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青野君とのピアノの勝負まであと5日切った時だった。
蓮二から、電話がかかってきた。
「もしもし?どうしたの?」[あぁ望雲、あのさー今日道の駅行ったんだけどよー、なんか新しくストリートピアノできてたんだよなー。]「ふーん。そうなの。じゃ切るねー。」[おいおい待てよ!お前さ、ピアノ弾けるだろー?一曲弾いてみたらいーじゃねーかよー。]「でも…どこの道の駅かも分からないじゃん。」[えっと、〇〇道の駅。]「あ、そこなら……」
チラッとカレンダーに視線をやってから、私は話を続けた。
「明日の祝日、〇〇行く予定なんだよね。そこって〇〇行く途中にあるから、立ち寄ってみるね。」[おー、いーじゃねぇか。なんか曲弾いてこいよ!]「うーん…でもそういうのって予約とか取らないといけないんじゃないの?」[はぁ、そうなのか?ストリートピアノってあれだろ?誰でも自由に演奏とか出来るやつだろ?別に予約とかなんかいらねーんじゃない?]「そういうものなのか…」
電話を終えた後、私は姉さんのことを思い出した。姉さんは生前、少し遠くにあるショッピングモールに家族みんなで行った時、ストリートピアノで曲を演奏していた。あの時の姉さんはとっても楽しそうで、足を止めて演奏を聞いていた人達のたくさんの拍手が、とっても嬉しそうだった。
…………あの頃は、あんな姉さんが事故死するなんて夢にも思わなかった。
大切な人は、明日も必ず生きているって人は思い込んでしまう。私もそう思っていた。
戦争がなくなって、日本はずっとずっと平和になったと思った。けれど、災害や事故なんかの予測不能な出来事で突然、大切な人って自分の前から姿を消す。こんな悲しいことがあるのか、未だに信じがたい事だと思う。
頭がそんな考えでくるくると回ると、涙が出てきそうな目になっていたので、顔をぶんぶんふって、私はピアノの練習に向かった。
それから、もうあっという間に勝負の日になった。
音楽室に向かうと、先に青野君が来ていたので、今まで聞いていなかったことを聞いてみた。
「あのさ、青野君。今更だけどさ、今回の勝負でどちらが勝ったらなにかあるとか考えてあるの?」「もちろん。お前が勝ったらお前は好きなようにしていい。俺が勝ったらピアノを続けてほしい。以上だ。」「そ、そうなの………」
私はなんとなく返事をした。
それから少し青野君と会話をしていると、校長先生が入ってきた。
「2人ともお待たせ。早速始めましょう。」
校長先生はピアノの後ろを向いて椅子に座った。
一応、評価に偏りが出ないように、どちらが演奏ているのか分からないよう校長先生は後ろを向いている。
最初に演奏するのは私。曲は「ピアノソナタ第11番」。モーツァルトさんの曲。まぁモーツァルトさんの正式名称は「ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト」だけど。
次に青野君はモーリス・ラヴェル(ラヴェル)の「亡き王女のためのパヴァーヌ」を演奏した。勝負が終わってすぐ後調べたが、ピアノだと中級程度の難易度らしい。けど、ノーミスで完璧に青野君は弾き切った。なかなかすごいことだと思うけど。
どっちの演奏にも、校長先生は大きな拍手をしてくれた。