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少し後日談をしよう。
魔神との騒動、その事件は公となった。
被害に遭ったのが俺たちとその場に居合わせてしまったものたちだけであったので、証拠としては不十分だと思ったのだが、魔神が現れた瞬間、国中が混乱したそうだ。
強大な魔力を持つ存在が現れた結果、魔道具が狂う。
その現象は数千年前、魔神が現れた時と同じらしく、同じ伝承、そして魔神が残した魔石が証拠となり、魔神が復活したと証拠付けた。
それで信用するのかと疑問に思ったものの、魔神復活の兆しは童話や伝承といった形でこの世界の人たちはすでに知っていて、その事実をこの国王が発表すると皆信じた。
魔神騒動が収束したことを宣言した時、国王はもう一つのことを発表した。
魔神を倒した英雄たちのことを。
ただ、魔神討伐は本来は俺が一人で行ったことだが、そこは少し話に色を添え、こう伝わった。
「英雄の末裔、三家の子息子女、レイブン=イゴール、モーイン=ブリアント、サリー=クイス、そしてクロスフォード子爵家の子息アルトの四人による激しい対決の末に決着がついたと」
国王はそう説明をした。
このことにその場に居合わせた人たちは納得をしていなかった。
実質俺一人で終わらせたようなものだ。
それでも、話に信憑性をつけるためにそうなったそうだ。
カインさんは目立ちたくないと言い、魔神相手に初手で戦闘不能に。ゼフはその場に居合わすことがなかったことになっている。
カインさんはいいとして、ゼフはもう目立ちたくないからと拒絶をしたそうだ。
……昔に何があったんだよ。
まぁ、とりあえず俺自身もみんなで倒したという事実になって良かったと思っている。俺ただのモブだし。過大評価と噂が相まって絶対強者みたいなことにならなくて良かったわ。
さて、そんな功績を上げた俺だが、もちろん褒章は弾んだ。
内容として莫大な財産と地位だ。
死ぬまで遊んで暮らせるほどの財産をもらい、そして、一代限りの名誉伯爵家の爵位も頂戴した。
魔神討伐の功績としては低いかもしれないが、そこはお約束要素なのだろう。英雄の末裔の三人が目立った。
俺はそのおこぼれをもらったような感じだ。
だが、それでも批難はされなかった。
それは、公表した時の国王と末裔の三人の「余計」の一言によるものだ。
「アルトは多大なリスクを顧みず、必殺の魔法で魔神にとどめをした」
たったその一言、そして俺の怪我の容体から信憑性が増したのと、国の上質部によるプロパガンダのせいだ。
まぁ、そのおかげで全てが平和に処理されたのでよかった。
本当によかったのだが……。
ちなみにこのことを知ったのは俺が意識を取り戻した時であった。
知ってからは全てが遅かったのだ。
もう後の祭りだ。
だから、気にしないようなした。気にしたら負けだ!
ゴホン……。
話は逸れてしまったが、魔神の一件は無事に何も被害がなく終わりを遂げた。
怪我人は出たが死人はいない。
その後も魔神復活の気配もない。
クーインの件はその場にいたみんなが気を遣ってか、無かったことにしてくれた。
クーインは被害者だ。その後、クーインはその場にいた皆に謝罪をし、ことなきを得た。
ただ、当の本人は気にしていて、しばらく立ち直れていないが、それは時間が解決してくれる。
俺自身も意識を取り戻した後、クーインと交流を重ねているが少しずつ元気が戻ってきているから。
無事にハッピーエンドを迎えることができた俺だが、現在病室。俺は魔神との戦闘で使用した魔法の副作用により、全治一ヶ月の大怪我をした。
この世界には治癒魔法があるため、治りは早いのだが、俺の怪我は思った以上に酷かった。
左足の筋肉断裂、粉砕骨折など。
現代日本から切断レベルなのだが、魔法で時間はかかるものの、完治するらしい。
ただ、治癒魔法使いの人からはもう使ってはいけないと忠告された。
もうあんな魔法は使わないさ。立てなくなるのはごめんだ。
話は戻るが、現在ある人物が俺の見舞いに来てくれる。
詳細を説明してくれたのも彼女……サリー=クイスである。
彼女は何故か毎日のようにお見舞いに来てくれている。
律儀なのか親切心からなのかは不明だが。
そんな彼女だが、今顔を赤くして話かけてくる。
「一つ、アルトさんに聞きたいことがあるのですが?」
「聞きたいこと?……何?」
なんだろう?
