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大学祭の喧騒が少しだけ落ち着き始めた頃。
構内の大きな噴水広場に、一組また一組と集まってくる。
最初に来たのは、らんとこさめ。
執事とメイド姿のまま、堂々と歩いてくる。
こさめは相変わらず笑顔で、「楽しかった〜!」と声を上げ、
らんはそんな彼に「はしゃぎすぎ」と言いながらも、まんざらでもない表情。
次にやってきたのは、ひまなつといるま。
ポリスとヤクザという物騒な組み合わせにも関わらず、
ひまなつのほうがちょっと赤い顔で、いるまは不敵な笑みを浮かべている。
「……ったく、やっぱ目立つな、俺ら」
「ガラ悪すぎ」
「ガラ悪いのはいつもだろ?」
からかうようなやりとりに、ひまなつはふいっと顔を背ける。
最後に、空き教室からすちとみことが戻ってくる。
ナース服の上に白衣を羽織ったみことは、まだ少し顔が赤い。
すちはどこか機嫌がよさそうで、みことの肩にそっと手を添えていた。
「お、出た出た~! おまえら絶対なんかしてたでしょ~?」
こさめが茶化すように言うと、
みことはびくっとし、すちは笑って受け流した。
「まあまあ、みことかわいかったし?」
「やめて……っ、ほんとに、もう……」
恥ずかしそうにうつむくみことを見て、
らんが軽く咳払いをする。
「……全員、そろったな。祭の最後に写真でも撮っとくか」
「いいねいいね! せっかくだし、ちゃんと記念にしよう!」
スマホを取り出したこさめに、すぐさま他のメンバーも賛同し、
噴水を背に、コスプレ姿の6人での記念撮影が始まる。
いるまはひまなつの腰に手をまわし、
らんは当然のようにこさめを腕に抱え、
すちはみことの肩を抱いて寄せると、みことは照れつつも寄り添った。
パシャッ
カメラに収まったのは、
大学も違う、性格もバラバラな6人が、それでも自然に隣に並ぶ、
かけがえのない“今”だった。
コスプレで大学内を歩き回ったあと、6人は一度サークル控室へと戻り、
それぞれ元の私服に着替えた。
こさめはさっきまでのメイド服とは打って変わって、
ゆるっとした白Tとデニムにパーカーという、ラフな装い。
「楽しかったけど、やっぱ動きやすいのがいちばん!」と笑う姿に、らんはまたもや見惚れていた。
ひまなつは大きめの黒パーカーを着込み、
いるまの袖をくいっと引っ張って「これ、借りる」と当然のように言う。
「しゃーねぇな」と笑ういるまも、まんざらでもない顔。
みことはすちに寒くなるからと Tシャツを1枚借りて重ねて着る。“すちの温もり”が残っているようで、 恥ずかしそうに胸元をぎゅっと握っていた。
それを見て、すちはにこっと微笑む。
夜になると、学内のグラウンドにはライトが灯され、
後夜祭イベントのメイン会場となるステージ周辺には、
屋台の明かりや提灯の光がゆらゆらと揺れていた。
「わ〜! ライブ始まるよ!」
こさめが先陣を切って走り出し、みんなを誘導する。
音楽が始まり、ステージ上では地元のインディーズバンドが熱いパフォーマンス。
観客たちも手拍子やコールで盛り上がるなか、6人は人混みの少し外側に固まって座ることにした。
ひまなつはいるまの腕にすっぽりもたれかかり、
「うるさいの苦手だけど、こういうのは嫌いじゃない」とぽつり。
いるまはその髪をくしゃっと撫でながら、
「おまえがいりゃ、どこでも悪くねぇよ」と囁いた。
らんはこさめの背中を軽くさすりながら、
「……ほんと、よく頑張ったな」と小さく声をかけた。
こさめは、らんの腕にきゅっと手を回しながら、
「今日は、最高の日になったよ」と満面の笑み。
そして、すちとみことは――
みことはまだ少し顔を赤らめながら、
周囲の楽しそうな光景をきょろきょろと見回していた。
「みこと、楽しい?」
すちがそっと尋ねると、
みことは静かに頷いて、ぽつりとつぶやく。
「……あたたかい、気がする」
「そっか、それなら……よかった」
言いながら、すちは自然にみことの手を握った。
そのぬくもりに、みこともそっと握り返す。
ステージの光と音が、夜空に向かって弾ける。
それぞれが違う時間を過ごし、
それでもこうしてまた一緒にいる――
そんな奇跡のような“日常”を、
誰もがほんのりと噛みしめていた。
