テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#ナポレオン戦争
223
64
ジジッ。
キャリーケースを締め直してガラガラと鳴らしながら
黒い道を歩いた。
やはり田舎は都会よりもはるかに暑い。
頭がぐわんぐわんして時々目眩がする。
「 はあ 」
一度止まっても何も変わらない。
ばあちゃんの家まで後10分はかかる。
こんなに暑いのに後10分も持つのだろうか。
きっと5分後にはこの道端に倒れているに決まっている。
そんな馬鹿げたことを考えながら足を進めるうちに
自販機を見つけた。
「 こんなところにあったっけ 」
この暑さなのだからきっとこの自販機の飲み物は
全てぬるくなっているだろう。
もう少し工夫をしてくれなければ困る。
田舎では自販機は安く、100円を入れて
缶コーラを買った。ガラ、コロンと落ちてくる音は
都会に住み始めた俺にとっては聞き慣れた音だった。
16歳になった俺は夏休みはたった一人、唯一の家族の
ばあちゃんの家に帰省すると決めている。
高校受験に受かったのもほぼ全てばあちゃんの
おかげだと言っても過言ではない。
「 ばあちゃん。ただいま 」
久しぶりに入ったばあちゃん家は、やはりどこか
懐かしい匂いがする。
「 おかえり、蒼介 」
キッチンから出てきたばあちゃんの顔に安堵する。
やっぱりばあちゃんは変わらない。
今年91になるばあちゃんは相変わらず元気だ。
ばあちゃんはこの家を離れたくないらしく、
俺は都会の高校を受けたので一人暮らしをしている。
本当はばあちゃんと二人で暮らしたかったが
ばあちゃんはどうしても、というので
仕方なく俺が折れた。
「 今回は何日くらい泊まっていくの? 」
ばあちゃんのゆっくりした言葉を俺は急かさずに聞く。
「 今回はちょっと長めに泊まろうと思って。 」
「 どれくらい? 」
「 二週間くらい 」
「 そう 」
淡々とした会話だが、これが俺が高校生になるまで
ばあちゃんとしていた会話だ。
俺に家族がばあちゃんしかいないのは俺が6歳の頃
両親共に行方不明になったからである。
6歳の俺は多少知恵があったものの、記憶力は悪く
両親のことは顔と名前と誕生日と、
ちょっとした思い出ぐらいしか覚えていない。
なんにせよ、いつ行方不明になったのかすら
覚えていない。
「 そうだ。蒼介 」
ばあちゃんに名前を呼ばれ、振り返る。
「 お昼は暑いけど、
夜は涼しくて蛍が綺麗だから見にいくといいよ 」
「 蛍? 」
「 最近なぜか蛍が多くてね。川沿いに沢山いるのよ 」
「 そうなんだ。じゃあ19時くらいに行ってみるよ 」
ばあちゃん家の近くに川はない。
少し遠くまで歩かなければいけない。
にしてもばあちゃんはそんなところまで
いつも散歩しに行っているのか?
「 ばあちゃんは散歩とかすんの? 」
「 たまにね 」
「 そんな遠くまで行くん? 」
「 たまにね 」
ばあちゃんはあまり質問に答えてくれない。
昔から自分で考えなさいとばあちゃんには言われてきた。
だが今の質問は考えてもわからないだろう。
「 そ 」
短く返事をして自分の部屋に向かった。
久しぶりに入った自分の部屋は綺麗に整えられていた。
ばあちゃんがたまに掃除をしてくれているらしい。
ベッドにぼふっと寝転んで長くため息を吐いた。
「 やっぱりばあちゃん家が一番だな 」
長く住んできたばあちゃん家は懐かしい匂いに
住み慣れた感覚、そしてなによりばあちゃんがいるという
安心感が俺の体を和ませた。
都会には怖い人間がたくさんいる。
映画で良く見るアッチの世界の人間、
そして高校には同じ学年なのになぜか上下関係がある。
そんなことを考えなくていいのがばあちゃん家だ。
一生ここに暮らしていたい。
俺はばあちゃんと喧嘩をしたことがない。
ばあちゃんも俺も
喧嘩になりそうになると必ずどちらかが折れる。
そこまで大事にして会話を続けるのが
