コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「編集長、俺にこの事件を担当させてください。お願いします。」
俺は会社に戻って新聞記事に載っていた事件を指差して、開口一番そう言った。部署移動してからほとんど何も言ってない俺からの提案だ。編集長の水田は面食らったように俺を見た。
水田はこの会社では熱血なことで有名だ。編集長になってからもいつも夜遅くまで残っている。何事にも全力投球なのだ。部下への声掛けも欠かさず、しかし、熱血ながらも冷静な目は持っている。水田の芯を食った意見には毎度、感心させられる。
「急にどうしたんだ。… 確かにこの事件の担当者を決めようとは思っていたが、それにしても、どうしてお前が?」
水田は大きな目で俺をじっと見つめた。
「えっ、いや、どうしてって言われても、気になったもので…」
俺は植木の勘です、と言うわけにもいかなく曖昧に答えてしまった。しかし、ここで引き下がったら負ける。俺は意を決して答えた。
「とにかく、俺はこの事件を担当したいんです!お願いします!」
編集長はしばらく俺をじっと見ていたがやがて言った。
「わかった。この事件はお前に担当してもらう。その代わり、しっかりスクープぐらいは取ってくるんだな。」
「はい!ありがとうございます!」
俺は自分のデスクに向かいながら小さくガッツポーズをした。しかし、期待しすぎてもいけない。まだ、植木の勘が当たるかどうかは確実ではない。今はこの事件と過去の事件について共通点があるかどうか、その事実を確かめるべきだ。
俺は一度深呼吸をし、手帳とペン、録音機、カメラを準備し鞄に入れた。いつものことだが、初回の取材は緊張する。
「植木、行くぞ。」
となりにいた植木はうっす、と言ってリュックを背負った。
「先輩、行きましょ。」
俺はあまりの身軽さに驚いた。
「お前、忘れ物はないだろうな。これからは1分1秒無駄にできないかもしれないぞ。」
「大丈夫です。俺、このリュックに全部入れてるんで。先輩もそう言う鞄、作った方がいっすよ。動き、遅くなりますよ。」
…おそらくこういう物言いが生意気だと言われるんだろうな。しかし、間違いではない。しかも確かに効率的だ。
「いいんだよ、俺は。準備することでリズムを作るんだ。一種のルーティンだよ。」
植木はふーん、と受け流した。俺にもこいつくらいの豪胆さが欲しいが、あいにくそんなものは持ち合わせていない。できれば全部細かく決めておきたい。それは、植木もわかっているのだろう。
「まあ、とりあえず行くぞ。」
俺らは会社を出て事件現場へと向かった。