エイドルたちが集まっていたのは、動力源である魔水晶を失い、飛空艇が動かせないどころか電力の供給さえ止まっていること。結界を構築するための魔水晶を動力源にする案もあったが、乗っている魔導師たちでは注ぐ魔力が足りない。
そこで冒険者たちに報酬を出す代わりに周辺を広く探索を行ってもらい、動力源となりそうなものを探してもらうあいだ、魔導師たちは飛空艇の電力を必要最低限の場所だけ賄い──主に灯りなどの最重要なものだけ──、積載していた食糧などを消費して凌ぐのが現状のベストな案だろうと考えた。
「この森は俺が航行していたルートから計算すれば、地図のこの辺り……都市からはずいぶん遠い。歩きじゃあ、とても辿り着けないだろう。そのうえ今は夜間だ。行動するには時間が遅いから、明日の朝にしよう」
テーブルに広げた地図を灯りで照らし、全員で覗き込む。
「どうやったか知らんが、動力室を吹っ飛ばしてくれやがった馬鹿のおかげで、飛空艇を動かすのはもう無理だ。だが、電力の供給は非常用で別に部屋がある。ただ、爆発の影響で予備電源として備えてあった魔水晶はパアになっちまったのが問題だ」
頭が痛くなりそうだと文句を言いながら、エイドルは手もとにあった小さい箱から煙草を取り出す。マッチがないことに気付いて諦めようとすると、ティオネがそっと指先に火を灯したので、彼は目を丸くして驚いた。
「あんた、魔法が使えんのかい?」
「わたくし、ただの商人じゃございませんのよ」
ティオネ・エルヒルトの肩書きは、何も商団長だけではない。非常に才能に溢れる彼女は顔こそほとんど出さないが、魔塔に名を連ねる魔導師であり、その腕前は現当主のカトリナ・セルキアに劣らないだろう。
ヒルデガルドとの繋がりも、魔塔所属であったから出来たものだ。
「……あ、それなら私に名案があるが」
「奇遇だね。ボクにも良い案が浮かんでる」
師弟揃って手を挙げた。考えは、まったく同じものだった。
二人の案は、やはり最初の通りに魔水晶の杭を動力に、飛空艇の電力供給を行うものだ。飛空艇にいる魔導師たちはシルバーランクばかりで、飛空艇全域への供給は不可能だろう。しかし、必要な魔力を注げるだけの魔導師が飛空艇にはいた。いや、もっと正確に言えば、過分なほどの魔力量だ。
「私とイーリス、それからティオネの三人で電力を賄おう。三人いれば大勢を移動させるためにポータルを開くのも可能だろう。しかし、おそらく全員を移動させるには安定出来ん。こちらなら魔力の蓄積で済むから無理がない」
「ボクも同意見だ。魔力の量に申し分はないけど、ポータルを安定させられるほど魔力の微調整が利いて、かつ千人以上を移動させるのは不可能と言ってもいい。だから電力を賄うのが、今、乗客たちの不満を取り除く最善だと思う」
視線を送られたティオネが、ぱちっとウインクをする。
「わたくしは賛成ですわ。お二方は?」
振られて、アーネストも頷く。
「俺も賛成しよう。魔水晶の件について、正直よく分かっていないが、あなた方が出来ると言うのなら問題はないんだろう」
満場一致の様相にエイドルは困惑する。飛空艇の規模から考えて、いくら有能な魔導師が揃ったとしても可能とは思えなかった。なにしろ彼は未だにヒルデガルドがただの冒険者で、その周りの人間も同じ程度だと思い込んでいるのだから。
「本当にそんなことが出来んのか?」
「ああ、可能だ。とはいえ二日分くらいと考えてほしい」
ヒルデガルドは、そのあいだにポータルを僅かな時間でもいいので開き、アーネストに応援の要請をしてもらえれば、全員をすぐにとは行かなくても、無事に首都まで送り届けられるはずだと計画を立てる。エイドルも話を聞かされているうちに、だんだんと彼女たちの言葉を信用し始めた。
「……わかった。なら、あんたらの案で行こう、すぐに出来るか? もしもに備えて、すぐに引き抜けるようにはしてある。ちっと重たいが、鍛えてる騎士さんにはそこまで苦労するようなもんじゃない」
「任せてくれ。デッキでの戦闘では役に立てないどころか身を守ってもらってしまったが、それくらいなら力になれると思う」
善は急げと作業に取り掛かるため、操舵室を出る。集まっていた貴族や冒険者たちに揃ってエイドルが事情を説明するあいだに杭は引き抜かれ、ヒルデガルドたちは二階の非常用の動力室へ向かう。
「プリスコット卿。アッシュの状態はどうなってる?」
「今は呼吸も落ち着いている。目覚めるのはまだ掛かりそうだ」
「……そうか、良かった」
犠牲になった者は多いが、ひとりでも救えたのならと安堵する。クレイグたち、他の仲間を大勢失ったのは胸が痛い。神を呪いたいとさえ思うほど悔しかった。それでも、アッシュが生きていてくれて、少しは前に進めると思えた。
「ヒルデガルド、ここみたいだよ。中に魔水晶を置く台が」
「……サイズ合わなくないか? 杭が大きいせいで真ん中に置けん」
「半分に割ってしまえばよろしくってよ。わたくしがやります?」
ひょこっと横から顔を出してニコニコしているティオネを、全員が「え?」と理解できずに頓狂な声を発した。アーネストでさえ目を丸くしている。
「いやあ、そんなに見つめられると照れますわ。こう見えて、少々自衛目的で身体強化とか出来ましてよ。……こほん。冒険者様ほどではないですけれど」
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