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引き続きメイドにつられ歩み始める。
「まずは紅魔館の案内と人物の紹介からするわ。改めて私の名前は、十六夜咲夜。紅魔館のメイド長で、人間よ」
「最後の紹介いるか?」
わざわざ人間という言葉を出さずとも、どう見ても、そうにしか見えない。
「ここの館……いえ、幻想郷には人間や妖精妖怪、神や鬼も居るのよ」
「……はぁ?」
「さっき貴方と話した、愛しいお嬢様は吸血鬼よ」
「吸血鬼!?」
何がなんだか分からない。唐突にファンタジーの話をされて、困惑する。
いや、俺が言えたセリフではないか。
「……まぁ信じてやるよ。
テメェが急に現れたのは、人間の芸当じゃねぇんだろ?」
最初から疑問だったことを口に出す。
「あれは【時間停止】私の能力よ。
ここだと、様々な能力を持った人間妖怪が居るの」
昔の氷室なら、こんなおとぎ話は信じなかっただろう。だが予知したように話す吸血鬼、目の前に現れるメイドを見て、信じるしか無かった。
「へぇ……そいつぁ便利だな」
必要な会話だけが続く。雑談なんてない。
歩み続けた先、地下に入り、脇道の暗い道を無視して更に奥の扉を開ける。
「─おぉ……」
そこには目を覆い尽くす程の本。
─大図書館─
いや、そんな言葉では伝えられないほどの大量な本。先が見えない程の本棚の数にびっしりと埋められた本。
「ここは紅魔館の図書館、そして─」
歩みを続けると、紫色の髪と目を持ち、少し派手な、パジャマ姿のような人物が見える。
こちらが近づいても、気にせず、本を読み続ける。
「ここの図書館の主、七色の魔法使い、パチュリー・ノーレッジ様です。
パチュリー様……こちらは、お嬢様が話していた執事になる氷室零です」
咲夜が説明を終えると、パチュリーはゆっくりと本を閉じ、こちらを見つめる。
「……よろしく……」
ボソっと呟くように挨拶をしつつも、目線はこちらを撫で回すように見続ける。
「よろしく」
疑問に思いつつも、一応挨拶は返す氷室そんな時。遠くから、こちらに向かって叫ぶ声が聞こえてくる。
「あ〜!その子が例の執事さんですか!?私、小悪魔です!以後よろしく!! 普段はパチュリー様の下でお手伝いをしています!!」
対照的にうるさいのがやって来た。
赤色の髪と瞳、背中と頭には翼のようなものが生えている。見た目としては正しく小悪魔だ。しかし、話し方が、想像しているものと全く違っていた。
このパジャマが、悪魔を使役しているようには見えない。
氷室がそう考えたところで、咲夜が咳払いをして話しを始める。
「ゴホン……改めて、こっちの赤いのは小悪魔、パチュリー様の身の回りの世話をしている悪魔よ」
「……俺の持ってる悪魔のイメージと全然違うんだが? ……と言うか小悪魔って」
「私たち悪魔って、こわいイメージ持たれがちですけど、可愛い悪魔も居るんですよ?私みたいに!!」
そう言いながらこちらの左手を握る。
次の瞬間。
バチィッ!という音が鳴り響き、小悪魔の手が弾かれる。
「ッ!!!」
数瞬、氷室に苦悶の表情が現れる。
手を弾かれた小悪魔は驚いた様子で氷室を見ている。
しかし、氷室の方は悲しそうな……それでいて怒気のような表情を浮かべながら話す。
「……馴れ合う気はない!触れるな!」
「ご……ごめんなさい……」
一瞬の出来事に咲夜もパチュリーと驚くが、咲夜はすぐに冷静にもどる。
「あまり無闇に触れないの、そしてあなたも」
そう言いながら氷室の方を向く。
「何もそこまで強くしなくても良いでしょう」
「……馴れ合う気はないって、最初に言っただろ?必要最低限だけ、仕事をする。事前に言ったぞ。
……もうここは良いだろ、次を案内してくれ」
困り顔で歩き出す咲夜と、悲しそうにこちらを見ている小悪魔。
それとは別に、最初から最後まで氷室をじっと見ていた、パチュリーが口を開く。
「……貴方、時間がある時ここに来なさい」
「……なんでだ」
「ここでは言わないであげる、良いから来なさい」
「……チッ」
その舌打ちは肯定か、否定か、分からぬまま氷室達の姿は遠のいてゆく。
「……パチュリー様。もしかしてあの子の…………手袋……」
何かを察したように、小悪魔とパチュリーが深刻そうな表情を浮かべる。
「小悪魔、あの本を全て持って来てちょうだい」
「それ結構多いやつじゃないですかァ!!」
最後に、小悪魔の悲鳴だけが氷室の耳に届いていた。
しばらく歩いて、台所や食事処、風呂場や氷室の専用部屋を教えてもらい、次は執事としての内容らしい。
「ひとまずは、こんなものかしら? 何か質問はあるかしら?」
館内を案内した中で、唯一教えてもらってない箇所を疑問に出す。
「地下の脇道は?あそこもなんか部屋あるだろ」
