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昨日の出来事で今日こそ心行くまで布団と一緒にいると決意した。
しかし酒のせいか眠りは浅く、通知音で目が覚める。
もう8時になっており、外は既に明るい。
【今日暇ですか?よかったら一緒に出かけませんか?】
黒田君から初めて誘いがきた。
(ど、ど、ど、どうしよう。)
動揺で眠気はどこかに行ってしまった。
なにせ看護師になるために必死で、恋愛などしたことがない。
(え、どうするのがいいの?正解はなに?)
高鳴る胸を抑えつつ、明日以降の勤務を確認する。
(明日は日勤だから早出より朝の時間的余裕があるから•••。)
そんなことを考えながら、黒田君に返事をする。
10時の待ち合わせに間に合うように 身支度を整えて、鏡で最終確認する。
昨日の叩かれた頬は少し腫れているが目立たない。
(よく見ないと気付かないし、大丈夫そう。)
そうして部屋を出て駅へと向かった。
駅に着くと待ち合わせ場所に黒田君が先にいた。
「黒田君!お待たせしました!」
「あ、いえ•••。」
黒田君の目が泳ぐ。
あの日駅で助けてくれた時以来、初めて外で会う。
「本日は急な誘いに•••。いや、違う、えっと、待つなど造作も•••違う•••。」
なんとか頑張って言葉を紡ごうとする姿を見守る。世間では蛙化と言われるのだろうが、そんな姿が何故か憎めない。
「すみません、女の方とあまり話したことがなくて•••。」
「ううん、大丈夫だよ。今日は誘ってくれてありがとう、黒田君。」
「黒田で大丈夫です!」
(お、おぅ•••。)
本当に一生懸命なんだなと思い、目的地まで歩いて向かった。
「黒田君と鬼塚君は経済学部なんだ。」
「はい。そろそろ卒業も近くて、就活もしてるところです。白石さんはどうして看護師になろうと思ったんですか?」
「え、あー、多分人並み過ぎて楽しくないと思いますよ?」
「それでも聞きたいんです。」
真っ直ぐ目を見られると断れない。
(本当に綺麗な目だ。)
木漏れ日に照らされると、更によくわかる。
「黒田君、前髪切ったらいいのに。」
「え」
「初めて会った時も思ったけど、凄く綺麗な目だなと思って。」
「!」
黒田君の顔が一瞬で赤くなる。
「•••白石さんの、方が••••眩しくて、綺麗、です••••。」
ポツリと呟く言葉に思わず私も顔が赤くなるのがわかる。
(どうしたらいいの!普通はどうするものなの!)
黒田君も同じ様にどんな言葉を出せばいいのか戸惑っているあたり、お互いに恋愛初心者に該当するのだろう。
「黒田ー!白石さん!」
「鬼塚、渡辺。」
鬼塚君ともう1人男の子が立っていた。
「あれ、白石さん、ほっぺた腫れてる。大丈夫?」
鬼塚君に顔を覗き込まれる。反射的に身を避けてしまった。
「あ、はい。大丈夫です。」
自分でもよく見なければわからないレベルなのに、鬼塚君、恐るべし。
「鬼塚、そろそろ戻れ。呼ばれてるぞ。」
「じゃあ白石さん、頑張ってくるから、応援よろしくね!」
そう言って鬼塚君はコートに戻る。
「俺達はこっちだな。えっと、初めまして、渡辺です。」
「どうも。白石です。」
お互いに軽い自己紹介を済ませ、渡辺君に着いて行って観客席へと向かう。
流石に大学生同士の試合となると家族、友人を含め色々な人が見に来ていた。
「凄いね、はじめてきた。 」
「楽しんで貰えると思います。鬼塚の試合凄いから。」
黒田君がそういうとすぐに試合が始まった。
何人かのメンバーがシュートを決める度に黄色い声援があがる。鬼塚君も例外ではない。
「凄い人気だね。」
そう言って黒田君の方を見ると、まっすぐ鬼塚君を見ている。
(やっぱり、イケメンだ。鬼塚君がスポーツ系で渡辺君が科学者系なら、黒田君は正統派のタイプだ。)
これ以上話しかけたらまずいかな、と思いコートを見るが、さっきから視線を感じる。
“なに、あの人?”
“あの黒田の知り合い?”
“もしかして、鬼塚君に近づこうとしてる?”
(めっちゃヒソヒソされてる!)
確かに、言われてみたら黒田君と未だ話せてもいない渡辺君と比べられたら場違いにも程がある。
(うわぁ、今更だけど、なんで私来たんだろう。)
下を向き肩を縮めていると、不意に上着をかけられる。
「あのっ、すみません、気付かなくて。寒かった、ですか?」
「え、大丈夫だよ。私、サッカーあんまり詳しくなくて•••ちょっと、場違いだったかなぁって•••。」
黒田君に素直に伝えてみる。せっかく誘ってくれたのに申し訳ない。
「そうなんですか?俺もサッカー全然知らなくて。一般の人はみんな知ってるってテレビで言ってたから、てっきり•••。」
「黒田君も一般人でしょう。」
「••••テレビをちゃんと観たのは、数年ぶりです•••。」
その言葉に思わず笑ってしまった。
「ふふ。普段どんな生活してるの。」
「あんま、笑わないで•••。恥ずかしい•••。」
きっとお誘いまでに普段観ないもの、調べないもの、そんな慣れない作業をして色々考えてくれたのだろう。
「あの•••居づらいなら、場所変えます。白石さんの好きな場所に行きましょう。」
「ううん、もう大丈夫。それに鬼塚君のこと応援しないと。」
「鬼塚、ですか。」
少しだけ黒田君が悲しそうに目を伏せる。
「うん。黒田君ってば、思ってる以上に鬼塚君のこと好きなんだなって。」
「え、あ、俺?ですか?」
何故か黒田君が動揺している。
「好きっていうか、鬼塚は友達で、俺は腐男子でもあるけど、両性愛ではなくっ!」
「両生類?」
「はっ!」
あたふたしながらも、なんとか言葉を探している黒田君の姿が面白い。黒田君の後ろで渡辺君も肩を震わせている。
「鬼塚君ー!」
「きゃー!かっこいい!」
鬼塚君に向けられる声援に連れられ、私達も観戦を続ける。
その間も時折こちらを見る視線やヒソヒソする姿に萎縮しそうになる。
「•••外野の声は、気にしなくていいですから•••。」
黒田君が小さく呟く。
その声に反応してか、渡辺君が鬼塚君を応援する女の子達と私達の間に移動する。
渡辺君が動いたことで、視線もヒソヒソする声もなくなった。
(•••もしかして、守ってくれてる•••?)
不思議な感覚もするが、同時に安心できる空間にホッと胸を撫で下ろす。
気付いたら最後まで黒田君と一緒に応援に没頭していた。