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#タヨキミ

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#タヨキミ

24 - 第24話 嘘つき

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2024年05月12日

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そいつを初めて見つけたとき、妙な既視感に襲われた。


両手に大量の注射器を抱え、滅茶苦茶に伸びた髪を揺らして。


汚い。けど、なんかかわいい。っていうか、少し美味しそう。


あぁ………あれだ。こいつ、あれに似てる。



ハルカはなにも考えず、そいつに声をかけた。





食べ物が嫌いだ。


肉も、魚も、野菜も、茸も、米も、卵も、麺も、パンも、とにかく全部。お菓子も嫌いだし、ジュースも嫌い。


飲み込めるのは、藁とか布とか紙とか、人間用じゃないやつ。あと、お水。


人間用の食事なんてしなくても、ハルカは健康的だ。肉が大好きなカナタと身長は同じだし、体重もそんな変わらない。


肉は嫌いって言ったけど、ハルカ、ひとつだけ食べれる肉がある。教会で、何も食べたがらないハルカに怒ったオバサンが、ぶっきらぼうに出してきた”何か”の生肉。血の濃い味がしたけど、嫌いじゃなかった。


血の味はべつに嫌いじゃない。好きでもないけど。


それを美味しそうに食べたときの、オバサンの驚いたような顔は今でも覚えてる。


今だからわかる。あれ、人肉だ。


まあ、人肉だったからどうとかはないけど。でもその肉、毎晩夕食に出てきたんだよね。


何人殺したんだろう。ハルカが食べたのは、女の肉かな、男の肉かな。心底どうでもいい。


リサイクルみたいで、いいと思った。この肉の分だけ、ハルカも頑張って生きよう………いや、やっぱめんどくさいかも。





イヌイはかわいい。めちゃくちゃかわいい。


イヌイって名前、ハルカ、天才すぎたかも。


かわいくてかわいくて、食べちゃいたい。うん、あれにそっくり。


イヌイにあげた藁ピアス、肌身離さず持っててくれてる。かわいい、似合ってる。


「はりゅか、しゃ………」


ハルカさん、ってまだ言えないんだね。自分の滑舌と戦ってるのかわいい。


ルナとかソラの前で、緊張してハルカの後ろに隠れちゃうのかわいい。


ハルカが打った注射痕、嬉しそうに撫でてるのかわいい。


ルナに「九九もできねぇのか」ってバカにされて、お風呂の中、死に物狂いで九九唱えてるのかわいい。


トオンとヒトネが入ってきたとき、初対面でガン飛ばしちゃうのかわいい。


No.4になれた日、真っ先にハルカのところに走ってきたの、かわいい。


ハルカがルナと口論してるとき、後ろから「ハルカさんが正しいだろこのヤニクソ野郎!」って叫んでるのかわいい。そんな言葉、どこで覚えたの。


かわいい。かわいい。とにかくかわいい。


食べたい。抱きたい。少し虐めたい。


誰にも触ってほしくない。誰にも見せたくない。


イヌイのこと抱いたオッサンは、ルナに頼んでことごとく抹殺してもらった。つまり生きてる生物の中でイヌイに触ってるのは、ハルカと他数人。


もちろん、イヌイの家族の女どもは全員殺した。ルナが。


女のくせにイヌイの親なんて、ひどい。


ハルカはイヌイの体中のホクロの位置をぜんぶ把握してるし、なんて言われたらなんて返すのかも大体わかる。イヌイがいつどこにいるのか、管理してるのもぜんぶハルカ。


本当に大好き。今までも、これからも。



だから。まさか逃げられるなんて、思ってなかった。



ハルカがイヌイのこと好きなように、イヌイもハルカのことが好き。絶対に。


あんなに可愛い子が、ハルカのこと嫌いなはずがない。


あんなに尽くしてくれたのに。あんなに好きって言ったのに。


イヌイが逃げた理由なんて、どうでもいい。


ただ、そばに居てほしかった。








ものすごい勢いで飛んでくるナイフを避けながら、カナタはハルカに接近する。


「戦うの、久しぶりだね………ねぇ、兄貴」


そのまま剣を振るうが、ハルカに軽々と避けられてしまった。

(………やっぱムカつくけど、カナタよりハルカのほうが強い。だからカナタはちゃんと自分の手で斬らなきゃ、ナイフで跳ね返されちゃう………ナイフ多いし。リオに3本、カナタに9本………カナタに使いすぎっしょ)