咲夜の動きが一瞬固まる。
「……あそこは、お嬢様以外は立ち入り禁止なの。勝手に入ることは許されないわ」
「……あぁそう……」
「まず貴方にやってもらいたいことは─」
そう言いながら場面が切り替わる。
場所は門前人物のような物が建っている場所。
そこで咲夜は、いつの間にかその手に持っていたナイフで………………刺した。
「!?」
「いったぁぁぁい!!!」
「!?!?」
「眠っているほうが悪い! 今日は客人が、来るって言ったでしょう!!」
「!?!?!?」
一連のやりとりに驚きと動揺を隠せない。
もはや驚きを通り越して冷静になってしまった。
そんな中、氷室から出てきた出てきた考えは『こいつ、銅像じゃねぇのか』だけだった。
「改めて紹介するわ。紅魔館の居眠り門番、不労所得。こいつのせいで仕事が増える穀潰し、美鈴よ」
「酷くないですか!?それはそうと、貴方が噂の氷室さんですね。話は聞いてます〜、よろです〜」
門番には似つかわしくない、ずいぶんと緩い挨拶に、困惑をしつつも挨拶を返す。
「氷室零、脅されて執事になった」
「たはは〜 ヒムロンが執事になるのは、お嬢様から見たら決定事項ですからねぇ」
なんなんだこいつは? 馴れ馴れしいぞ、誰がヒムロンだ。
少しイラつき覚えつつも、どうにか冷静さを保つ。
「貴方……こういうときぐらい、しっかりしないの?」
「私がしっかりしたら、がっちり門番になってしまうのでダメですよ〜」
「それがあるべき姿だと思うのだけど」
仮にもこちらは客人をほっぽりだして会話する二人に、冷ややかな目線を向けつつ苛立ちを抑える。
そして、業務内容を教えてもらい、気付けば夕暮れ。
「……貴方、凄いのね……掃除も業務内容も、完璧だなんて……。昔にやったことあるのかしら?」
「……こんなん誰でも出来るだろ」
当然のように話す。しかし、咲夜は何かを察したのか、話題を変える。
「……そう、とりあえず今夜の食事は私が作るから、貴方は休憩していなさい」
「おう」
紹介してもらった自室に戻り、ふと顔を上げる。
─昔の景色と二重に映る─
何処か寂しそうな表情でベッドに向かい、泥のように眠る……。
そして覚めた頃、時間通りに食事処へ向かう。
「改めて歓迎するわ!!氷室零!新たな執事よ!!」
「カンパーイ!!」
「お願いをするから、貴方は少し落ち着きなさい美鈴。氷室、貴方の席はそこね」
まさかの歓迎会に驚きつつ、指定された席に座る。
「紅魔館の仕事は大変でしょうけど、そのうち慣れるわよ。
主にレミィの面倒を見るだけなんだから」
「ちょっとパチェ!私のことを子供みたいに言わないでよ!!」
「パチュリー様も、人の事言えまけどねー」
「小悪魔、後で覚えていなさい」
「えッ、まってゆるして」
そうして歓迎会を無事に終える。
【椅子が一つ空いている】という疑問を残して。
そして、辺りが暗くなってきた頃。約束通りパチュリーのいる大図書館へと向かう。そこには、怪訝な表情をしているパチュリーが座っていた。
「……単刀直入に聞くわ。貴方のその右手、何があったのかしら?壊死し始めているわよね」
氷室は苦虫を潰したような顔で話し始める。
「……昔に……お前らがいう、魔法を使ったんだ」
「……どういう状況かは知らないから、広めないし、詳しくも聞かないわ」
そう言いながら黒の片手袋を渡される。
「これは?」
「貴方のそれと同じ……いえ、もう少し上位の魔法を組んだ手袋よ。手の保護と魔力回路としての役割も持たせてある。……多少は楽になるはずよ。
話せる気になったのなら、いつか話してちょうだい」
「……あぁ、助かる。話す気が起きたら話してやるよ」
そう言い残し図書館を後にする。
その頃咲夜は最後の仕事を終え自室へと戻る。その道中、今日の出来事を思い出す。
今日は多くのことがあった……。
氷室と言う子は……口と態度は非常に悪いが、必要最低限の事はやっているため、特に文句は無い。お嬢様は何故あの子を迎え入れたのか……。
1番の疑問だけれども、メイドの私が疑問に思う立場は無い。
ふと窓の外を見る、屋上には人影が見える。よく見ればそれは氷室であった。
涼んでいるのだろうか……目を凝らして、よく見てみる。
「…………綺麗」
思わず時を止め近くまで行く。
黒かった髪は美しい青と水色に変わっていた。だがその背中は何処か、寂しそうに……。
「……メイドか」
ハッと我に返り身を正す。
「こんなところに居たら危ないわよ、明日からもっと働いて貰うのだから、今日はもう寝ておきなさい」
彼が振り替えると、いつの間にか美しい髪色は消え、いつもの黒に戻っていた。
「そうだな、面倒事が増えたようだから大人しく寝かせてもらう」
いつもの悪態をつきながら、帰っていく背中は、何処か、小さく見えた。