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萩原なちち
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「……めっちゃしてた。でも、朝からカレンちゃんと仲良いとこ見ちゃったし、迷ってたんだよ」
うわぁ、可愛い、可愛いすぎる……!
下唇をぎゅっと噛んで、あからさまに「嫉妬しています」という顔。さっきいっちゃんたちが言っていたのは、まさにこれのことか。
「……俺、都会っ子だから。田舎、めっちゃ楽しみ」
「ん? ……ふふっ、良かった。勇気出して誘って。親にも言っておくよ」
「んふふ。楽しみにしてる!」
――ハッピーエンド♡
……じゃねーわ!!
俺は親友、カレンちゃんとの約束を速攻破って何をしてんだよ!
ていうか、そうなると初詣メンバーに誘っちゃったいっちゃんが最高に邪魔じゃない?
いや、待てよ? これを利用しない手はないか。
「あの、いつきくん。ちょっとご相談があるんですが……今日、いっちゃんもお家に呼んでいい?」
「ん? ……そのあと、二人きりになれる時間があるならいいよ」
「うわぁ、もう……クソ可愛いじゃん! いつきくん、可愛すぎんじゃん!」
思わず、作り上げた「あざとさ」なんて窓から投げ捨てて、全力で抱きしめてしまった。
もう、たまらない。愛おしさが爆発して制御不能だ。
「りゅうせい、痛い……っ、謎のゴリラパワー出てるって!」
いつきくんが笑いながら本気で痛がっている。
ごめんね、いつきくん。本当の俺、こっちなの。口も悪いし、筋力もゴリラ並みなの。
「……なるほどね。まぁ、友達のりゅうせいが大丈夫って言うならそうなんだろうけど」
「え?カレンちゃん女の子だよ?明らかに結果わかってるの可哀想で見てらんない」
場所はいつきくんの家。現在、絶賛「初詣作戦」の会議中。
表向きは全員で行くふりをして、最終的にはだいきくんとカレンちゃんを二人きりにするという、ベタだけど確実な作戦だ。
いつきくんは、カレンちゃんが傷つく可能性を本気で心配してくれている。本当に優しい人だなぁ、この人は。
「いつきくん。カレンちゃんはそんなことでへこたれるタイプじゃないよ。キング・オブ・ポジティブなんだから」
「へぇ意外。童顔だから、そんなふうに見えないのかな」
まぁ、そんなことはどうでもいいか、と目を瞑って天を仰ぐいつきくん。
これ、仕事中にもよくやる考え事してる時のポーズだ。何度、無防備なその唇にキスしてやろうと思ったことか。
「なんかね、カレンちゃんって俺の彼女と同じ匂いがするんすよ。こう、身体の中にぶっとい軸が一本通ってる感じ」
「なんなの、いっちゃんの彼女はサイボーグかなんか?」
いつきくんが笑いながら突っ込んでいるけれど、もしかしていっちゃんはカレンの本質を見抜いているのかもしれない。
「そう、可愛い見た目だけど、中身はどっしりしてるの。カレンちゃんは」
「……へぇ。りゅうせい、よく知ってるんだね。カレンちゃんのこと」
……待って。
いつきくん、また下唇を噛んだ。
思わずいっちゃんを見たら、眉毛を上げて笑いを堪えている。やめて、こっちまで映るから!
「……まぁ、二人がそこまで言うなら協力するよ。友達に嘘をつくのは、本当は気が引けるんだけどさ」
「ありがとう、いつきくん! いっちゃんも! カレンちゃん、絶対喜ぶと思う」
この作戦には、いつきくんの存在が不可欠だ。それに次はいっちゃんを狙っていそうだし、この二人がいないことには始まらない。
「……例の件、順調に進んでるから」
「ほんまに?……え、めっちゃ緊張してきた。どうしよ」
仕事納めの日。だいきくんが来る前に、いっちゃんといつきくんを呼んで最後の作戦会議をカウンターで開く。けれど、二人はカレンちゃんの流暢な関西弁に圧倒され、言葉を失っていた。
「……カレンちゃんって、関西出身なの?」
「そうですぅ。お嫌いですかぁ?」
急にぶりっ子モード全開で何を言っているんだ、この人は。
「いや、めっちゃ好き。方言いいよね。今度、ご飯行かない?」
「あ! いっちゃん、下心ないって言ったじゃん! 彼女に怒られるよ!?」
「バカ、飯に誘うくらい下心じゃねぇだろ!」
「誘うまでのスピードが速すぎてびっくりした」
いつきくんの緊張が解けたのか、どっと笑いが起きた。よかった、いっちゃんを味方に引き入れて正解だった。「邪魔」だなんて思ってごめん。
「ねぇ、りゅうせい。カレンちゃんは知ってるの? だいきの恋愛対象のこと」
「もちろん。……でも、大丈夫だよね?」
「はい、大丈夫なんですぅ。私、鋼の心臓持ってますから♡」
だから、なんなんだそのキャラは。いつきくんは、そういう押しに弱いんだから!
「そっか。じゃあ協力するよ。俺もだいきには幸せになってほしいし」
「ありがとうございますぅ」
にこりと笑い合う二人。この間は目が笑っていなかったくせに、今はすっかり打ち解けている。
「……りゅうせい、下唇噛む癖、うつってるよ」
「うるせぇ」
いっちゃんが「ぐふふ」と含み笑いを漏らす。もう! いつきくんは本当に可愛い子に弱いんだから! あとでお仕置きなんだからね!
「あれ? みんな早いじゃん」
不意に背後からだいきくんの声がして、背筋が凍った。やばい、後ろへの警戒を忘れていた。
「……おはようございます」
カレンちゃんの切り替え、早すぎだろ。それ、絶対に好きな人に向ける顔じゃない。完璧な「業務用の笑顔」だ。
「あ、おはよう。いつきくん、いっちゃん、初詣楽しみだね」
だいきくんはカレンちゃんを視界に入れることすらなく、二人の腕を引いて歩き出した。