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「しっかし、巡がエトワールとはねぇ」
「ヒロインがよかったのに! それか、モブ」
私がそう叫ぶと、まあまあと宥めてくる蛍。
こういう所は変わっていない。彼女は私とおなじオタクで、高校にはいってそうそう孤立していた私に話しかけてくれた唯一の人物なのだ。
私と違って堂々としていて、成績もよくて(私も成績の方はいいけれど)先生にも一目置かれているような存在だった。
面倒見がよくて、運動も出来て。私とは正反対なのに、オタクという共通点を持っていたというだけで私は彼女と仲良くなることが出来た。そして、趣味も合う。
「うぇぇえん。蛍ぅ、蛍の役変わってよ」
「だーめ、てか無理でしょ。それにメイドだって忙しいの」
そう言って、蛍はお茶の準備を始めた。
「蛍だって、逆ハーされたいと思うでしょ!?」
「でも、エトワールはねぇ……」
そう言って、困り顔で頬を掻く。私は、その言葉を聞いて項垂れた。
確か蛍は、エトワールのストーリーが追加されたその日から彼女のストーリーをプレイしていた。彼女は私と違って、来るもの拒まず何でも食べる雑食だから愛されない悪役のストーリーも抵抗なくプレイしていた。
「私一年後に死んじゃうのかなぁ」
「いやいや。大丈夫でしょ……多分。それに巡の好きなリース様いるじゃない、彼を攻略するんでしょ?」
そう言われ、私はリースの顔を思い浮かべた。しかし、すぐに中身が元彼だったことを思い出し首を思いっきり横にブンブンとふった。
「元彼だもん」
「へ?」
「リースの中身元彼だったのッ!」
驚いた表情のまま固まった蛍をよそに、私は事の経緯を話した。
蛍は何も言わずうんうんと私の背中を撫でながら聞いてくれた。
「ふーん、そうだったんだ。まず、別れてたことに吃驚だわ」
「……あ、そっか。蛍は知らなかったんだね」
元彼と別れたのは、此の世界に来る丁度一ヶ月前。その次の日蛍は死んでしまったから、別れたことを話せずにいた。
確か蛍の最後の連絡は「コミケ帰り、目当ての本買えた」というコミケ帰りの報告だった気がする。
別に親しい人が亡くなったからといって、別れたからといって私の生活が大きく変わるわけでもなかったから気にしていなかったけど。
蛍は、淹れたお茶をテーブルに置き椅子に座り直した。淹れられたお茶は美味しかった。
私は、カップをソーサーに戻し蛍を見た。
蛍は、しっかりとメイドであった。何でもこなせるし、驚きはないけれど。
水色の髪は一つにまとめてあり、海のように深い蒼色の瞳はメイドというこの世界ではモブという役割なのに対しあまりにも美しかった。
「ちゃんとメイドなんだね」
私が言うと、蛍は笑った。
「でも、メイドって不遇じゃない? 雑用係でしょ? せっかく乙女ゲームの世界に転生できたのにメイドはちょっと……」
「メイドを侮って貰っちゃ困るわ! 巡ちゃん! メイドはね……影が薄いからこそイケメン達の絡みを間近でみることができるのよ!」
と、蛍は目を輝かせ息を荒くして言った。そんな彼女をみて、やっぱり蛍だと思った。
そう、彼女は歴とした腐女子である。
「この世界のモブはね、とっても顔がいいの。だからそこら中で目の保養ができるわけよ! がたいのいい男達が汗水垂らして訓練してて、あれはもうデキてる……そこら中でイチャイチャしてるの! もう最高!」
「……えっと、ごめん蛍。私そういう趣味はないんだけど」
蛍は聞く耳も持たなかった。
因みに私はそういう手のはあまり得意ではない。蛍に勧められて何度か読んだり、見たりしたが、やはり心は動かなかった。
(まあ、蛍が楽しそうならいいか……)
そう割り切って、私は紅茶を啜った。
「リースと補佐官のルーメンとか!」
「ブ――――――ッ!」
私は思わず、口に含んでいた紅茶を吹き出した。