついてる」
と言いながら卵焼きの欠片を拭き取る。
と、
「えぁ…」
と言いながら俯く畑葉さん。
仄かに頬が薄桃色で染まっていた。
改めて女の子なんだなぁって思った。
「古佐くん、やるなら2人きりの時が良かったな」
ふと、そんな声が聞こえ畑葉さんの方を向く。
と同時に僕は気づいたことがある。
それはニヤニヤしながら他のクラスメート達が僕たちを見ていたということ。
そういえば僕たちがいるのは教室だった。
だから当たり前に他の人も居るんだった…
そう後悔しながらも、
きっと僕の頬も畑葉さんと同じ色になっていただろう。
だって、そんな気がしたから。
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