テラーノベル
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週末───
待ちに待った土曜日
私は朝からクローゼットの前で頭を抱えていた。
オフィスのブラウスやタイトスカートじゃない
本当の「私」を彼に見せる初めての日。
「……よし、これにしよう」
淡いパステルカラーのニットに、ふんわりとしたロングスカート。
この日のために新しく購入したコーデだ。
鏡の前で何度もチェックして、待ち合わせ場所の駅ビルへと向かう。
人混みの中で彼を探すと、柱の影に立つ一人の男性に目が釘付けになった。
「……萩原、さん?」
そこには、完璧なスーツを脱ぎ捨てた彼がいた。
ラフな黒のライダースジャケットに、細身のデニム。
前髪を少し下ろした姿は
会社での「部長」よりもずっと若々しく、それでいて大人の色気が増している。
「日菜子ちゃん……それ、新しい服だよね?似合ってるし、すごく可愛いね」
彼が近づいてきて、自然に私の手を取った。
オフィスでは絶対に許されない、指を絡める恋人繋ぎ。
人目に触れる場所で彼と手を繋いでいるという事実に、心臓の鼓動が耳元まで響く。
「萩原さんも……その、すごくかっこいいです。別人みたいで、ドキドキします」
「はは、そう?今日は『部長』は置いてきたから。ただの男として、君をエスコートさせて」
彼が選んでくれたのは、隠れ家のような静かなブックカフェ。
本に囲まれた落ち着いた空間で、私たちは仕事の話を一切封印して
お互いの子供の頃の話や、好きな音楽について語り合った。
「へえ、萩原さんって学生時代、バンドを組んでたんですか?」
「ああ、ベースを少しね。……意外だった?」
「はい。だって、いつも完璧にスケジュールをこなすイメージだから、バンドなんて意外すぎます…!」
笑い合うたびに、彼との距離が縮まっていくのを感じる。
ふとした瞬間に彼の手が私の髪に触れ、耳元に指先が滑る。
そのたびに、私は言葉を失ってしまうほどときめいてしまった。
夕暮れ時
公園のベンチで一休みしていると、彼がふと真面目な顔をして私の横顔を見つめた。
「……日菜子ちゃん、今日一日、君と一緒にいて確信したかも」
「えっ、何をですか?」
「日菜子ちゃんと……一秒だって離れたくないんだなって」
彼は繋いでいた手に力を込め、私の肩に頭を預けてきた。
広場では子供たちが走り回り、散歩中の犬が鳴いている。
そんな日常の景色の中で、私たちはただの「恋人」として、溶け合っていた。
「……私もです。明後日から、また会社で他人を装わなきゃいけないなんて、寂しいですね」
「けど、日菜子ちゃんと仕事ができるだけで俺は幸せだよ」
「萩原さん…っ」
沈みゆく夕日に照らされて、彼は私の頬を優しく撫でた。
休日という魔法が解けるのが怖くて、私は彼のコートの袖を、ギュッと握りしめた。
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