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ゆらね🍍🌸🍵関東組🫶
家に帰るのが、怖い。
玄関の前に立つだけで、足が止まる。
ドアの向こうの空気を想像するだけで
息が浅くなる。
だから今日も帰らない。
学校の裏。古びた倉庫の前でしゃがみ込む。
スマホはずっと無音のまま。
誰とも繋がっていないはずなのに
頭の中だけがうるさい。
ちゃんとしなきゃ。 普通にしなきゃ。
でももう、よくわからない。
視界が少し揺れる。
何日ちゃんと寝てないんだっけ。
「……またここ」
声が落ちてくる。
その一言で、胸の奥がわずかに緩む。
「来なくていいのに」
「来るよ。あんた今日、やばい顔してる」
隣に座る気配。
距離が近い。近すぎる。
「別に普通だし」
「普通じゃない」
即答。
否定されると、少し安心するのが嫌だ。
「手、貸して」
「やだ」
「いいから」
軽く掴まれる。
振りほどく力が、うまく入らない。
「……ほら、冷たい」
「寒いだけ」
「違うでしょ」
指先を包まれる。
その温度だけが、やけにくっきりしている。
「ちゃんと寝てる?」
「寝てる」
「嘘」
「……寝てるってば」
「じゃあなんでこんなフラフラなの」
言葉に詰まる。
見られてる。
全部。
隠してたはずなのに。
「……帰りたくない」
気づいたら、違うことを言っていた。
「今日、うち来る?」
間を置かずに返ってくる。
逃げ道みたいに。
「……いいの」
「いいよ」
「めんどくさいよ、私」
「知ってる」
「じゃあなんで」
「それでもいいから」
当たり前みたいに言う。
「……ちょっとだけ」
「うん」
“ちょっとだけ”のはずなのに
もう立ち上がってる。
行き先が違うだけでこんなに楽になるなんて。
部屋は静かだった。
何も怒らない。 何も壊れない。
それだけで、胸の奥がじんとする。
「座って」
ベッドに押される。
足元が少しふらつく。
「やっぱおかしい」
「平気だし」
「平気なやつはそんな顔しない」
覗き込まれる。
近い。逃げ場がない。
「……見ないで」
「やだ」
あっさり拒否される。
「無理してるでしょ」
「してない」
「してる」
「してないって」
「じゃあなんで震えてるの」
言い返せない。
自分でもわかってるから。
限界がちょっと過ぎてること。
「……やめて」
「やめない」
優しい声で、逃がしてくれない。
肩に触れられる。
「今日も頑張ったね」
その一言で、全部崩れた。
息がうまくできない。 視界が滲む。
「……頑張ってない」
「頑張ってる」
「足りない」
「足りてる」
「全然」
「足りてるってば」
強く言い切られる。 逃げ場がなくなる。
「……もうやだ」
声が勝手に漏れる。
「全部やだ。家も、学校も、私も」
止まらない。
「どうしたらいいかわかんない」
涙が落ちる。
「ちゃんとできない」
言葉がぐちゃぐちゃになる。
「消えたい」
一瞬、空気が止まる。
やばい、と思った。
でも――
「じゃあ、消えないで」
すぐ返ってくる。
「代わりに、ここにいて」
顔を上げる。
すぐそこにいる。
「私のとこにいればいい」
「……そんなの」
「他いらないでしょ」
言い切る。
逃げ道を潰すみたいに。
「私もいらないし」
「え」
「他の人とか、どうでもいい」
軽く言うくせに、目は本気だ。
「だからさ」
頬に手が触れる。
あったかい。
「私だけ見て」
心臓がうるさくなる。
「ね?」
逃げなきゃいけないのに。
でも――
「……ずるい」
「知ってる」
「こんなの、無理」
「無理でいいよ」
距離が、さらに近づく。
「私がいないとダメでしょ」
さっきより低い声。
「目離したら、壊れそうだし」
図星すぎて、何も言えない。
「だから、離れないで」
少しだけ震えてる。
この子も、同じだ。
「いなくならないで」
その顔を見たら、終わりだった。
「……いかない」
口が勝手に動く。
「どこにもいかない」
言ってしまった。
戻れない言葉。
一瞬だけ、息を呑んで――
強く引き寄せられる。 唇が、重なる。
衝動みたいに、乱暴で、でも必死で。
逃げる余裕なんてない。
息が混ざる。鼓動が近すぎる。
離れても、距離はそのまま。
「……約束ね」
「……うん」
「破ったら、ほんと無理だから」
「……うん」
「私、壊れる」
冗談じゃない。 本気だ。
だから――
「大丈夫」
自分でも信じてないのに言う。
「私も無理だから」
同じくらい壊れてるって、証明するみたいに。
一瞬、安心した顔をする。
それが、嬉しいと思ってしまう。
帰る場所ができた。
正しくない場所。
でも、あの家よりはずっといい。
きっとこの先、もっと壊れる。
でも―― それでもいい。
だってもう、 目を離されたら
終わるのはお互い様だから。
あなた以外、いらない。