この手紙をきみが受けとる頃には、ぼくはもう彼方へ旅立っているでしょう。
けれど、この手紙がいつかきみに読まれなければ、ぼくの思いは砕け散ってしまうでしょう。
いつかきみに会えるときがあったとしても、ぼくときみが言葉をかわすことはないでしょう。
だから最後に、ぼくの言葉たちを受け取ってほしい。
きみのお母さんは、きみが大きくなるまで、きみにきびしい言葉をあびせるでしょう。
きびしく叱られたときは、その言いつけをかならず守って。
お母さんはきみに、正しく生きてほしいと願っているから。
お母さんの言葉を大事にしつづけたとき、きみもだれかのお母さんになるでしょう。
正しく生きるということは、学びによって生まれるでしょう。
毎日のなかに、一日にひとつは学ぶべきことがある。
それを学んでじぶんのものにしていくことで、きみの世界はより鮮やかになる。
なん時も学ぶということを忘れない限り、学びはきみを裏切らないでしょう。
なにかを学ぶうちに、きみはたくさんの本を読むでしょう。
しるされた言葉たちは、実直で不変だから、読む者を決して裏切らない。
やがてきみは、これまで読んできた言葉たちを自分のものにしていくでしょう。
たくさんの言葉を拾いあつめてつくりあげられるきみの世界は、いつまでも正直でしょう。
この世界には、いくつかひどくわかりにくいこともあるでしょう。
でも、その意味を見つけないといけない。
望むものが手に入らないときは、一歩ひかなければならない。
だれかにきびしい言葉を投げかけられても、きみは決しておごり高ぶってはいけない。
きみがだれかのお母さんになっても、そのだれかにきびしい言葉を浴びせてはいけない。
だれにでも優しさを持って接しなくてはならない。たとえ相手がだれであろうと。
耐えきれないことがあっても、きみはそこから逃げてはいけない。
けれど本当に危険なものがあるのなら、うまく避けなければならない。
死にたくなってもけっして死にたいなんて言ってはいけない。
たくさん笑ってたくさん泣かなければならない。
だれかが死んでも、そこにどんな理由があろうと、蔑んではいけない。
ときには、つらくけわしい世界から逃げたくなることもあるでしょう。
それでも、きみを大切におもってくれる人たちを大切にして。
信じるということを積み上げることはなにより難しく、それを壊すことはなにより簡単なのだから、行き詰まったときは困難な道を選んで。
きみがその意味を知ったとき、きっと素敵な未来が開けているでしょう。
矛盾ばかりだと思うでしょう。
けれどぼくの一生は、ほんとうに矛盾だらけの人生でした。
きみがいるということ以外は、最低の人生でした。
だからきみは、ぼくの人生を裏返して。
ぼくの不幸な人生は、裏返せばきっと幸せな人生になっていただろうから。
――きみのお父さんより
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