魔神の一件から二週間ほど経っているが、このような珍しい表情を見せたのはこれが初めてだ。
「その……魔神が言っていた話です」
「魔神の言葉?……ごめん、あまり覚えてなくて」
「そ、そうですか」
サリーは少し落ち込むような表情をするが、その後深呼吸をして話し始める。
「えっと……わ、わた……私……その」
「……一旦落ち着こうよ。少し言い辛いことなんだったら急いで言わなくていいよ。ゆっくりでいいから」
「……はい」
顔を赤くして恥ずかしがっているサリーの姿に居た堪れず俺はそう言った。
そしてそれから一分ほど経ち、覚悟を決め、話始める。
「アルトさんが私を好いていると言っていたことです」
「……は?」
俺はそれを聞いて困惑した。
あ、そういえばそんなこと言っていたような……。
「え、そんなこと言ってたっけ?聞き間違いじゃない?」
「いえ、それはありません」
断言されちゃったよ。
覚えてねーよそんなこと。だが、もう覚悟を決めようかな。振られることは初めからわかっていたし。
「そうだよ」
「?!……」
いや、自分で言って置いてなんで照れるんだよ。照れる要素あった?
俺は黙ってサリーの反応を伺う。
「そのことなのですが……ごめんなさい」
ほら振られたよ。わかっていても直接言われるのは辛いなぁ。
「気持ちの整理をしたいので、少し待ってもらえますか……今日は失礼しますね」
「あ……」
振られて……ない?
サリーは好意についての確認が終わり次第、部屋を退室してしまった。
何がしたかったの?
それから数日間はサリーは病室には来ないで一週間ほど経ってお見舞いに来た。
その時のサリーの姿は今まで見たことのないくらい凛々しかった。
ここ一週間で何があったんだろう?サリーは病室の入り口を閉めたら……何故かドアの鍵を閉め、その場で話し始めた。
いや……鍵を閉める意味ある?
「アルトさん……一週間もお待たせしてすいませんでした」
「あーうん」
別に待ってないけどと言おうとするも、俺は言葉を止める。サリーは真剣な表情をしていて、水を刺したくなかった。
「聞いていただけますか?」
俺は黙って頷いた。
「実はアルトさんに最後にお会いした後、気持ちの整理ができず、モーインにこのことを相談したんです。私もはじめての感情でしたから」
サリーはそう前置きし、話を続ける。
「私にとってアルトさんは尊敬する人です。レイブンとライバル関係で、努力家で、とても優しい方と思っています」
俺は黙って話を聞く。
「私はレイブンに好意を持っていました。そして、その好意は本人には伝えず、モーインもレイブンを好いていましたので、私は身をひく決心をしていました。……しかし、好意を伝えることはせずレイブンを諦める。そう決心しても、何故かそこまで苦しくなかった。私は魔神の事件一件依頼、有耶無耶な気持ちのまま過ごしていました」
「それでアルトさんが……その……私を好きだと聞いて、少し戸惑いが生まれました。そのことをモーインに相談したら、私がレイブンに抱いていた好意は異性に対するものではなく、家族のような親愛に近いものだとわかったんです」
「私は今まで好意を伝えられることは多々ありましたが、それでも、ここまで悩むことはありませんでしたのでその場でお断りしていました。しかし、アルトさんの件はすぐには結論が出せず困惑しました。異性に感じたはじめての感情でしたから」
サリーはそう言ってゆっくりと俺に近づきながら話を進める。
「そして、モーインに相談に乗ってもらって、アドバイスをもらってようやく理解しました」
サリはそれを言い終わってから俺の寝ているベット前に移動した。
「アルトさん……知っていますか?今アルトさん宛てに婚約の話が国中からはもちろん国外からも多数寄せられているの知っていますか?愛人でも良いと、側室でも良いと。そう言った声もあるんですよ」
「そ、そうなんだ……モテ期到来かな〜なんて?」
「……今何と?」
「いや!冗談だから!」
いや、サリーこの一週間で何があったんだよ。冗談のつもりで言っただけなのにサリーの声は先ほどに比べ絶対零度に。
俺は恐怖し、即座に否定する。
「そうですか。よかったです」
「う……うん。そ、それにしてもそんなに婚約の話があるんだったら家に迷惑かかってなきゃいいな」
「ご安心ください。今クロスフォード伯爵家へのそう言った話はクイス家が圧力をかけて制止させていますから」
「そ、そうなんだ……。あれ?今伯爵家って言った?うち子爵で伯爵なのは俺だけでは?……予定だけど」
やばい。サリーが怖すぎる。
こんな大胆な性格してたっけ?
