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それから私は実家に帰り、孝介と離婚したことを両親に伝えた。
どんな反応が返ってくるのかわからなかったけど、お父さんとお母さんはすでに離婚したことを知っていた。孝介のお父さんから聞いたらしい。謝られたと言っていた。
そして、DV・浮気《孝介にされたこと》はどうか公にはしないでほしいと懇願されたみたい。迅くんから圧力をかけられているせいか、お父さんの会社、ベリーズトイには今のところ何も影響はないみたいだ。
迅くんはベリーズトイを買収したいと言っていたけれど、私からお父さんに迅くんとの関係を話すことはしなかった。
「美月、今までごめんな。辛かっただろ。離婚に賛成してやれなくてごめん」
そうお父さんから謝られた。
お父さんの会社やその背景を考えると、離婚という選択を私がしてしまったら、いろんな人を巻き込んで、たくさんの人が苦しむことになることはわかっていたから。
自分が耐えればいいと思っていたけれど、でも実の親には「そんな人とは別れなさい」そう言ってもらいたかった気持ちも心のどこかにあったことは事実。
「うん」
そんな愛想のない返事しかできなかった。
心に余裕ができるまで、実家とは関わりたくない。
お父さんとお母さんは大切だけど、今は素直に自分の気持ちを伝えたり、どんなことを話していいのかわからなかった。
実家からの帰り道、ふとワンピースを着たマネキンが目に留まった。
そうだ。迅くんとのデート、何を着て行こう?
せっかくだから、久しぶりに一着くらい買っても良いよね。
ショッピングモールへ寄ることにした。
どんな服を着て行けばいいの?
絶対彼と歩いていたら不釣り合いだ。
せめてブランドの服とか?
うーんと思考を巡らすが、彼がどんなブランドが好きでどんなデザインが好きか全くわからない。
迅《彼》のことをよく知っている人って言えば、亜蘭さんしかいないよね……。
プライベートなことだけど、メッセージ、送ってもいいかな?
<プライベートなことなんですけど、相談したいことがあって。お仕事終わった後とか、お手隙の時に電話してもいいですか?>
亜蘭さんは返事してくれるかな。
明日もあるし、とりあえず今日は帰ろうとしていた時、携帯が鳴った。
あれっ?
亜蘭さんからだ。
「はい」
<もしもし?今、大丈夫ですか?>
「はい。大丈夫です!私こそすみません!お忙しいのに、連絡しちゃって……」
<いえ。今日は休みですので、大丈夫です。プライベートなことの相談っていうのがすごく気になっちゃって。あの、加賀宮さんのことですか?>
さすがは亜蘭さん、鋭い。
「はい。あの、迅くんってどんな女性が好きなんですか?」
<えっ?>
「見た目とか、服装とか……。全然わからなくて。今度デートに誘われたんですけど、どんな服装で行けばいいのかわからなくて」
その時、亜蘭さんが電話越しにクスっと笑う声が聞こえた。
私、なんか変なこと言っちゃったかな。
<美月さんがどんな服を着て行こうと、加賀宮さんは関係ないと思いますよ。こんなこと言っているの知られたら、怒られそうですけど、美月さんが思っている以上に加賀宮さんは美月さんにベタ惚れですし。全く関係ないと思いますけど>
「そうなんですか……ね?」
<そうです。美月さんなりのオシャレというか、気遣いだけで彼は嬉しいと思いますよ」
私なりのオシャレ……か。
「わかりました。ありがとうございます!」
<いえ。特に何もアドバイスできず、すみません。俺で良かったらいつでも連絡ください>
もう一度亜蘭さんにお礼を伝え、電話を終えた。
私なりのオシャレか。
よし、いろいろ調べて……。
迅くんが喜んでくれるような努力をしよう。
…・――――…・―――
「あ、お疲れ様です」
渡してあったカギで部屋の中に入ったんだな。
約束の時間より早く彼女は到着したらしく、すでに部屋の中に居た。
もう《《家政婦》》ではないはずなのに。
俺は、美和《彼女》との関係を切るため、マンションに呼び出していた。
九条社長が|美和《家政婦》の会社を訴え、彼女は懲戒解雇になったと聞いた。
さすがにショックを受けているかと思ったけど、そんな様子はなかった。
美和《彼女》は
「今日のご飯は何が良いですか?」
そう言ってエプロンまで付け、支度をし始めた。
「家政婦は解雇になったんじゃないんですか?」
俺が訊ねると
「家政婦としてじゃなくて、加賀宮さんの《《彼女》》としてご飯を作りに来たんです」
そんな回答が返ってきた。
「彼女とは?いつから僕の彼女になったんですか?」
「えっ?」
目をまん丸くして驚いている。
「僕はあなたを彼女にした覚えはありませんが?」
「あの時、食事をした時に……。これから仲良くしていきたいって言ってくれたじゃないですか?何か隠していることがあったら、事前に教えてほしいって。全てを受け容れるからって。だから私は孝介さんと不倫関係にあったことをあなたに伝えたのに……」
「だからと言って、交際を申し込んだ覚えはありませんが。確かに僕はあなたの全てを受け容れました。不倫関係にあったことを責めたりはしなかったでしょ?ただあなたから話を聞きたかっただけです。個人的に家政婦としてあなたと契約するつもりはありません。解雇されたのであれば、もう二度とここへ来ないでください」
不倫《この事実》が会社に漏れることなく、解雇されなかったにしても、美和《こいつ》にはもう価値がないし、捨てるつもりだったけど。
九条社長には、そこだけ感謝しなきゃだな。
「そんな!冗談ですよね?今日で関係が終わりなんて、そんなの酷すぎるっ!!」
始まってもない関係だということに気づかないのか?
「ええ。終わりです。カギを返して出て行ってください」
後でオートロックの番号とかも変えとかないと、また来そうだ。
「私、あなたのことが好きで!孝介さんとの関係もきちんと切りました。なのに、こんなにすぐに終わりだなんて!本当に酷い……」
彼女は泣いているように見えた。
まぁ、《《本当》》に泣いているのかまでわからないし、泣いていたとしても何も感じない。面倒だと思うだけ。
「あなたとの関りを切りたくて、わざわざ一旦帰って来たんです。もう仕事に戻るので、帰ってください」
俺は立ち上がり、玄関へと彼女を誘導する。
「イヤです!私、会社もクビになって。孝介さんとの関係も終わって。何も残ってない……。好きになってもらえるように努力するから、待ってください」
後ろから引き止められた。
が、気にせず俺は歩みを止めなかった。