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【能力者名】阿久野六法全書
【能力名】 悪徳のジャッジメント
《タイプ:擬態型》
【能力】 ルールに強制力を与える能力。
(ルールを破った者は三日後に 死ぬ。この能力は阿久野が 能力を解除しない限り防ぐ ことはできない。強制力を与えることが できるルールは一つのみ。)
【以下、細菌達の記録にて】
《米津高校生徒指導室にて》
白雪ちゃんとの面談を終えて、 赤点をとった生徒二人の能力を 《エンプレス•ディスコ》で破壊した米津高校の女教師ロカ先生は二年生の小テストを 担当していた影踏先生から受け取った次の 赤点候補者の情報を確認した。
(阿久野六法全書、図書委員長。無能力者を
自称しているがおそらく《擬態型》の能力者、赤点を取ったのも罠の可能性あり。注意されたし。)
影踏先生からの業務用メールを100kgある
水筒で温かいカモミールティーを飲みながらロカ先生は確認した。
(これは……気を引き締めないといけないわね。)
そう思いロカ先生は机に水筒を置いた。
ズシィィィンと重たい音が生徒指導室に響いた。
「失礼します。」
阿久野はそう言って、ロカ先生のいる生徒指導室へと入っていった。
阿久野の声は風鈴のような、 とても静かで、しかし不思議とはっきり 聴こえる声だった。
阿久野は生徒指導室へと入ってきた。
阿久野は青いロングヘアーに青い瞳、
きちんと整えた制服に右の胸ポケットに生徒手帳、左の胸ポケットにミニ六法全書を
入れていた。
パッと見の印象は静かな模範生徒と言った
印象であった。
(随分と静かな子ね、不気味なくらいに。)
阿久野の一挙手一投足を具に確認したロカ
先生は、彼女のことをそのように分析した。
阿久野は足取りから、息遣い、心音に至る
まで驚くほど静かだった。
赤点を取り、これから心をへし折られ、能力を奪われる人間とは 思えないほど、落ち着いていた。
阿久野はロカ先生に促され、静かに席に
座った。
「阿久野さん、あなたがここに呼ばれた理由は分かっているわね?」
ロカ先生は微笑みながら、冷静に阿久野六法全書を観察した。
「ええ、ルールは絶対ですから。どうぞ
私に罰を与えてください。」
にこりともせず、抵抗する様子もなく
阿久野六法全書はロカ先生の目を見ながら
言った。
あからさまな罠、挑発。
どうぞ《エンプレス•ディスコ》を使ってくださいと言っているようだった。
ロカはその挑発には乗らず 生徒指導室のティーポッドでいれた紅茶と クッキーを渡した。
これはロカ先生流の生徒達の 取り調べをする際のルーティーンである。
【尋問開始】
「あなた、嘘が下手なのね。そんな安い挑発に私が乗ると思ってるのかしら?あなたの
能力は身体に触れることで発動するカウンター型の能力。違うかしら?」
そう言いながら、ロカ先生は阿久野の顔を
じっと見た。
反応を出さないよう努めているがロカ先生は阿久野のわずかな心音の変化や 目の動きからロカ先生の仮説が図星であったことを確信した。
このロカ先生の洞察力は能力ではなく、
彼女の第二次超能力者戦争での経験と長年の
教師生活によって培った経験則である。
「あなた、確か図書委員よね?そして米津高校の図書館には《図書館の亡霊》という怪談がある。たしか、《図書館で大声を出した者
は三日後に死ぬ》だったかしらね?
