テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第九十話 戻れなかった場所
駅を出てから、二人は何度も地図を確認した。
けれど、メッセージに書かれていたのは、
『事故の日に君が戻ろうとした場所』
それだけだった。
「これだけじゃ、どこか分からないね」
彼女がスマートフォンを見ながら言う。
「うん。でも……俺には分かる気がする」
少年はそう答えた。
「本当に?」
「たぶん」
自信はなかった。
けれど、頭の奥にはずっと同じ景色が残っている。
雨。
濡れた道路。
古い建物。
そして、そこから少し離れた細い道。
事故の日。
自分はその道を一度通り過ぎた。
そして、戻ろうとした。
なぜ戻ろうとしたのか。
そこに誰がいたのか。
それだけが思い出せない。
二人は記憶を頼りに歩いた。
駅から離れ、住宅街を抜ける。
やがて、見覚えのある古い建物が見えてきた。
「ここ……」
彼女が立ち止まる。
少年も足を止めた。
以前訪れた建物だった。
事故直前に見た場所。
そこから先は一人で行った――
そう思っていた場所。
「違う」
少年が呟いた。
「何が?」
「ここじゃない」
彼は建物の横を通り過ぎた。
その先にある細い道を見つめる。
胸が苦しくなる。
「……こっち」
二人はゆっくり進んだ。
数十メートルほど歩いたところで、
少年の足が止まった。
そこには小さな空き地があった。
#恋愛
ばたっちゅ
20,092
#誓い
耀聖(ようせい)
381
今は使われていないようで、草が少し伸びている。
少年は、その場所を見た瞬間に息を呑んだ。
「……ここだ」
彼女も周囲を見回す。
「事故の日に?」
「うん」
今度は、はっきり分かった。
雨の中。
自分はここに立っていた。
誰かを待っていた。
いや――
誰かが来るのを待っていた。
そして、少し離れた場所にもう一人いた。
顔は見えない。
でも、その人の手には青いリボンがあった。
「……あの人」
少年の記憶が揺れる。
「ここにいた」
「誰?」
「分からない」
悔しそうに目を閉じる。
「でも……俺は、その人を知ってた」
彼女は何も聞かなかった。
ただ、少年の隣に立った。
しばらくして、
少年は空き地の端にある古い石を見つけた。
その裏側に、小さな金属片が挟まっている。
取り出してみると、見覚えのある印が刻まれていた。
あの丸い記号。
「また……これ」
裏には文字もあった。
『戻れなかった理由を、ここで思い出す』
少年はその一文を読んだ。
そして、記憶が一気に押し寄せた。
雨の音。
走る自分。
手の中のチャーム。
誰かの声。
『先に行って』
『でも――』
『大丈夫だから』
『……待ってて』
『うん』
そこで、少年は振り返った。
その人の姿が見える。
顔までは見えない。
けれど、確かに分かる。
その人は、自分を待っていた。
なのに自分は、その場を離れた。
「……俺」
少年の声が震える。
「俺が、戻ろうとしたんじゃない」
彼女が少年を見る。
「え?」
「戻らなきゃいけなかったんだ」
記憶の中で、自分は誰かに向かって言っていた。
『すぐ戻る』
そして、その場を離れた。
その途中で――事故に遭った。
「だから……」
少年は額に手を当てる。
「事故の日、俺が守ろうとした人は……ここにいた」
彼女が静かに尋ねる。
「じゃあ、どうして戻れなかったの?」
少年は答えられなかった。
その問いだけが、記憶の奥に残っている。
そして、もう一つ。
事故に遭う直前。
誰かが自分の名前を呼んだ。
少年は振り返った。
その声は――
今まで聞いたどの記憶よりも近かった。
「……呼ばれた」
「誰に?」
「分からない。でも……」
少年は空き地の先を見る。
「俺は、その声を聞いて振り返った」
彼女の表情が変わった。
「じゃあ、事故は……」
「まだ分からない」
少年は首を振った。
「でも、俺は一人じゃなかった」
そのとき、風が吹いた。
空き地の端に置かれていた古い板が倒れる。
その下から、薄い紙が一枚出てきた。
彼女が拾い上げる。
紙には、たった一行。
『あの日、君を呼んだのは、君が守ろうとした人じゃない。』
二人は黙った。
少年は紙を見つめる。
そして、その下に薄く残った文字に気づいた。
『だから、君は――』
そこから先は破れていた。
「……誰が呼んだんだろう」
彼女の問いに、少年は答えなかった。
ただ、事故の直前に聞いた声だけが、
何度も頭の中で繰り返されていた。
そして初めて気づく。
自分が忘れていたのは、
事故そのものだけではない。
――事故の直前に、
自分を呼んだ「もう一人」の存在だった。
コメント
1件
え、ちょっと待ってこの展開やばすぎん!?😭✨ 主人公が「戻ろうとしたんじゃなくて戻らなきゃいけなかった」って気づくシーン、もう胸がぎゅってなったよ…!しかもラストの「君を呼んだのは君が守ろうとした人じゃない」って紙、ホラー要素含んでてゾクゾクした…!! 「もう一人の存在」って伏線、めっちゃ気になる〜!!続きが気になって夜しか眠れないやつだよ🌸💕