正直言うと、怖い。

強がって、リオにはああ言ったけど、めっちゃ怖い。

だって、ハルカ、強いもん。昔からだけど、今戦ってもわかる。

カナタと別れてから、すごい強くなった。

ナイフだって、最初は5本が限界だったのに、今は13本とか。カナタなんて、長い剣1本で限界だ。


今ハルカを救ったって、昔に戻れるわけではない。

何人殺してるか知らないけど、自分の罪と、一生向き合うことになる。洗脳だって深いはず、記憶喪失になったり、死んじゃったりしたらどうしよう。どうにもならない。

きっとこのまま放っておくほうが、ハルカにとって幸せだ。カナタの行動は、間違ってるかもしれない。


どうするべきなのか………馬鹿なカナタには、わからない。


怖い。逃げ出したい。殺したくない。

楽しくない戦いは、これが初めてだ。



「迷ってるんですか、カナタ先輩」

リオの声に、カナタははっとして顔をあげる。


「らしくないですよ………1回救うって決めたんなら、救うんです。どうなるかわからない、死んでしまうかもしれない。でもここでやらなきゃ、何も変わらない。このままでいいんですか?」


「うっ………べつに、迷ってないし」

何だよ、上から目線で………。

でも、1回ムニカを亡くしたリオの言葉には、信じられないほどの説得力があった。



「自信もってください、先輩!先輩は、誰よりも強いんですから………!」



リオはそう叫ぶと、ハルカに斬りかかる。

弾き飛ばされたって、何回も何回も、怖がらず、勇敢に。


あぁ………なんか、どうでもよくなってきた。


過去とか、未来とか。そんなん、違うじゃん。

カナタが向き合うべきは、今のハルカだ。



リオの連続攻撃で、ハルカにも疲れが見えてる。

でも、リオは、ハルカを救えない。

カナタが説得して、洗脳を解かなきゃいけないんだ。


「………ありがとう、リオ。やっぱお前、かっこいいよ」


カナタは剣を握り直す。

救うって決めたんだ。これで何回目だよ。


カナタは、ハルカに斬りかかった。

その度に弾かれ、拒まれようと、休むことなく剣をふりつづける。


「ったく………しつっこいな!」

「こっちの台詞だよ!いい加減救われろ、このわからずや!!」


最初こそハルカが有利だったものの、カナタとリオの連続攻撃でだんだんと息が切れてくる。

自分の手で剣を振るうカナタと違い、ハルカは能力で、一気に十何本ものナイフを操っている………先に息が切れるのも当然だ。


ふと、ハルカがふらついた。体に限界が来たのか。

その瞬間を、カナタは見逃さなかった。

彼はニヤリと笑ったかと思うと、剣を捨て、いきなりハルカに飛びかかった。


「!?」

カナタの突然の行動に、ハルカは対応が遅れる。

カナタはそのまま、ハルカを押し倒して上に乗った。抵抗するハルカの腕を掴んで、自分の手で拘束する。

そして、少し楽しそうに問いかけた。

「ねえ、ハルカ。この協会って、カナタたちがチビっ子のときに連れてこられたところっしょ?」

「………それがどうしたの?」

「いや、べつになんでもないんだけどさ。覚えてない?入ったらオッサンとオバサンが拍手して………ハルカはよく、あそこの神様の前で、藁を食ってた」

「覚えてるけど」

「そしてそのあと、カナタと夜までいっしょに遊んで、同じお布団で寝て、カナタが怖いときにはいっしょにトイレまで行った」

「………うん」

「カナタが怪我したとき、ハルカは傷口に炭酸水をかけた。嫌がらせだと思ってたけど、洗おうとしてくれてたんだよね。他にもいっぱい、ハルカはカナタのために行動してくれた」

「………………」

ハルカは何も言わない。これでいい。


「カナタさ、また、ハルカと遊びたい。この戦いは遊びじゃないけど、これからもハルカといっぱい戦いたいし、ハルカとずっといっしょにいたい。ハルカは変だけど、カナタ、そんなハルカが大好きだ」