___
大学の門を出たのはもう21時を回ったころだった。
けれど、まだ今日を終わらせたくない、そんな気持ちが6人に共通していた。
「ねーねー! せっかくだし打ち上げしよ!」
こさめが元気よく提案すると、自然と全員の足が止まり、
「どこ行く?」と誰からともなく笑い合う。
近くの居酒屋へ 6人は一緒に移動。
大学祭での衣装から着替えたとはいえ、
みんなのテンションはまだどこか非日常のままだった。
個室に通されると、木目のテーブルとふかふかのソファ席が心地いい。
こさめが真ん中に座り、両隣にらんとひまなつ。
向かい側にはいるま、すち、みことという並び。
「じゃあ……今日の成功と、再会に――乾杯!」
こさめが勢いよくグラスを掲げると、それぞれのグラスが重なった。
ジュースやノンアルコールの飲み物で、コツンと音が響く。
料理が次々と届き、笑い声と談笑が絶えない。
「それにしても、あのメイド服……」
らんが口にした瞬間、こさめは照れくさそうにほっぺたを赤らめた。
「似合ってた?」と聞かれて、らんは視線をそらしながら「……可愛すぎた」とポツリ。
こさめは満面の笑みで「えへへー!」と嬉しそうにお箸をぱくついた。
一方で、いるまとひまなつは、料理を取り分け合う静かなやり取りを交わしていた。
ひまなつがそっと皿を差し出すと、いるまが自然にその皿に唐揚げを乗せる。
「ありがと」と短く言うひまなつに、
「こういうの、もっと頼れ。俺がやるから」といるまがぼそっと言い、
ひまなつは静かに笑って頷いた。
そして、すちとみこと。
みことは少し疲れた様子だったけど、それ以上に表情が穏やかで、
お箸を持つ手がやけに丁寧だった。
すちはそんなみことの様子をちらりと見て、
「今日、一日どうだった?」と小声で尋ねる。
「……楽しかった。でも、ちょっとドキドキした」
「何に?」
「いろいろ……あと、すち…にも」
その言葉に、すちは表情を一瞬だけ崩した。
けれどすぐに柔らかく笑い、「俺も」とだけ返した。
料理が進むにつれ、少しずつ席も崩れていく。
こさめはらんの肩に寄りかかり始め、
ひまなつはいるまの太ももに頭をのせる。
みことも、すちの肩に静かに凭れた。
打ち上げを終えて店を出たのは、もうすっかり夜風の冷たい時間だった。
賑やかだった大学周辺も、今は静けさを取り戻していた。
6人は駅へ向かって歩きながら、ぽつりぽつりと今日の余韻を語り合っていた。
「ねー、次は誰の大学祭行く?」
こさめが前を歩くらんの腕にぶら下がりながら振り向いた。
「俺んとこはだいぶ後だなー」
いるまが頭をかきながら答えると、
「俺んとこも」と、ひまなつも続いた。
「じゃあ次は……」と、すちが後ろを歩くみことをちらりと見て、
「みことと俺のとこだな。来週の土日」
と、微笑みながら告げた。
「えー!? ふたり同時!? どっち行く!?」
こさめが目をまんまるにして驚く。
「土曜がみこと、日曜が俺って流れでどうかな」
すちが提案すると、
「それ!めっちゃいい!決まり!」とこさめが即決。
全員も自然とうなずき合った。
「出し物とかあんの?」といるまが尋ねると、
「俺は…サークル入ってないけど、たこ焼き屋さんの手伝い頼まれてて…」
みことがやや恥ずかしそうに答える。
「へー!似合いそう〜!絶対行く〜!」とこさめがはしゃいだ。
「俺は……ちょっと、秘密」
すちは少し悪戯っぽく笑って肩をすくめた。
「なんだよそれ〜気になる〜」とひまなつがぼやくと、
「まあ行ってからのお楽しみってことな」と、らんがうまくまとめた。
駅が近づき、電車の時間がそれぞれ違うため、自然と別れ際の空気が漂う。
「なんか、またすぐ会えるの嬉しいね」
こさめが笑うと、
「うん。今度は、また違う服でな」とらんが優しく微笑んだ。
「なつ、帰り送る」
と、いるまが当然のように言い、
ひまなつは「ありがと」と素直に頷く。
「みことは?」
すちが自然に問いかけると、
「……一緒に帰ってほしい、です」
と少し恥ずかしそうに答えたみことに、
「もちろん」と、すちは安心したように微笑んだ。
そして、またねと手を振り合い、それぞれの帰路へと向かう6人。
次に会うのは、来週の土曜――
それぞれの大学祭。
また新しい風景と、胸の高鳴りが待っている。