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「なるほど、あの顔は機嫌が悪い時なんですか?」
「……ん? なに?」
ひゅうひゅう、と吹く風の音が会話の声を聞き取りにくくする。
朝よりも格段に強くなった風、もはや暴風。
時々雷のゴロゴロとした、あの嫌な音が遠くで聞こえはじめてる。
まだ台風の時期ではないと思うのだけれど、本当に嫌な天気だ。
「いえ! ひとりごとですーー!」
風の音に負けじと、声を張り上げて答える。
「ちょっと雨も降り出してきたね。あ、柚、こっち」
慣れた動作で肩を抱き寄せ、歩く速度が早められる。 昨夜と同じ店の裏にある公園横に停められた車。
優陽がポケットからキーを取り出し、チカチカと光りながら鍵が開く機械音が何となく聞こえる。
「す、すみません、あの」
「どうしたの? 早く乗ってね、寒いでしょ」
「いえ、あの、優陽さんお仕事の途中なんですよね? 店長なら充分に私と優陽さんのことを信じてると思います」
そう、柚が話している途中。
開いてた運転席のドアをバタン、と勢いよく閉めて。
彼は背後にやって来た。
「うん? それで?」
肩に手を置かれ、耳元で聞こえる吐息混じりの囁き。
柚のパーカーの、やや厚手の生地を通り越し、指の感触を強く感じた。
なにやら力の入れ具合が恐ろしいなと、振り返ろうとした時だ。
「え、いえ……。 なので、ですね。 連日送っていただかなくても大丈夫です、って、ぎゃあ!?」
「ははは、ありがとう。 うん、とりあえず乗って」
突き飛ばされたのかと錯覚する勢いで助手席へ押し込まれた柚は、見下ろしてくる優陽を呆然と眺めた。この人、乱暴者だと思わず指を差したくなったのだけれど。
そんな柚の手を止めさせたのは、風になびく絹のように細くしなやかな優陽の髪。
薄暗い街灯をバックに綺麗なアッシュブラウンの髪が、さらりと揺れて、金色みたい。
そんなことが幻想的で、見惚れてしまうなんて。
イケメンは何かがやっぱり違うんだ。
目が合うと、ニコリと笑みを作りドアを閉め、数秒後には、その笑顔が隣に座る。
怒るにはタイミングを見失ってしまった。
顔がいいって本当に武器だ。
「き、昨日の恐ろしさに加えて随分、なんといいますか」
「ああ、ごめんね。 少し乱暴だったよね」
(少しでしょうか!?)