「………知らない。そんなの、カナタのわがままじゃん。ハルカはカナタが嫌い」

「嫌いでもいい。いっしょにいよう………っていうか、ハルカ、カナタに乗っかられるの好きすぎない?昔からだよね」

「は?そんなわけ───」

「だってカナタ、もう拘束してないけど。ずっと手あげてねっころがったままじゃん、隠れドMか?」

ハルカははっとして、カナタを突き飛ばす。そして立ち上がり、声をあげた。


「べつに、カナタなんて大嫌いだし!ッ………お前のせいで、めっちゃ頭いたいんだけど」


カナタは、リオと顔を見合わせた。いや、ハルカはとんでもなく洗脳されてるはず。その割にはリアクションが薄いので、まだわからないが………それでも、ビックチャンスだ。

カナタが剣を握り、ハルカに近づこうとした──その時。


ハルカの背後の空間が、わかりやすく揺れた。

そしてシュン、と音をたてて、誰もいなかったはずの空間に一人の少年が突如としてあらわれる。


「ハルカさん………今まで、ごめんなさい」

「イヌ………イ……………?」


困惑する暇もなく、彼は持っていたナイフで、ハルカの背中を裂いた。

「!?」

カナタはその場に固まった。リオも相当驚いたのか、その場に座り込む。

倒れるハルカ。彼………イヌイは脈を確認し、そして二人を振り返った。


「…………お前が、イヌイ?」


カナタが訊くと、イヌイは静かに頷いた。

「ハルカさんは、死んでないので………目が覚めたら、洗脳も解けて元に戻ってると思うっす」

「あ、そう。じゃあ、タヨキミ連れてっていい感じ………?」

「………………」

イヌイは黙りこんだ。よく見ると、体がボロボロだ。

(連れてったほうが、いいのかな………?)

ここで迷うなんて、タヨキミとして失格だろう。でも、なんか…………あまりにも、あっさりしている気がする。まだなにかが引っ掛かるのだ。

すると突然、イヌイが涙を流し始めた。リオが近寄って背中をさすってあげると、小さな声で呟く。


「…………もう、嫌だ。オレとハルカさんを、助、けて」


迷った自分が馬鹿だった。

「リオ、ツキミを呼んでくれる?二人、連れて帰るよ」

イヌイは、たしか女嫌いだった。リオが抱えて帰るのは、イヌイにとっても負担になるだろう。

とはいえ、ハルカとイヌイの二人を抱えられるほど、カナタの体力も残っていない。

アキトは最近忙しいらしいし、ソーユはイヌイには合わないし。

ツキミは空気が読めないが、コミュ力と腕力がある。一番マシだろう、そう思った。


(…………あれ?)

ふとイヌイを見たカナタは、イヌイが握っているナイフに目がいく。

ハルカのものだ。ハルカは小さい頃から同じナイフを使っているから、一目見たらわかるのだ。


救われると知ったからか、イヌイは安心したように鼻をすする。

カナタにはどこか、そのイヌイの姿が異常に見えた。









ベッドに眠るハルカを、イヌイは心配そうに見つめる。

正しかった。オレの行動は、正しかった。


(ハルカさん……オレのこと、覚えてくれてるかな)


オレは、死のうとした。

自殺だなんて、クソダサい。けどいざ死のうってなると怖くて。飛び降りたら、けっこうな時間浮いてるような気がして、落下も以外と遅くて、受け身取っちゃって、死にきれなくて。

そしたらルナが来て、怒られて、考えた。たくさん考えた。

ハルカさんは、やっぱりおかしかったんだ。

でもオレは、それを正そうとするのが怖くて、見てみぬふりをして逃げていた。

ハルカさんのことは、大好きだ。たとえ忘れられたとしても、絶対に。


イヌイは、寝ているハルカの手を握る。

するとハルカの指が、イヌイの手のひらをぎゅっと掴んだ。

「…………!」

なんとなく。すごいなんとなくだけど、きっと忘れられてないと思った。








「ねえ…………アキトがいない今、ぼくたちだけであの二人を保護するのは危険じゃない?」


いつものリビング。いつもより緊張した面持ちのソーユに対し、ツキミが能天気に答える。

「だーいじょうぶ、だいじょうぶや。こっちには双子くんがおるやん~」

いきなり名前を指された二人は、「いや」と否定する。

「さすがにあの二人は…………」

「別にもう上司でもなんでもないんだし、骨折って終わりだろ」

「おぉ、サチは肝が据わってるなあ……」

かなり夜も深く、この場にいるのは数人だけだった。

「つか、アキトはどこに行ったんねん!クリスマスイヴにおらんとか、まさかデートか?ぶち殺したろかおい!!」

「いや、アキトに彼女はいませんよ。なんたってアキトは、未だに初恋の相手に片想い中ですから」

ユズキの発言に、その場の全員が食いついた。それを面白がるかのように、カエデが笑う。

「しかもその相手、男なんだぜ~。まあ、言うとユヅルなんだけどな。ちっさい頃からあいつらはラブラブで、見てるこっちが苦しいくらい。アキトは隠してるつもりだけど、バレバレでさ」