もっと、こう……聖女みたいな人格者だったような……。
「それはクイス家が王家に一言言って爵位を上げてもらいました」
「え……」
ただただ言葉に詰まる。
いや、こんな話聞いていないんだけど。
「爵位の授与式とかは……俺まだ色々と功績の授与とかも終わってないけど」
「それは、アルトさんの体の具合がよろしくないことを理由にアルトさんのお義父様に代わりに出席していただけました」
「いや!聞いてないんだけど。全て!」
俺はサリーに向かい少し驚きの声をあげてしまった。
話飛躍しすぎでしょ?
俺がおかしいのか?……いや、まて。確かサリーはモーインに何がアドバイスもらったとか言ってた。
もしかして何が変なこと吹き込んだか?
「ひ、一つ聞きたいんだけど……。さっきモーインからアドバイスもらったとか言ってたけど何言われたの?」
「何故今……モーインのことが話に出るのですか?アルトさんは今私とお話しているのですよ?」
「ち、違う。そうじゃなくて、話が飛躍しすぎてるから何がアドバイスもらったんじゃないかって……ほら!親友からのアドバイスもらったって言ってたし……ね!」
俺はなんでこんなに必死になっているのだろうか?
サリーはモーインの名前を出した瞬間またも声のトーンが低くなる。
「あ、そういうことでしたか。すいません。勘違いしてしまって」
「だ、大丈夫。それでなんて言われたの?」
機嫌が戻ったようで良かったよ。
本当に何をサリーにアドバイスしたらこうなるんだろう?
「はい。モーインには
せっかくのチャンス……逃(のが)しちゃだめよ!」……そう言われました」
「……」
サリーがこうなったのモーインのせいかい!
いや、でも意味を履き違えてるよ絶対!
「親友からのアドバイスです。私も今のアルトさんの現状を知って慌てたんですよ。よく知りもしないで名声だけで婚約をしようとする者たちのことを。だからそれを知ってから急いで行動しました。そうしないと、アルトさんを誰かに取られてしまいますから。始めて権力というものを使ったと思います。驚いたのですが、クイス家ってこんなにもすごいんですね。お父様にお願いしただけで、アルトさんを守るための包囲網がすぐに完成しましたから。ただ、お父様に一度拒否された後、少し文句を言ったらすぐに首を縦に振ってくれました。少し震えていましたが、気のせいですかね?」
……あれぇ?
サリーの目のハイライト消えてるけど気のせいかなぁ?
あと、俺を守るためと言ったのに包囲網と言っていたのって何かの間違いかな?
サリーはサリーパパに何したんだろう。怖くて聞けないなぁ。
「どうしたんですかアルトさん?」
「い、いやなんでもないです」
「何故敬語なのですか?」
首を少し傾けて微笑みかけてくるサリー。
「なんでもない。それにしても俺にここまでしてくれなくて良かったのに。それに俺子爵家だから、婚約の話も……ね」
そうだ。基本子爵家は下級貴族。
上位貴族や王族は嫁げないはず。
「だから、伯爵に爵位をあげてもらったんですよ?」
「ご、ごめん。分からないんだけど」
「なんでって……わかりませんか?」
ここまで言われればわかる。
サリーと俺が婚約をするため?
でも、ほかにやり方があったはずだ。ここまでする必要ないはず。
「な……なるほど」
「ご理解ありがとうございます!」
ここ一番で笑顔になったサリー。
これはお互い合意ということなのだろうか?
確かに告白まがいのことは俺からしたかもしれない。それでも、これはやりすぎのような。
「アルトさん」
「はい!」
急にサリーに名を呼ばれて慌てて返事をする。
すると、サリーは少しずつ俺に近づいてくる。え?……近くね?もしかしてキス?早くね?
サリーは俺に近づき、花咲き誇る笑みでこう言った。
「絶対に逃(にが)しませんから」
そう言った彼女は今までで一番怖かった。
その笑顔は綺麗で尊いはずなのに、何故か獲物を狙う狩人のように怖かった。
サリーの行動は俺自身前世から好きだったと婚約ができるので嬉しく思ったが、それと同時にこう結論付けた。
サリーはおそらくモーインという枷があったからここまで大胆な行動をしなかったんだろう。
親友を気遣うあまり、自分を自制をしていたのだろうと。
そして、今俺に対してはライバルはいないため、目的を達成するためなら手段を厭わず、権力すら使う。
サリー=クイスを止める枷が存在しないのだ。
嬉しい反面、恐怖を感じるという誰もが感じたことのない「もう逃がさない」……そう言った彼女に俺も対して感じたことのない感情を体験したのだった。
〜完〜