まさか、とは思うけどあなたが《図書館の亡霊》の犯人なのかしら?私が赤点をとった人間の能力を破壊しようとしてるのを利用して
邪魔な私を殺そうとした?違うかしら。」
静かに紅茶を呑みながらロカ先生は言った。
198cmあるロカ先生からはとてつもない殺気が放たれていた。しかし阿久野は 殺気に怯まずに言った。
「いえ、私は《図書室の亡霊》ではありません。変な噂が減って図書室の利用者が減っていることを憂慮しているくらいです。」
淡々と、阿久野は嘘を吐いた。
ロカ先生は まずはこの極めて危険な能力者の能力を 破壊しなければならないと判断した。
警察に突き出すのが理想ではあるが 彼女を罰するには圧倒的に証拠がなかった。
(殺人鬼の可能性があるとは言え相手は
生徒、殺すことはできない。なら次善の策ね。)
ロカはこのクレイジーな殺人鬼でありクレイジーな法の番人と司法取引をすることにした。
《交渉》の時間である。
【尋問終了】
【交渉開始】
「取引をしましょう。その能力を解除して
私にその能力を破壊させなさい。そうすれば私があなたの願いをなんでも一つ叶えて
あげるわ。」
そう言ってロカ先生は紅茶を呑んだ。
なんでも、と言うのはロカ先生流のハッタリである。
ロカ先生はこのハッタリでこの凶悪な能力者の腹の内を探ろうとした。
「……では、一つ頼みがあります。
《図書館で大声を出したもの、スマホゲームをしたもの。飲食をしたものの心と能力を
『エンプレス•ディスコ』で破壊する。》
という校則を作ってください。」
阿久野六法全書は静かにロカ先生を見つめた。
その言葉には嘘偽りがないように思われた。
「…….わかったわ、校長先生に相談して必ずその校則を作るわ。安心なさい、私は嘘
が嫌いなの。それにしてもそんなルールを要求するなんて貴女は随分真面目なのね。」
ロカ先生はそう言って冷ややかに笑った。
「ええ、私は《図書室の亡霊》ではありませんが、簡単なルールも守れない人間はこの世からいなくなった方がいいと思っています。」
悪びれもせず阿久野は言ってそして自らの
能力を解除した。
「…..そうね。だからって亡霊がルール
違反者を殺していい理由にはならないわ。」
そう言ってロカ先生は念のため利き手ではない方の左手で阿久野の手に触れ、《エンプレス•ディスコ》で阿久野の心と能力を破壊した。
バリィィィン
と阿久野の中で何かが壊れた音がした。
「しんどいかもしれないけどもう一つ答えて頂戴?私は今、最近噂になっている《トイレの亡霊》の真犯人を探しているの。あなた、
何か知らないかしら?」
心がへし折られて汗だくになり、震えながらうずくまる阿久野にロカ先生は言った。
「…….いえ、私も……その噂は最近耳にしてましたが……おそらく……一年生のいたずらかと……..。」
息を荒げ、立つこともままならないといった様子で阿久野は言った。
彼女の言葉に嘘は ないように思われた。
そして彼女の能力、《悪徳のジャッジメント》は、もう再起不能なほど破壊されていた。
「……そう、ありがとう。あなたは能力なんてなくてもちゃんとやっていけるわ。人生は
折れてからが本番よ。あなたが自首するか、
自分の罪を隠して生き続けるかはあなたの
判断に委ねるわ。もし貴女がまた誰かを殺
したら、その時は責任をもって私があなたを殺してあげる。」
そう言って、ロカ先生は阿久野が歩けるようになるまで見守った後、彼女を帰らせた。
その後ロカ先生は念のため保健室へと向かった。
《保健室にて》
「んーハイハーイ。私の《乙女解剖》で
確認したけど身体に異常も、能力がかかってる痕跡もなかったわよー。」
おでこをしっかり出したロングヘアーの
アンニュイな雰囲気の保健医、
出子内仁奈は能力で
ロカ先生の身体を診察してそう言った。
仁奈先生の能力は《乙女解剖》。
女性を診ることで女性の身長、体重、スリーサイズ、 体調、経験人数、どんな能力をかけられているかから どんな能力を持っているかまで 知ることができる能力であった。
これは仁奈先生の
《女の子の悩みに寄り添いたい、男は知らん。適当に絆創膏でもつけてろ。》
という強い願いから生まれた能力だった。
「……ありがとう、能力をかけられた感じは
しなかったけど一応ね。それと、緊急事態だからあなたの持つ女子生徒のカルテを見せて
貰えないかしら?」
そう言ってロカ先生は仁奈先生に頭を下げた。
「だーめ、生徒のプライバシーを守るのも
私の仕事だもの。その生徒がたとえ大量殺人鬼だとしても、私は生徒達の心とプライバシーを守るわよー。」
ロカ先生のバキバキの腹筋を 艶かしくなでくりまわしながら仁奈先生は言った。仁奈の意志は とても固く、例え《エンプレス•ディスコ》を活用した拷問をしたとしても仁奈は口を割らないことをロカ先生はよく知っていた。
「……それもそうね。邪魔したわ。」
そう言ってロカ先生は服を来て保健室を
出た。
「あらー?もう行っちゃうのー?あんた寝
不足だからもうちょっと眠った方がいいわよー娘のマカロニちゃんによろしく伝えといてー。」
そう言いながら仁奈先生はロカ先生に対し
ふりふりと手を振った。
(最後まで読んでくださりありがとうございます。)