「ちっさい頃から、って…………」

「……え、言ってなかったか?ユヅルとアキトと私とユズキは、近所に住んでた幼馴染みだって」

「え…………ええええええ!?」

ユヅルとアキトが幼馴染みなのは言っていたが、二人まで幼馴染みだったなんて。

「ボス、幼馴染みいたんだ………」

元キビアイメンバーも、違う方向に驚いていた。

「で?アキトはなんで、ユヅルに惚れたの?」

「さてな。優しくていい奴だったし、顔可愛いし、周囲の男子は全員ユヅルの虜だったから……そこらへんじゃね?」

「ちょっとカエデ。アキトが今まで死守してきた秘密を暴露してしまっては、本人が可哀想です」

「まぁな…………じゃ、あとは本人に訊け~」

「絶対にやめてください。アキトの前でユヅルの名前を出すのだけは、本当に駄目ですよ?」

「ぁ~かってるよ、冗談冗談。てか作戦会議に集まったんだろ?会議しよーぜ」

その通り、とでも言うように、ソーユが咳払いをする。

するとカナタが「はい!はい!」と手を挙げた。

「次に狙うべきは、ルナだと思う。No.5っしょ?No.4とNo.3がいたら余裕じゃね?」

「いや、ルナはやめといたほうがいいと思う」

即座に入った否定に、カナタは「なんで?」と訊く。

「いや……ルナって、ボスのお気に入りだから。救ったら、どうなるかわからない。しかもルナって、地位にこだわりがないだけで、めっちゃ強いし………力もそうなんだけど、能力がとんでもない。人間が戦って勝てるような奴じゃないよ」

「ルナの能力の概要は?」

「『操風』。ルナは能力が元々強くて、普通の人よりも精密に操れるみたいなんだよね。だから場の空気をなくすことができるし、風圧を使えば車だって潰せる。まあ、あの人は普通に拳銃持ってるからそれも怖いんだけど」

ヒトネの口から出てくる情報の量に、みんなは驚いた。

「さすが、キビアイの情報通と謳われるだけあるな………弱点は知らないのか?」

サチの質問に、ヒトネは「うーん」と唸る。

「普通に、信憑性の欠片もない噂だけど。ルナにはえてるあの角、二本とも折れば死ぬらしいよ……それくらいかな」

「死んでもらっちゃあ困りますね。ルナは保留でいいと思います………彼はわたしたちを庇うような行動が目立ちますし、あまりにも謎が多いので」

ユズキの言葉に、みんなは頷く。

「………アキトがいないので、どうにもなりません。もう夜も深いので寝ましょう。カナタは二人の見張りをお願いします」

「あいよ。ハルカが暴れたらみんなで止めるからな」

「変なこと言うなよ」

ぼちぼち会話をしながら、各々が自分の部屋に戻る。




電気が消えたリビング。

音もなく姿を現したルナは、入って正面にあった机を物色する。

「ここがタヨキミアジトかよ、ひー、俺の情報やべぇ」

「………………」

「なんだお前、いたのかよ」

突っ立っているトオンを見て、ルナは笑った。

「ハルカとイヌイ、無事か?」

「………無事だ。なんだ、安否確認のためにわざわざ不法侵入してきたのか。優しいじゃないか」

「不法侵入じゃねえよ。許可とってっから」

ルナの言葉に首をかしげつつ、トオンは口を開く。

「てっきりお前が内通者だと思っていたが、違うんだな………ここに来たの、初めてくさい」

「そうだなあ。これだけは誓う、俺はボスを裏切らねぇ。あと、タヨキミにゃあ興味ねえよ」

「そうか、ならさっさと帰れ。おやすみ」

そういうと、トオンは奥の扉に消えていく。

「………あいつのコミュ障も、随分と治ったな」

別に、嬉しいわけではないけれど。


………あいつ、元気してるかなぁ。


タバコの煙を残して、ルナはまた、闇夜へと消えていった。







続く



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