※あらすじ
后会无期…貴方と離れたならば、もう二度と会えないでしょう。
中国、魏の皇帝に仕えていた知己兼腹心サイドのお話。ぜひ1話から見てください。世界線は1話の前~直前です。
※実在する魏王朝とは一切関係ありません。
公主の自室、麗庵殿に黒衣の男と従属国の公主(皇帝の娘)がいた。
「い、嫌だ…!私にはまだしたいことが山程あるというのに!」
黒衣の男は、裏切り者と公主を暗殺しろ、という命により公主の自室へと赴いていた。
「宗主権を持つ皇帝からの指示には逆らえない。それは貴方も分かっているはすだ。」
「…私を殺せば貴方の国はお終いよ」
公主を殺めてしまえば、反旗を翻していた者らの反乱は更に凶暴なものとなってしまうだろう。
「死因なんぞ幾らでも偽ることができる。最後に、公主として尊厳のある死を与えよう。私が後ろを向いている間にこのナイフを使って自害するが良い。」
しかし、皇帝の命には逆らえない。逆らってしまえば反逆罪となり、己が斬首刑となってしまうからだ。
「…そちらの国の皇帝からの指示なんですって?つまり私を待ち受けているのは死しかないのね。いいわ。死んでやる!!」
そして黒衣の男が振り返った先には横たえた公主の姿があった。
「任務完了。よって退散とする。」
「御意」
そうして黒衣の男は、どこにもやり場のないこの感情を必死に押し込み、その場を去っていった。
黒衣の男は報告のため、皇帝の元へ赴いた。
「任務完了致しました。」
「我が知己よ、良くやった。」
しかし、瞼を閉じても浮かんでくるのは横たわった公主の姿。後悔からなのか、動揺からなのか、普段ならば口にしない言葉を続けてしまった。
「公主に罪はありません。なぜ私に暗殺命令を下したのでしょう?」
「知己とはいえ、お主がそれを知る必要は無い。なぜそのようなことを余に聞くのか?」
皇帝はこれ以上詮索するな、反逆罪になるぞ。と釘を指すと、黒衣の男はハッとしたかのように言葉を紡ぐ。
「いえ、気になっただけですので大丈夫です。」
「後で褒美を遣わせよう。戻って自分の持ち場につくがよい。」
「ご厚意に感謝します。それでは失礼致します。」
こうした後悔をこれからも積み重ねていかねばならないのか。皇帝に逆らうことすらできない自分に苛立ちながらも、それを表に出すことなく身を翻した。
幼い頃に世のため民のためにこの国に命を捧げると今の皇帝と天に誓った。
二人ならば、それを成し遂げられる。長きに渡って信じてきた。
その為に暗殺、密偵など数々の汚れ仕事を引き受けてきた。
それが今や、罪なき人にまで手を下してしまっている。これが本当に世の太平のために行われていることなのだろうか。
無論、違う。私はきっと皇帝の駒と化してしまっているだろう。
己の罪を償うには犯してきた罪が多すぎる。
償うために自害をすることも、逃げになるのかもしれない。
ただ、もう、己の罪から逃れたいのだ。
「今まで皇帝の知己として、腹心として支えてきたが、私の心はもう壊れてしまった。此の選択を許してくれるだろうか。」
出来ることならこんな重責を担わず、
静かで、穏やかな場所でのんびりとした生活を二人で送りたかった。しかしもうその願いも叶わないだろう。
「我が知己よ。后会无期」
崖に足を踏み入れ、最期に見た景色はどこか澄んでいる気がした。
コメント
6件
うわあああ……辛い……っ 1話読んだ時も辛かったけど、語り手が違うだけでこんなにも辛さが増すなんて……っ😭😭 最期に彼が見た景色は彼が解放された瞬間だからこそ澄んだように見えたのかな……
これの後に1話に戻るとそういうことかーってなる(