時間を削っていると知っているからだ。
周りからは良い子だと褒められた。
言うことをよく聞いて、
ばあちゃるの手助けよくするとても良い子だと。
言われて悪い気はしない。
だけど、それとは違って妙な罪悪感が湧く。
なぜかは俺にもわからない。
この気持ちの悪い感覚を受け続けるのは辛くて
そんなことはない、と否定を愛想笑いで続けた。
いつのまにか俺は寝落ちしていた。
昔を思い出している間に疲労で寝てしまったのだろう。
時計を見ると18時半だった。
そういえば蛍を見に行かなければいけないんだった。
「 ばあちゃん? 」
軋む階段を降りながらばあちゃんを呼ぶ。
「 なあに 」
「 ちょっと早いけど、蛍見てくるよ 」
「 あんまり遅くならないようにね 」
「 わかってるよ 」
そうして靴をはいてガラガラと戸を開けて外に出た。
確かに昼とは違って夜は涼しい。
だらだらと歩く。田んぼからカエルの声が聞こえる。
カエルは声を聞くばかりで、最近は姿を見ない。
少し気になって草むらを探してみたが
声は聞こえるくせに見つからない。
諦めてまた道を進んだ。
少しすると緑色に輝くてんてんを見つけて川に近づいた。
自然の匂いと久しぶりに見る蛍に綺麗だと感心した。
そうして見惚れているうちに気づいたのは
蛍が横たわっている人型のような集まりをしている。
不思議だ。そういう習性なのだろうか。
気になる。すごく気になる。
でも時間がもうない。明日も見にこよう。
暗いとわからない。昼にこよう。
そうしてばあちゃん家に帰った。
「 ただいまー 」
また戸をガラガラと開けて家に入る。
すると美味しそうな味噌汁の匂いが鼻腔を突いた。
「 おかえり。ご飯できてるから手洗って座りなさい 」
「 ん 」
手を洗ってついでに顔も洗った。
鏡に映る自分の顔を見る。
8歳の頃の自分を思い出した。
8歳の時の俺は少しやんちゃで、
ばあちゃんの前だと少し反抗的だったよ
その頃はよく外に遊びに行っていて
毎日のように顔に泥をつけて帰っていた。
そして顔を洗って。
そんな小さい頃の自分の顔と
今の自分の顔を重ねた。
だいぶ成長していると思う。
見た目も、中身も。
無駄に後先考えずに行動をすることは少なくなったし
ばあちゃんに反抗的な態度をとることもなくなった。
俺はばあちゃんが大好きだ。
翌日の朝。
俺は蛍の群がっていた場所を見るべく昨日の場所を訪れた。
川沿いを沿って歩く。
昨日の場所が近い。
朝のうちに見ておかなければ。
また昼は暑くなる。夜は肌寒いし暗くて見えない。
だんだんと近づいていくと
変な匂いが漂っていることに気付いた。
なんなんだこの匂いは。
なにかが腐敗しているような、
なんなのかよくわからないが、ただひとつ言えるのは
とてつもなくくさいということ。
だんだんと異臭に近づく。
黒い、黒いなにかが俺の視界にだんだんと大きく近づく。
黒いなにかが、ふたつ。
息が荒くなる。
頭が高速で回り始める。
なんなんだ。これは。
これは。
これは。
一体。
「 蒼介? 」
「 ! 」
「 ばあちゃん .. 。どしたん 」
「 蒼介が朝早くからどこか出ていくから
気になってね 」
「 あぁ、起こしちゃったんか 」
「 何してるんだい?朝は蛍はいないよ 」
「 いや、ちょっと気になることがあって 」
「 気になることって? 」
「 いや、なんか。.. ちょいばあちゃんこっちきて 」
「 ん〜? 」
「 これ、さ .. 、もしかして _____ 」
ゴッ 。
コメント
5件
うわ、続きめっちゃ気になる……!😳 田舎のあたたかくてゆったりした空気と、ばあちゃんとの静かな時間がすごく丁寧に描かれてて、すごく好きな雰囲気だった。でも最後の蛍の人型と異臭、そして「ゴッ」の冲击……一気にホラーに引き込まれたよ。まだ1話なのに、もう夜眠れなくなりそう(笑) 蒼介くんのばあちゃんへの想いも切ないし、この先どうなるのか本当に楽しみ。更新待ってます!🥀🤍