「あわわ……こ、ここが私の部屋。私が使っていい部屋なんですか!?」
「はい、勿論です」
私は、ルーメンさんに案内された部屋の扉を開けた。
そこは、まるでお姫さまの部屋のような豪華な作りをしていた。
天蓋付きのベッドに、猫足のテーブルと椅子。窓際には花瓶まで飾られている。
私は恐る恐る中に入り、キョロキョロと辺りを見渡した。ルーメンさんは、ごゆっくりどうぞ。と部屋を出ていった。
彼が出て行ったのを確認し私は、一度やってみたかったことを実行する。
「聖女万歳ッ!」
私はそう言って、ベッドの上にダイブした。ふっかふかでとても気持ちいい。
家のベッドでダイブすると床が抜けそうで怖かったため出来なかった。ベッドの上で少し暴れただけでもギシギシと酷い音がしたからだ。
暫く、私はそのままゴロンゴロンと転がっていた。天井が高い。
「本当にきちゃったんだ……私」
私は改めて、自分が大好きな乙女ゲームの世界にきたんだと実感した。
しかし自分は偽りの聖女のエトワール。
本物の聖女のストーリーでは簡単に上がった好感度も、エトワールになった今そう簡単に上がらないだろう。
まあ、まだ暴れてもなければ失礼な態度をとったわけではない。改善の余地がある。
私は起き上がり、攻略に向けて作戦を立てることにした。勿論、リースは今のところ眼中にない。
「わあ…綺麗」
ふと視界に入った大きな窓から外を見た。
そこには大きな庭園があり、色とりどりの花々が咲き乱れている。こんな景色、今まで見たことがない。
私は、思わず見惚れていた。
「聖女様が気に入るよう、庭園が見えるこの部屋をご用意したのです」
「うわっ! 吃驚した」
いつの間にか水色髪のメイド姿の女性が、私の後ろに立っていた。私は驚いて飛び跳ねてしまった。
ノックもなしに入ってきたということだろうか、何て失礼な。
防衛本能が働き、私はメイドと思われる女性から距離を取った。
「そう、警戒しないで下さい」
「警戒するに決まってるでしょ! いつはいってきたの!?」
私がそうメイドに問うと、メイドは「聖女様が部屋に入ってくる前です」と即答した。
ということは、私がベッドにダイブしてはしゃいでいたところを見られていた可能性が高い。恥ずかしすぎる……修学旅行の学生じゃあるまいし。
私は、羞恥心から顔を真っ赤にして俯いた。そんな私を見て、メイドはくすりと笑みを浮かべた。
「――ほんと、ハムスターみたいで可愛いんだから」
「…ハム、ハムスター?!」
何だか分からないが馬鹿にされている気がしてならない。
ん? ちょっと待って……
「もしかして、蛍!?」
私は思わず水色髪のメイドを指さしてしまった。
彼女は、ニッと笑うと私に抱きついてきた。
「久しぶり~! 巡!」
そういって、抱きついてきたメイドを私は抱きしめ返した。
彼女は、万場蛍。
私の唯一の親友だったのだが、一ヶ月前事故で死んでしまった。とても、とーっても恥ずかしい理由で……
「まさか、巡もこの世界に転生してたなんて。どうしたの? 死んじゃったの?」
「勝手に殺さないでよ……私は、アンタみたいに阿呆な死に方してません! エトワールルートを間違えて押しちゃって、気づいたらここにいて」
なるほど、と蛍は納得したかのように近くにあった椅子に座った。
死んだ親友までもが此の世界に転生しているとは驚きである。
これも何かの縁か……って、転生者多すぎない!?
流れで受け入れようとしていたが、実際、三人も転生者がいる乙女ゲームとは? と、私はまた思考の渦に飲み込まれた。
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